本当はカテゴリは D だと思いつつも、佐野元春が参加しているからこそこのアルバムを聴こうと思ったので、佐野さんのカテゴリにしました。
2019,1,23発売 DARJEELING GEAEG RECORDSレーベルの4枚目のアルバム
このGEAEGというのは帯の裏面に説明があり、西日本出身のkyOnと東日本出身の佐橋佳幸。それぞれの地域では米GE社製発電機で送電される西日本は60㎐、独AEG社製発電機で送電される東日本は50㎐が標準電源周波数である。ということで名づけられた。
歌詞カードには楽しそうなミュージシャンたちの写真も満載。
一枚ものでセルフライナーノーツもある。
【収録曲】(参加メンバー)
1、Jumpin' Jumping Camellia Sinensis
[佐野康夫(D)]
インスト曲
無国籍な音楽の世界でも
ダージリン・ティーの風味もあるような
温かみもある曲
2、砂雪(featuring 河口恭吾)
[河口恭吾(Vocal)、鈴木慶一(作詞)、三沢またろう(Per)]
河口恭吾を聴くのも久しぶり。
ハイトーン 声質が冬に合っていると感じた歌。
切なさがほどよく悲しみに浸ったりしていない。
鍵盤が雪が降っているよう
3、POP OUT OF THE TEA CUP(featuring 小川美潮)
[小川美潮(Vocal/作詞)、古田たかし(D)、井上富雄(B)、三沢またろう (Per)]
小川美潮の歌は初めてかな?ちょっと思い出せない。
はっきり元気な歌声
落ち着かない
4、Greedy Green
[山本拓夫(Cl、Fl)、笠原あやの(Vc)]
ピアノで始まる
ビルボードのライヴでは何度も笠原さんのチェロの演奏を聴いている。
クラリネットとフルート 山本拓夫の演奏は星の下路の上ツアーまでだったかな?
ライヴ音源
5、Seasickness Blues(featuring 山下久美子)
[山下久美子(Vocal)、KERA(作詞)、佐野康夫(D)、清水興((ナニワエキスプレス B)、田中倫明(Per)]
KERAの存在を感じるのも久しぶりだが、山下久美子の新しい歌声を聴いたのも新鮮。
ビートが効いている
6、Oh Mistake!
[古田たかし(D)、井上富雄(B)、三沢またろう(Per)]
ぷひゅーんという心地よい音が
ゆったりしたトミーのベースにシータカのドラムス。
ほぼホーボーキングバンド的になってきた。
アコースティック・ギターの弦の音が映像となって見えてきそうなクリアーな印象。
7、流浪中(featuring 佐野元春)
[佐野元春(Vocal, Organ/作詞/共作曲/共編曲)、古田たかし(D)、 井上富雄(B)、山本拓夫(Sax)、三沢またろう(Per)]
ホーボーキングバンドです。これ狙いで買いました。
このグルーヴはホーボーキングバンド。
米国歌手のルー・ロウルズ(Lou Rawls)
8、21st. Century Flapper
[山本拓夫(Sax)、三沢またろう(Per)]
インスト曲
ベースなしのドアーズタイプの曲
コミカルな印象もある。
作/編曲:Darjeeling
以下はコピペ
今作のイメージは雪景色の中にある暖かさ
――常にお忙しいおふたりですが、年末年始はゆっくりできたんですか?
Dr.kyOn(以下、kyOn):三が日はね。
佐橋佳幸(以下、佐橋):僕は2日から働いてます。元旦は休みましたよ。いつも通りお酒を飲み続けてるだけでしたけど(笑)。
――年末は『NHK紅白歌合戦』とか見ちゃったりするんですか?
kyOn:僕はダウンタウンの番組しか見ない。コマーシャルのときだけ回してほかを見てました。
佐橋:僕は見てました。ちょうど紅白前に僕、矢野顕子さんのツアー(『さとがえるコンサート2018』)をやってたんですよ。ドラムが林立夫さんで、ベースが小原礼さん。そのふたりが大阪公演の次の日に「明日、朝、早いんだよね」って言うので、「なんですか?」って聞いたら、「NHKに行く」と。「今年最後の仕事は紅白だから」(松任谷由実のバック)って言ってました(笑)。
――新作の話をしましょう。4thアルバム『8芯ニ葉~雪あかりBlend』。これで季節がひと巡りしましたね。
佐橋:4作目がもうちょっと前に出ると見事に春夏秋冬だったんですけど、ちょっと間に合わなくて、冬が2回になっちゃった。始まりが『8芯ニ葉~WinterBlend』でしたからね。ただ、スケジュール的にそうなるってことは制作が始まる前からわかっていたので、初めから冬編を作るつもりでやりました。
――これがシーズン1の完結編ということになるわけですよね。
佐橋:4作でひとまず完結ということで始めているので、それに関しては予定通りですね。
――冬編ということで、“雪あかりBlend”というお洒落なタイトルがついています。
kyOn:『8芯ニ葉~WinterBlend』はクリスマスの曲が入っていたりと、いわゆる初冬を意識したものになってましたけど、今作は1月にリリースすることが決まっていたので、さらに雪深くなった感じを踏まえたタイトルにしようと。
佐橋:このジャケットのデザインもそうですけど、かまくらを外から覗いてるようなイメージ。外はしんしんと雪が降っていて寒いんだけど、なかに入るとほっこり、みたいな。タイトルはもう、2枚目あたりから僕はkyOnさんに頼ってます。絶対すごいタイトルを出してきますから。今回もお見事で。
kyOn:毎回、料理の名前を考えるみたいなものでね。ティピカルなものより、無国籍料理として機能するようなもののほうが楽しいと思うので。
――ゲストの人選は、前作『8芯ニ葉~月団扇Blend』を作っているときから並行してやられていたんですか?
佐橋:そうしないと間に合わないですからね。先方のご都合もありますから、少し多めに候補を出しておいて、誰々にはこの曲をお願いしようというところまで考えてから、オファーするというやり方。それは今までと一緒です。でも不思議といつも思った通りになるんですよ。4作目では佐野(元春)さんは外せないね、The Hobo King Bandのメンバーともやりたいねっていうのは当初から言ってたことなんですけど、それも実現しまして。
――必然的に今回はバンドサウンド色がわりと前に出た作品になりました。
佐橋:あ、確かにそうですね。
――それと毎回思うんですけど、ゲストのバランスがとてもいいですよね。男性と女性の割合もいいし、中堅とベテランのバランスもいいし。
佐橋:そこはいつもある程度意識して候補をあげてるんですけど、運よくそうなっているところもありますね。あと、4作通して言えるのは、基本的に僕とkyOnさんと親しい人、またはこれまでなんらかの形で作品作りを一緒にしてきたことのある人。「初めまして」って人はほとんどいないんじゃないかな。今回、kyOnさんとパーカッションの田中倫明さんが一緒にやるのは初めてでしたけど、それぐらいで。
――では、1曲1曲、話を聞かせてください。まずオープナーが「Jumpin’ Jumping Camellia Sinensis」。カメリア・シネンシスというのは……。
kyOn:お茶の樹の正式名称です。学名っていうんですかね。口にしてみると面白い言葉でしょ? この曲は昔からやっていて、『共鳴野郎』(Darjeeling結成のきっかけになった音楽テレビ番組)では京都のお寺の本堂でやりました。
――アレンジはそのときのものと一緒なんですか?
佐橋:番組のなかで演奏するのでサイズが短ったものを、ちゃんと聴けるように長くしたっていうところ以外は基本的に変わってないですね。マンドリンでスライド演奏をするのと、あとkyOnさんがポータサウンドで弾くといった楽器の組み合わせは、「そういうふうに出来た曲だから、それで録ろうよ」ってことで。
kyOn:ポータサウンドが家にあって、もともとエレピのリフをそれで作ったんですよ。『共鳴野郎』でやるときは小さいキーボードを持っていってたし、普段ライブでやるときはマルチなキーボードで弾くんですけど、これはレコーディングなんだし、しかも4作目だから、今まで使ってない楽器も入れてみようと。やっぱりその楽器の音というのはワン・アンド・オンリーなわけだからね。要するにレコーディングだからって標準的な楽器、チューニングのきちんと合ってる楽器である必要は本来ないんじゃないかってことで。
佐橋:そのポータサウンド、家電量販店の1階の入り口で2~3千円で売ってるようなやつですからね(笑)。ミニ鍵盤のちっちゃいやつ。その内臓スピーカーから出る音がいいよねって言って、そこにマイクを立てて録ったという。
――佐橋さんはマンドリンとウクレレと、あとペダルスティールとバリトンギターを弾いています。
kyOn:普通のギターをひとつも弾いてない(笑)。
佐橋:そうなんですよ。マンドリンはkyOnさんの提案でね。僕はギターの次くらいにマンドリンを弾くことが多いんですけど、kyOnさんもマンドリンを弾くので、「今回はどっちが弾く?」なんてやりとりもあって。今回は僕が弾きましたけど、『8芯ニ葉~WinterBlend』の1曲目「Holiday In Columbo」はkyOnさんがマンドリンを弾いてましたね。
――マンドリンでスライドを弾いてるわけですが、それってギターと同じ感覚でできるものなんですか?
佐橋:ライ・クーダーなんかがやってるんですよ。あと、昔のブルーズマンとかカントリー系の人とかも。ヴァイオリンと一緒でフレットレスの独特の感じがいいというか。で、この曲はふたりでそんなふうにやってたんですけど、今回は佐野くん(ドラムの佐野康夫)に「ここにちょっと味付けしてよ」ってお願いして。
kyOn:それ、面白かったですね。一応、ドラムってことになってますけど……。
佐橋:ドラムと言えばドラムなんだけど、バスドラムを民族楽器の大太鼓みたいに鳴るチューニングにしてもらって。もともと僕とkyOnさんが禁欲的なくらい淡々とリフをやり続ける曲だったので、そこにお話をつける役として佐野くんに工夫してもらった。
――そういった演奏の仕方も含め、実にDarjeelingらしい1曲ですね。タイトルの通り、茶葉がポットのなかでジャンピングしてるイメージが浮かびます。
kyOn:スローモーションで茶葉が浮き沈みしてるのが見えるでしょ?(笑)
Darjeelingの根幹にあるのは“無国籍感”
――はい。続いて2曲目「砂雪」。これは河口恭吾さんのボーカルをフィーチャーしていますが、歌詞を鈴木慶一さんが書かれています。慶一さんにお願いしようというのは、どういうところから?
kyOn:もともとの曲のイメージから、「慶一さん、どうかな」って。慶一さんなら、リアルで過度な表現というよりは、奥に何かが潜んでいるようなイメージを表現してもらえると思ったんです。リリースが1月ということだったので、しんしんと降る雪のイメージというか。で、それを河口恭吾の声という、まあひとつの楽器というかな。それによって表現することで、イメージしていたものがさらに実現できた。書いた人が歌うと、シンガーソングライター的なものになってしまって、その人の持つ意味がついてしまう。この曲はそうじゃないほうがいいと思ったんですよ。
佐橋:恭吾が歌ってくれるってなったのは、慶一さんが書いてくださることになったのと同じ時期で、慶一さんは恭吾が歌うと知った上で書いてくださった。恭吾が歌うのがいいなと思ったのは、わりとハイトーンで、クセのない歌い方をする人がいいなと思ったから。でも歌詞を見た恭吾は「ミュージカルのなかの曲みたいなイメージでいいですかね?」って相談してきて、普通のラブソングとは違う歌だってことをどうやって表現するかということを考えてくれて。自分ではあまりやったことのない歌い方だと言ってたけど、それがよかったみたいですね。
――要するに、エモーショナルになりすぎない歌唱表現ってことですよね。
佐橋:そうそう。それがいいなと思って。まさに、しんしんと降る雪のイメージ。もともとインストでやってた曲に、どういう歌詞と歌が乗ることで、違う表情がついていくか。それがこのシリーズの大きな楽しみなんだけど、これはその喜びが特に大きかった曲ですね。
――3曲目「POP OUT OF THE TEA CUP」。これは小川美潮さんが歌ってます。美潮さんは、おふたりとも長いんじゃないですか?
佐橋:長いですね。この曲はライブで頻繁にやっていた曲なんですけど、kyOnさんが美潮ちゃんがいいんじゃないかと思いついて、確かにそれは面白そうだなと。
kyOn:ちょっとロックのオペラみたいな感じのある曲で、オクターブをそのまま歌える人ってなかなかいないなと思ってたんですけど、「あ、いたいた」って(笑)。
佐橋:それを喜んでやるような人って美潮ちゃんしかいなくて。じゃあ歌詞も美潮ちゃんに書いてもらおうってことになり、ちょうどこの曲に参加している古田たかしの還暦ライブがあったときに、kyOnさんも美潮ちゃんもそれに出ることになっていたので、kyOnさんが直談判したという。
――ジャズ的な感覚もあり、童謡っぽさもあり。確かにあんなふうに歌える人はいませんね。強いて言えば矢野顕子さんくらい。
佐橋:うん。なかなかいないですね。美潮ちゃん、久しぶりに会ったけどなんにも変わってなかった。すごいと思った。
――〈まずはお茶 うまく淹れて〉とか、どこかDarjeelingのテーマ曲のような趣もある歌詞ですね。
kyOn:4作目にして、期せずして(笑)。
佐橋:そもそも僕がイメージするDarjeelingっぽい曲って、まさにこれなんですよ。
――そのDarjeelingっぽさというのを言葉にすると、なんでしょう。
佐橋:なんでしょうね。無国籍感かな。無国籍だけど、ちゃんとロックだし。みんなで、「Procol Harumだね」って言いながら演奏してました(笑)。
――ははは。確かに。あと、kyOnさんのピアノによるブギウギの感じが70年代のストーンズ(The Rolling Stones)っぽくもある。
佐橋:ああ、ニッキー・ホプキンスっぽいですよね。そう考えると、ちょっとブリティッシュっぽいんですよね。
kyOn:うん。
――続いて4曲目「Greedy Green」。室内楽的な曲で、気品があります。
kyOn:もともと室内楽的な音にしたかったので、それを遂に実現できたという。
佐橋:『共鳴野郎』や新世界でライブをやっていたときも、ピアノの連弾のコーナーというのがありまして。僕も頑張ってピアノを弾くわけですけど、これはそのために作られた曲なんですよ。で、kyOnさんは毎回ライブを録音して、記録として残してくれてたんですけど、ある日の連弾がものすごくよかったと。それをエンジニアの飯尾(芳史)さんに整えてもらって、(山本拓夫の)クラリネットとフルートと、(笠原あやの)チェロを入れてもらって完成させたのが、この曲で。
――もとはライブ音源なんですね。だから最後に観客の拍手も残されている。
kyOn:そうです。
佐橋:新世界というライブハウスはアップライトピアノがあったんですが、そこにkyOnさんとふたりでこう、重なる感じで連弾をしててね。僕が真ん中で弾いて、kyOnさんが後ろから手を伸ばして上と下のパートを弾く。二人羽織みたいになるわけです(笑)。その様子がおかしいってことで、みんな大笑いしてるんですよ。だけど内容は素晴らしくてね。
――まさしく紅茶を飲みながら聴きたくなる曲ですね。そして5曲目は山下久美子さんのボーカルをフィーチャーした「Seasickness Blues」。
佐橋:紅茶にまつわる曲をふたりで作っていたときに、紅茶の歴史の本を読んでいて、「この頃にイギリスとインドを船で渡るのって大変だっただろうな。当然、船酔いしただろうな」って思ったんですよ。それで、そういう曲を作ってみようと思ってリフから作り始めたら、変拍子になっちゃった。で、kyOnさんが「この曲は絶対、女性ボーカルがいいよ」って言って、そう言われたらもう女性の声しか聞こえなくなってね。じゃあ誰がいいかって話になったんだけど、その前に歌詞はどうしようかと。
――KERAさんが作詞されてます。どういう経緯でKERAさんに?
佐橋:たまたま有頂天のベースの人がクラウンレコードでディレクターをやっているんですよ。それで有頂天の話になって、僕もkyOnさんもKERAさんのこと知っていたので、船酔いの曲をKERAさんにお願いしたら面白いんじゃないかと。それで直電したら、「やるやる!」って。そうこうしているうちに久美ちゃんが歌うってことも決まって、「これは面白い組み合わせだね」と。久美ちゃんが歌うと、どことなく少年っぽい感じになるんですよ。
kyOn:船に揺られて大人が吐いてるなかで、そういう大人を元気にする“小さなバイキング、ビッケ”みたいなイメージ。
――なるほど、大人を元気にする少年のような歌声というのは、よくわかります。それに、こんな変拍子の曲なのに楽々と乗りこなしている。少しも難しそうじゃなく、ポップに感じられるんですよね。
佐橋:でしょ? そこが久美ちゃんのすごいところなんだよなぁ。キー合わせのときも「これって、拍子、ヘン? あ、そっか。わかった、覚えてくる」って涼しい顔で言ってて(笑)。ちなみに僕とkyOnさんがこの曲でやりたかったのはLittle Featで、そういう意味でも、佐野(康夫)くん、清水興さん、田中倫明さんという3人のスケジュールがうまくハマったのはよかったです。
――久美子さんには、Little Featって伝えてあったんですか?
佐野:いや、特に誰にも言ってなかったんだけど。
kyOn:まあ、演奏してるメンバーは暗黙の了解で(笑)。このふたりがやりたいのはそれだろうとわかっていたでしょうから。
――6曲目「Oh Mistake!」。「POP OUT OF THE TEA CUP」同様、リズムセクションは古田たかしさんと井上富雄さんで、つまりほぼThe Hobo King Band。
佐橋:そう。この曲と8曲目の「21st. Century Flapper」は新世界でやるようになってからできた曲で、新世界はもともと串田和美さんの自由劇場だったところなので、そんな縁もあってお芝居にまつわる曲にしようと。「Oh Mistake!」というタイトルも、自由劇場で上演されてたお芝居の題名を流用したもので、それがアイデアの元になっているんです。これはなんというか、ベイエリアっぽいというか。
――エレキシタールが入っていてエキゾチックサウンドっぽくもあるし。
佐橋:ちょっとドアーズ(The Doors)感もあるしね。あとなんといってもこの曲は、最後に出てくる仕掛けがすごくて。
kyOn:四拍五連。
佐橋:要するに、1小節を5で割るっていう。それが山場の曲で。kyOnさんは割り切れるって言うんですよ。3連のほうがよっぽど割れないと。
kyOn:3連っていうのは、つまり3分の1だから永久に割れないじゃないですか。だから3連の演奏というのは、割り切れないものを割り切れたと了解して演奏している。でも5連というのは0.8ずつ弾けばいいわけだから。
――「わけだから」と言われても、難しくてちょっと理解できないですけど。極めて理数的な。
佐橋:ね。kyOnさん、そういう人なんですよ(笑)。それでみんな、演奏していてその場所が近づいてくると、緊張した顔になってました。くるぞくるぞって。独特の緊張感がありましたね。
kyOn:それによって、むしろ演奏の個性が出るんですよ。慣れたらできるんだけど、慣れないで探り合いながらやるのがいい。
――そうやって曲のなかに自分たちがドキドキするような何かをあえて入れたくなるわけですね。
kyOn:そうですね。スムーズな流れを妙に遮るブレーキのようなものを考えたときに、5連をもろにやるっていうのは、あんまりないなと思って。
――聴き手を驚かせる前に、自分たちがドキドキすることを楽しもうと。
佐橋:はい。しかもそれをふたりでやるんじゃなくて、5人でやるというのが、5人5様で楽しかったですね。
佐野元春との一風変わったレコーディング風景
――7曲目はセカンドラインっぽい「流浪中」。佐野元春さんとおふたりの共作曲で、佐野さんが歌ってます。
佐橋:もう僕とkyOnさんは、この人なくしては語れないというか。kyOnさんと僕が年中一緒にやるようになったのはThe Hobo King Bandが最初ですからね。で、GEAEG RECORDS(ソミラミソ・レコーズ、Darjeelingが設立したレーベル)が発足したしたときには、佐野さんからメールもいただいた。「レーベル発足、おめでとうございます。いつ自分に声がかかるのかなって思ってます」って。でもなんとなく僕とkyOnさんのなかでは最終章で呼ぼうってことになっていて、それで今回は筆頭に佐野さんの名前があがっていたんです。で、一緒にやるなら、この曲がいいんじゃないかと。
――どのようにしてできた曲なんですか?
佐橋:スタンダードで「Tea For Two」ってあるじゃないですか、「二人でお茶を」。もともとはそのタイトルを文字って、「Tea For Three Two」って曲だったんですよ。スリー・ツーのリズムの曲ということでね。それを佐野さんに送ったら、佐野さんが僕らのモチーフに曲を書き加えてきた。だから共作という形になっているんです。やりとりをする中で、最終的に「このメンバーでいきましょう」ってことになり、「じゃあ僕もスタジオに行くから」って。でも「僕の歌はこれでOKだから」って言うんですね。僕らも「え?」ってなったんですけど、佐野さんは「自分の家で録ったデモは本番のつもりで歌ったものだから、それを聴きながらみんなで演奏してほしい」と言うわけですよ。それで全員でスタジオ入って佐野さんの歌とクリックを聴きながら演奏してたら、佐野さんがいきなり入ってきて、kyOnさんがセッティングしてたオルガンの前に座って「じゃあ、いこう!」って言って弾き始めて。僕らが演奏しているのを聴いていたら、閃いちゃったみたいでね。で、オルガンを録って、さらには「ちょっとコーラス入れていいかな」って言って入れて、ついでに雄叫びまで入れて。そうやってできたのがこの曲。早かったですよー。佐野さんのスタジオ滞在時間、2時間切ってましたからね。
――それはすごい!
佐橋:楽しかったですねぇ。できあがってみたら、やっぱりいかにもThe Hobo King Bandらしい曲になってるのも面白いですね。
kyOn:この曲は、間奏のピアノソロの入り口に、有名な人の曲の一節を入れてるんですよ。
佐橋:そう。それが「流浪中」というタイトルと関係あるって聞いて、「さすがkyOnさん!」って思いました。
――洋楽ですか? 邦楽ですか?
kyOn:洋楽ですね。最初、「流浪」って文字を見ていて、小坂忠さんの「ほうろう」から来てるのかなって考えてたんですよ。で、さんずいがふたつ並んでるから、もうひとつさんずいの字で「渦」って書いて、“流浪の渦”っていうのも面白いなぁって考えて。そのときにふと、こんな名前の人がいたなぁって思い出しまして。
――“流浪の渦”……。流浪渦……。あっ、ルー・ロウルズだ!
kyOn:そう。それで、ルー・ロウルズの曲の一節をソロでやってるんです。
佐橋:しかもそのネタふりをソロでやったあとに僕のソロパートが来るんですが、今度は最後のフレーズをトミー(井上富雄)が偶然同じように弾いたんですよ。ユニゾンになっちゃって。アドリブで偶然同じことをやっちゃったという、なかなか奇跡のテイクなんですよ、これ。どういうわけか我々のレコーディングにはそういう面白いことがよく起きるんです。
――そして最後は「21st. Century Flapper」。
佐橋:串田和美さんの『もっと泣いてよフラッパー』の21世紀再演版をイメージした曲で、ニューオーリンズっぽいやんちゃなものを作ろうと思ったんですけど、なんとなくこれはベースを入れたくないなと思って。
――ベースレスなんですね。
kyOn:正確に言うと、ベースレスじゃなくて、ベーシストレス。ベースレスではないんです。
佐橋:あ、そうそう。kyOnさんのキーボードの左手でベースの音をやっていて、それとバリトンサックスとの合わせ技で低域のグルーブを出すというのがテーマだったんです。あと、ギターのリフがすごいワイドレンジで、さらに(三沢)またろうさんがパーカッションを入れてウニウニした感じになっているっていう。もともと僕が最初に家でデモテープ作ったときにも、いろんな素材を合わせて作っていたんですね。そのループをそのまま使ってライブでやってたんですけど、kyOnさんがそこに「鶏の声、入れていい?」と言って、鶏の鳴き声のサンプリングをしてきて僕のループと合体させたんですよ。で、レコーディングでもそれを使ったんです。
――楽器や音の使い方、曲の展開のさせ方が、いちいち予想外で、予定調和なところがまったくない。それがDarjeelingらしさなんだなと、お話を聞いていてつくづく思いますね。
佐橋:うん。偶然起きたことが面白いんですよ。面白いことが起きたら発展させて、いけるとこまでいくというか。確かに僕とkyOnさんのやってることに、予定調和感はまったくないですね。
――さて、ここまで4枚のアルバムを作ってきたわけですが、今どんな気分ですか?
佐橋:Darjeelingのアルバムとして4枚作ってきましたけど、それプラス、川村結花ちゃんのアルバム(『ハレルヤ』)と高野寛くんのアルバム(『A-UN』)のプロデュースもあって、1年数カ月月の間に6作やったわけで。
kyOn:2カ月に1枚!
佐橋:だからまあ、よく頑張ったなと。働き者にもほどがあるなと(笑)。
――確かに。
佐橋:ただ、4作を振り返ってみると、アルバムのために書き下ろした曲はひとつもないんですよ。全曲ライブでやったことのある曲でしたからね。
――じゃあ、もしまたこの続きの新シリーズがあるとしたら、書き下ろしの新曲を?
佐橋:そうですね。やれればいいですね。
kyOn:でもストックもまだあるんですけどね(笑)。
佐橋:そう、まだあるっちゃあるんですけど、新曲を作りたい気持ちももちろんありますし。あと、ソミラミソ・レコーズ主宰者としては、プロデュースもまたやらないとな、とは思ってます。次に僕らがやるべきことは、どなたかのプロデュースですね。まだソミラミソ・レコーズのカタログは、川村結花ちゃんと高野寛くんの2枚だけなので。そのレーベルのいいサンプラーとして、この4枚があるということですね。あと出したいのは、この4枚のアナログセット。このデザインの大きいのが4枚並ぶと、きっと可愛いですよー。
――それはぜひ実現させてほしいものです。
佐橋:やっぱり1枚に8曲というのがよかったですね。ちょうどアナログ盤的な長さですから。かつてCDで15曲以上が当たり前っていう時代がありましたけど、そんなに曲数多いと集中力がもたないですからね。この長さでよかったなぁと思いました。
――ほかに、2019年の間にDarjeelingとしてやりたいと思っていることはありますか?
佐橋:可能ならば、発表会をやりたいですね。作品はいっぱいあるから。こうして形になったものだけでも8曲×4枚で32曲あるわけですから。まあゲストが多いから、どこまで呼んでどういうふうになるかはわからないですけど。でもやりたいとは思っているので、決まり次第インフォメーションしたいと思います。
(取材・文=内本順一)