名月の季節、ようやく気持ちにゆとりが出来て月を見ようとしたものの、こんどは雨が月を隠している。月は見ようとしない限り、そして月を見る気持ちのゆとりがない限り、月は目に入らない。
雨降りのために名月が見られないのが「雨月」。曇って見えないことを「無月」と言う。
★潜水艦浮かびあがれば雨月なり 杉本雷造
ちょっと意表をついたおかしみのある句。潜水艦がせっかくの名月の時分だから月を一目見ようと浮上したら雨で月が見えなかった。というのが表面上の意味。本来、軍艦ならば天気予報も知っているだろうし、雨が降っているかどうかも分からないという状況は情けない軍艦である。そして巨大な鉄の塊が月見のために海の底から姿を見せたというのがまた意表を突く。
当然に想像の句、あるいは単に雨の中を浮上した潜水艦の姿に月を強引に配した句、どちらかであるだろう。私は素人なので断言はできないが、潜水艦が浮上するのは港の中ではなく洋上だろうから、潜水艦が浮上するのを見た人は他の船に乗っている人ということになる。それは僚艦か、敵の艦船か。後者なら怖ろしい事態である。それとも無関係の商船でこういうことを目にするということはあるのだろうか。
だが句の内容としては、軍艦という全体が武器と化したものをおかしみでくるんだ句、ないし茶化した句ともいえる。黒い巨大な鉄の塊の影と、名月の黄色という対比を持ってきてはありふれている。暗い月の無い海上にさらに光を吸収してしまいそうな黒い鉄の塊を配する方が、不気味さを強調しているようにも感じることがある。おかしみと不気味さ、どちらにも解することのできる情景が目に浮かぶ。
ひょっとしたらこの潜水艦、がっかりして再潜水したのかもしれない。