亡くなった私の母の妹に当たる83歳の叔母は、私の家から車で1時間半の所にある老健施設の2階の4人部屋にいる。一人息子は数年前から本州へ単身赴任しているので、滅多に会えない。また、息子の奥さんは近くにいるのだが、家が広くても同居とは行かず、叔母は以前、ちょっとの期間入院した後、この老健施設に入り、2年以上暮らしているのである。
老健施設は、本来は病院に入院していたお年寄りが、家庭生活に適応できるようにするリハビリのための施設で、基本的には6ヶ月間ということになっている様だが、実際には叔母のように「社会的入所」(何らかの理由で家庭に帰れず、そこに居続ける事)をしている人が多い様だ。
今日は途中で妹も誘って乗せ、11時に施設に着いた。叔母には、今日行くと連絡してあったので、すでに外出するスタイルをして嬉しそうに出迎えてくれた。
外出届けを書き、施設の昼ご飯をキャンセルして叔母を外に連れ出した。
この施設の玄関は、外部からの訪問者などは入る事ができるが、内部からは事務室の人に電気錠を解除してもらわないと開かない様になっているのだ。入所者の安全確保のためだろうが、実は誰か家族が連れ出さない限り、入所者は一歩も外へ出ることができないのである。
さらに安全のためか、エレベーターしかないので、叔母は最近では歩くことも覚束ない有様なのだ。(それでも叔母はまだ何とか伝い歩きができるが、入所者の大半の人は車椅子を使っている。昼間でもトイレと食事以外は、ベットで横になっている人が多いのである。)
私は月に1度位の頻度で叔母の所に行くのだが、その度に3時間位は外へ連れ出し、公園や大型スーパーマーケットに行って歩かせたり、食事をしながらお喋りしたり、買い物をさせたり、またある時は海を見にドライブしたり、我が家に連れて来たりもして来た。
叔母の施設の食事では、生もの、果物などは一切出ないので、私は大抵、果物を土産に持って行き、適当な場所を見つけてはそこで食べさせてきた。
今日は妹と3人で、まず昼食を食べに回転寿司屋に入った。叔母の好きな寿司を注文して食べさせたら、美味しいと喜んでくれた。
そこを出てから、札幌の東区にある百合が原公園に連れて行った。薔薇の良い時期は終わっていたが、ラベンダーと百合が見事に咲き誇っていた。
広い公園内を花を目当てにして、足が覚束ない叔母を支えながらゆっくり歩いたら、結構な距離を歩いてくれた。景色の良い所で記念撮影もした。
センターホールでアイスコーヒーを飲ませて水分補給をしたら、叔母は美味しそうに飲んだ。
その次に何時も行く大型スーパーに連れて行った。
ソフトクリームが食べたいというので軽食コーナーで食べさせた。そこで1時間程、他愛ないお喋りをした。
外出届けを夕方までとして来たので時間はたっぷりあるのに、叔母は何度も時間を気にするのだ。毎日の施設の生活を、決められた時間通りにしているからなのだろうか。
最後に叔母は、同室の人達に外出土産を買った。いつもの事なのだが、叔母だけが時々こうして外出できるので、同室の人達にはせめて何か買って帰りたいと言うのだ。見ていたら、今日は和菓子とトマトを買った。
施設に送り届ける途中、「早く死にたい。」と言うのだ。私は、「また何処かに連れて行くから、歩けなくなったらだめだよ。元気でいてね。」と言ったが、返事がなかった。
妹と帰りの車の中で、「これからも時々連れ出してやらないと、本当に歩けなくなりそうだね。」と話した。
老健施設はリハビリのための施設なのに、次第に叔母の身体が弱って行く現実に、私はいつも矛盾を感じるのである。