メランコリア

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少年少女世界推理文学全集 No.19 人工頭脳の怪 シオドマク、ハイライン あかね書房

2023-06-21 17:04:50 | 
1987年 第32刷 内田庶/訳 松下勲/絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


【注意】
トリックもオチもネタバレがあります
極上のミステリーなので、ぜひ読んで犯人当てをしてみてください


人工頭脳ってAIのことかと思ったら、脳だけを生かしておく研究の話だった
シオドマクは初見だが、ハイラインはよく聞く名前なので
ジュブナイルで読めるのは嬉しい


【内容抜粋メモ】

はじめに 内田庶
ここには、科学小説の中でも、推理小説の面白さもいっぱいもった作品を2編入れてみました


人工頭脳の怪 シオドマク

●悪魔の研究




アリゾナ州の砂漠の真ん中の小さな村で怪しい研究をしている兄パトリック
その研究に反対している妹ジャニース

パトリックは死にかけたサルの脳をカラダから引き離して保存し
人工呼吸器で酸素、血液を送って生かし
脳波計で周波数を計っている
いつかヒトでも試してみたいと思っている

この屋敷を訪ねるのはただ1人
不時着用の飛行場の老医師シュトラット博士
博士もパトリックの研究は悪魔だと説得するが聞かない


●飛行機事故
旅客機が墜落し、シュトラットの代わりに行くパトリック

瀕死だったのは、有名な富豪W.H.ドノバン
どうにも助かりそうにないと判断すると
これこそ絶好のチャンスだという誘惑に勝てず
シュトラットに協力するよう頼む

もうすぐ救急車が死体の収容に来るため仕方なく協力し
死亡診断書も書くが、責任を放棄したことでクビになる

ドノバンは会社を息子に譲り
弁護士2人を乗せて自家用機に乗り事故に遭った
そして、大金が行方不明になった

パトリックはドノバンの脳とコミュニケーションをとるため
モールス信号を教えるがうまくいかないため
シュトラットに助言を求めると
ドノバンから来た脳波をパトリックの脳で受信すればいいと答える







●左利きの字
まず、ドノバンの脳を元気にするため
アミノ酸、脂肪、タンパク質を多く与えるとよく眠るようになる
(! やっぱり、この栄養が睡眠の質を改善して脳に良いんだな/驚

ミスで感電させてヒヤっとするが、その後、疲労でうたた寝していると
「W.H.ドノバン」と左利きでサインした文字が書いてある
ドノバンは左利きだった

クルマで離れた距離からも受信できると確認
だが、脳が起きている間、パトリックはぼんやりすることが増える


●殺人未遂
「カルフォルニア商業銀行」
「ロジャー・ハインズ」
「アントン・スターンリ」
という自動手記について調べてみる必要を感じるパトリック

シュトラットはパトリックきょうだいを救うため
電気を切って脳を死なせようとして
逆にドノバンに乗っ取られたパトリックから首を絞められる

ジャニースは、ロスの病院に看護婦として働くといって家を出る
その日から、シュトラットはなぜか脳の世話を黙ってするようになる

カリフォルニア商業銀行で5万ドルを引き出そうとして
支配人から」12年ほど前、ハインズから
大金を預かったままになっていたことを知る

スターンリを訪ね、500ドルを渡す
彼は長年ドノバンの秘書をしていたが
目を悪くしてから給料は半分にされ、クビにされた

ハインズについて聞くと、シリル・ハインズが母親殺しで逮捕された
彼のために弁護士を連れて行こうとして事故に遭った

パトリックもクルマに轢かれて、ジャニースの勤める病院で入院する
頭を打って、激痛がするのに、脳が痛みを引き受けている間は普通に戻る

「ナサニエル・フラー」
名前を調べて訪ねると腕利きの弁護士
ハインズを無罪にしたら5万ドル支払うと交渉

パトリック:
もうすぐ僕はドノバンの操り人形になってしまう
未来世界では、選ばれたスーパー脳により
人造人間のように動かされるのではないだろうか



●殺人鬼
州刑務所にハインズに会いに行く
ロジャーはシリルの叔父で首を吊って自死した

シリルはお金を無心した母親に断られてクルマで轢き殺した
そこれも二度轢いたため、顔が潰れたという

パルス:
陪審員は300人ほどから12人選びだす
断る人もいるから、100人の秘密を探り、無実にする

スターンリ:
ロジャーはドノバンの唯一の友人だが
婚約者と結婚したい一心で大金を借りて返さなかった

親友に裏切られたロジャーは自死
その後、結婚したが、妻は早くに亡くなり、とても後悔した

ロジャーの唯一の親戚シリルを助けて罪を償おうとした


●目撃者




13歳の少女が殺人場面を見ていたと聞いて
パルスのクルマで轢き殺そうとして失敗

シュトラット:
研究室に泥棒が入った
電気を切ろうとして、脳に殺されたんだ!







ドノバンと化したパトリックはジャニースを殺そうと部屋を訪ねる
兄の日記を読んだジャニースは乗っ取られていることを知りつつ説得する

ジャニース:
はじめにあなたが人を憎むから
その人もあなたを憎む
それより、互いに理解することが一番大事なことよ

妹の首を絞めると、ふと自由になる







シュトラットが研究室で電気コードを抜いて死んでいる
自らを犠牲にしてきょうだいを救ったと分かる

シュトラット:パトリックの優れた能力がもっと人々の役に立つほうに向けてもらえれば嬉しい

パトリックは不時着用空港の医師を継ぎ
インディアンのために力を尽くすと誓う

シリルは死刑となり、悪魔の力が消えたことを祈る兄妹




ノバ爆発の恐怖 ハイライン





月基地からのロケットで地球に着いたギリアド少尉
トイレで服などを引き裂いて捨て、探検家に扮する

小男が新時代ホテルに泊まらないかとしつこく客引きする

エレベーターに乗ると、急に混雑して怪しい
小男に財布をスラれて、本名が書かれた秘密機関のカードだけ盗まれる







空気管郵送チューブを3つ買い
重要なマイクロフィルムを3本ずつ入れる

郵便局ではシカゴの私書箱行きの2本と
別に用意したラベルを貼って送る







風呂に入って出ると服がない
残りのマイクロフィルムは別モノと入れ替わっている

上司に連絡しようとすると繋がらない

ホテルから脱出しようとして、2人の警官に捕まり
マルクハイム銃で撃たれて失神

気づくと牢にいる
一緒に入れられているのは、理論物理学者ハートレイ・ボールドウィン博士だと思うが
そのいとこのグレゴリイ・ボールドウィンだと名乗る

トランプで賭けをして遊ぼうと誘われ、暗号でやりとりすると
ここは新時代ホテルで、脱出を手伝うという

本物のマイクロフィルムは秘密機関FBSの私書箱だと教える


●老婦人の正体
世界一の富豪で、貧しい人を助ける親切な女性として知られるケイスリー夫人は
ギリアドがFBSの優秀な一員と知っていて
地球通貨1千万クレジットでマイクロフィルムを買うと交渉
自分の部下にならないかと誘う

断ると、途中で寄ったドラッグストアで会った給仕の少女を
目の前で拷問して殺すと脅す

財布から身分証明書をすって、身代わりがロケットに乗ったから
助けは来ないと明かす

牢に戻り、グレゴリイはギリアドとケンカするフリをして
警備の男を倒し、ヘリコプターを呼んで窓から脱出







●FBS




大陸横断ロケットでFBS(地球連邦保安局)に行き
上司のボン局長に会うと、私書箱にマイクロフィルムはなかったと怒られる

マイクロフィルムには、惑星ごと爆発させることができる
“ノバ爆発”の設計図が書いてある

月にある関係書類はすべて燃やし
実験の関係者は記憶を忘れる注射を打たれた
これまでのことを話すと作り話だと笑われる

局長に麻酔を打って、秘密捜査官を辞めると言って出る
FBSの追跡を逃れるため、マイクロフィルムを持ってると思われるグレゴリイを探すと
牧場に連れていかれる

そこでゲイルという少女と出会い仲良くなる





グレゴリイらはギリアドを月基地から見張っていた
ケイスリー夫人が金の力でマイクロフィルムを手に入れて
地球支配をもくろんでいるため

グレゴリイはマイクロフィルムを燃やしてしまう

グレゴリイ:
小惑星アンチ・アース(いつも太陽の反対側にあって見えない惑星)が
ノバになって爆発して消えた
今の人類にはそんなもの要らないんだ

彼こそがやはりボールドウィン博士だと分かる
一緒に働かないかと誘われ、そのためにはスーパーマンになるテストが必要

ボールドウィン博士:
今の人間に欠けているのは何だろう?
新人類が持つ能力で世界を平和に保たなければならない
いつも冷静に正しい判断ができるように

スーパーマンが地球を支配することになりかねないと反対するギリアドだが
ケイスリー夫人を倒すために、ゲイルから高速語を学ぶ
普通より21倍速いため、考える時間も短縮できる

パっと見ただけで、その場にあるものをすべて目に焼き付ける能力は
第二次世界大戦中、ある大学教師が考えついた

ヒトがもともと持つ五感能力

テレパシー、テレキネス(精神感動移動)には個人差がある


●月の別荘
月世界にあったマイクロフィルムをケイスリー夫人が手に入れて
信管を新時代ホテルにしかけ、ひきがねを肌身離さず持っている
地球連邦の女王にしないと、地球をノバすると脅している

ギリアドとゲイルは兄妹の使用人として潜入し
ゲイルが夫人を殺し、ギリアドが自動信号装置を壊す命令を受ける

マッサージが得意なゲイルは夫人に呼ばれて
機会を見て、絞殺すると警報が鳴る

2人は自らの命を投げて地球を守ると決意する

ギリアド:僕たちは本当のきょうだいになろう

ギリアドも装置とともに爆発する




作者と作品について 内田庶




カート・シオドマク
1902年 ドイツ生まれのSF作家
ヒトラーの政治を嫌い、スイスに亡命
ロンドンからハリウッドに移住

自由を愛し、人間性を尊ぶ

20冊ほどの小説を書き、何本もの映画の脚本を書いた
『空飛ぶ円盤、地球を襲来』は日本でも上映された

本作『ドノバンの脳』も映画化された
ストーリーが映画的









ロバート・A.ハイライン
世界のSF界を代表するSF作家
1907年 アメリカ ミズーリ州生まれ

夜空の星を眺め空想する少年だった
海軍に入り、航空母艦、駆逐艦に乗った
体を壊して、空想をSFに活かした




読書の手びき 滑川道夫
怪奇な面白さの中に、人道主義の精神を読み落とさないようにしてほしい

スーパーマンたちは、冷たさを持った人間の一面も語られている

空想科学小説は、宇宙時代と呼ばれる開発が進むにつれて増えた
ヴェルヌが『月世界旅行』を書いて以来、多くの宇宙小説が書かれた


未来を描いても、現在の世界とつながりがある
地球政府が統一していることも作者の未来図


コメント

海外SFミステリー傑作選 19 ひきさかれた過去 ヒュー・ペンティコースト/原作 国土社

2023-06-21 16:38:57 | 
1995年初版 内田庶/訳 渡辺安芸夫/装画・挿絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


【注意】
トリックもオチもネタバレがあります
極上のミステリーなので、ぜひ読んで犯人当てをしてみてください


このシリーズはほんとうにイラストがゆるいなw

当時のラジオドラマが生番組なのがビックリ

脚本家が台本を書き、オーケストラの生演奏を流して
声優たちが演じるって、今演ったら相当面白そう

でも、テレビもラジオもスポンサーが真実を捻じ曲げていることがよく分かる


【内容抜粋メモ】






●鉄鋼王クレイマー
「あすのニュース」社で社長ミルトンが会議を開き
昔、鉄鋼王と言われるほどの金持ちだったクレイマーが
アイスピックで頭を刺されて殺された事件についての話が出る

「あすのニュース」がスポンサーとなっているラジオ番組の
脚本を書いているビルたちは、その週起きた一番大きなニュースを
ドキュメントドラマにして放送している

クレイマーの死体第一発見者はビル
スペイン大統領について聞きに行くと
部屋には冷蔵庫が1つあるきり

中にはカクテルがたくさん冷やされていて
始終酒を飲んでいるぽいが、まったく酔ってる気配がないのをフシギに思う

クレイマー:
昨日のことを調べれば、明日のことは分かる
人間は昨日したことから逃げられるものではない

この言葉がやけにひっかかった


●殺人事件には触れるな




クレイマーは社の論説委員だったため、宣伝になるから
ビルはミルトン社長からクレイマーの功績について書くよう命令されるが
殺人事件については書くなと釘を打たれる

ビルを育てた恩人サンズ編集長に聞いても
なぜクレイマーがこの社の論説委員になったか
なにも仕事をしていないのに、高い給料をもらっているかは誰も知らない

資料室に目録があるから調べれば分かるし
ワシントン支局のブローから夜0時に情報を電話で話してもらうよう手配してくれる


●切り取られた資料
資料室の受付のジョーンはビルと仲良し

先に殺人課のパスカル警部が来ていて
クレイマーが殺されたのはビルが死体を見つけた5~10分前だという

ビルはクレイマーは自分が殺されるのを知っていたのではないかという推理を話す

1939年の資料のクレイマーの部分が切り取られている
ジョーンが調べると、ラジオ放送用に使われた





ラジオを制作しているのは、脚本家のビル、マネージャーのラニイ
音楽担当のルウ、監督のマックス みんな仲が良い

しかも、半年ほど前にクレイマー自身も持ち出している

同じ資料が社長室にもあるが、それも同じ部分が切り取られていた
そこには大物の写真があったはずと言うルウ

社長が自宅に私用として保管しているものがあるが
2時までに印刷所に回さなければならないため
先にサンズ編集長が借りることになる


●クレイマーの謎
パスカル警部がクレイマーのホテルに行くのに同行するビル

凶器のアイスピックはカクテルを運んだ出前係が忘れたもの
彼のアリバイはあるし、計画性がないため
咄嗟に近くにあったアイスピックで殺したと思われる

クレイマーは大富豪のはずなのに、家の中は何も家具がなく
引き出しに書類などもないし、所持金は314ドルだけで驚く


●悲鳴!
雑誌社に戻ったビルにジョーンから電話がある

社長宅から資料を持ってきて見たら、驚く写真があり
社に1人で持ち帰るのは怖いから、刑事を呼んでくれと頼む

だが、ブローからの電話がきて、ビルはサンズ編集長に代わる







その部屋を離れてすぐ悲鳴のような声が聞こえたが、構わず仕事をしていると
サンズ編集長が16階から落下死する事件が起きる


●ジョーンは?
パスカル警部に事情を話すと、ジョーンは電話をかけた薬局にいなかった

警部は公立図書館で調べて例の記事を読んだ
記事は第二次世界大戦でナチスドイツがポーランドに侵略を始めた時

クレイマーは列車を借りきって
アメリカ人を市外の安全な所に避難させることに成功

その時助かった1人は「あすのニュース」社の大株主クリーク
それで高い給料の理由が分かる

パスカル警部:
サンズが窓から突き落とされたのは
ジョーンが記事のことを話したからだ

ルウは非常線が張られる前に雲隠れした
彼はチェコスロバキア人で、チェコ人を救うために戦時中は大活躍した

パスカル警部はルウを犯人扱いしているが、信じられないビル

ジョーンの身も心配で仕事が手につかないが
なんとかチームの助けも借りて、謄写版係に回る


●ファイルをもどせ
ビルも公立図書館へ行って資料を見ようとすると、ルウに捕まる
ジョーンは無事だが、今夜の放送が終わるまで動かないで欲しいと脅される

ユナイテッド放送局では俳優がセリフ合わせをしている
ラニイが俳優になにか話してから本番が始まる








●筋が違う!
最後のポーランドのワルシャワ駅のシーンで
いきなり台本と違うセリフを喋りはじめる俳優たち

クレイマーが金で列車を貸し切ろうとして
それでは国外に避難する亡命者が皆殺しにされてしまうと止めようとする男

警官が来て、その男を取り押さえると、マックスだと分かる

放送は途中で中止され、監督のマックスはビルが勝手に書き換えたと思い銃で脅すが
ルウはパスカル警部らと来て、警部の一撃で銃を落とすマックス
ジョーンも助かった







資料の写真にはクリークが写っていたが
その背後に警官に連行されるマックスが写っていた

マックスはポーランドの生まれ
ワルシャワ大学で1人の女の子を好きになった

女の子と家族は、避難する人たちと一緒にワルシャワ駅に集まったが
クレイマーが列車を買いきったため、降ろされた

避難民らはドイツ軍に捕まり、強制収容所に送られ、毒ガスで殺された
マックスは収容所から出て、アメリカに渡り、クレイマーを探したが分からなかった

昨日の朝、社内で見つけて、クレイマーだと気づいた

クレイマー:やあ、マックス だいぶ時間がかかったね

と言われてカッとして殺してしまった
ジョーンの電話でサンズも知ったと分かり窓から突き落とした

ラニイらは放送直前に書き換えた台本を渡した

クレイマーは、当時のことを深く後悔し、その後、自分の全財産を
ヒトラーから逃れて国外に避難した人たちを助ける資金に寄付していた

社内でマックスを見て恐ろしくなり、資料を切り取ったのはクレイマーと思われる
それでも逃げずに、毎日酒を飲んで殺されるのを待っていた

ビル:みんないい人間だったのに、殺し殺され合うなんて、なんて悲劇だろう

ルウ:
戦争の急降下爆撃機の音、前線の体験をすれば
逃げ出すことしか考えられないのも分かる

ビル:戦争が生んだ悲劇だ

ジョーン:悲劇を繰りかえさないために、民主主義を壊すナチスみたいなものに反対しなきゃないない



解説 各務三郎
推理小説には、知識を増やしたり、認識を新たにする効果もある(ほんと、そうだね
本書には当時のアメリカの出版社、民間ラジオ放送局のことが興味深く描かれている

作者は登場人物を通じて、戦争を告発している

ヒュー・ペンティコースト
本名ジャドスン・ペンティコースト・フィリップス
1903年 アメリカ マサチューセッツ州生まれ

父はオペラ歌手、母は女優で、小さい頃から世界中を旅して回った

大学在学中から雑誌に短編ミステリを書いて
その後も長編100冊、短編は数百書いている

第二次世界大戦、祖国フランスの地下工作員の経験をもつ
ホテル支配人シャンブランものは有名

巨漢の赤ひげ画家ジェリコなどもあるが
あまり日本で紹介されていない


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