田家秀樹
ゲスト 佐野元春
反訳しました。
田家秀樹 たけひでき
ゲスト 佐野元春
2年ぶりの新作 BLOOD MOON
境界線のインストゥルメンタル
一人のアーティストを1か月にわたってレジェンドの軌跡を辿る。ラジオで紹介。
M:新作アルバムを出すと言うのは、皆さんにどんな風に聴かれるのかなって、まぁっ、今はインターネットが発達していますから間奏が戻ってきますね。聴いて下さった方から色んな感想や意見をもらうのは嬉しいですね。
T:すでにですね、関わったお三方のゲストからお話を伺ったんですが、今回のアルバムのレコーディング自体は1年半くらい前から始まってたんですか
M:そうですね。曲もだいたい1年半くらい前から書き始めて、12曲収録されていますけれども、ここ最近書いた曲を固めたという感じですね。
T:レコーディングを始まった時に仕上がりのイメージってあったんですか?
M:まあ毎回アルバムを作る時に最終的な仕上がりのイメージは思い描いてないですね。曲を書き散らかし、それをバンドと一緒に演奏をしらかして、そしてやがて形になっていくという感じですね。
T:ええ。なるほどね。1曲目の境界線もそん時からあったんですか?
M:そうですね。境界線は前作「ZOOEY」で「世界は慈悲を待っている」という曲。これがモータウン・ビートの良い感じのポップな良い曲ができたので、この延長線上の曲をやりたいねってことでやりました。
T:あっ 前作の延長線上にあった
M;はい。
T:ではそん時にはもう次のアルバムのことが頭にあったということなんでしょうか?
M:コヨーテ・バンドは結成してもう11年目になるんですけれども、クリエイティヴなピークが訪れていますので、ここで自信作でライヴを沢山やりたいと思っています。
T:バンドのピークも訪れてますが、佐野さんの中でも何度目かのピークが来てるんじゃないかっていうことを皆さんが仰ってました。
M:はい。この番組に出演してくれた、本当に僕のコア・スタッフですよね。製作スタッフであり、バック・ミュージシャンたちですよね。本当に僕のことをよく理解してくれて、彼らともう10年以上の付き合いですから僕のやり方というか、そう熟知した上で彼らは技術をかしてくれていると言う。だからもっとも信頼している彼らです。
T:なるほど、そんな話も伺いながら進めていけたらなと思います。
それではアルバム「BLOOD MOON」から1曲目「境界線」
T:冒頭のこの決意という 言葉にとても強い意志を感じる訳ですが、
M:この「境界線」という曲は、今回のこのセッションの中でも早いうちにできた曲です。曲は早めに出来て、音楽的には前回の「ZOOEY」の最初のトラックである「世界は慈悲を待っている」のモータウン・ビートを意識した軽快な曲だったんですけれどもね、今回も境界線で同じようなアイディアで演奏したら良い感じになったので、それに合わせて言葉もすこーし合わせて書きなおしたという感じですね。
T:なるほど。
M:ただこの1行目は最初からありました。
T:この決意は何処へと向かっているのだろう
M:はい。まあ人は誰でも決意をしなければならない時がありますからね、その瞬間というのはとても大きなエネルギーが生じますから。それを歌にしました。
T:ええ、それでも曲はとてもクールでソウルフルなグルーヴのある
M:そうね、洒落てるって感じだね。ソウルフル、そうですね。僕のソングライティングの要って言いますかね、まあベーシックな考え方ですけれども、人に十 伝えようっていうんだったらば、八の表現で十に伝えるという
T:なるほどね
M:そういうクールな表現が好きですね。9:36
T:深沼さんがですね、演奏は一度か二度くらいしかやってないんじゃないかって言ってましたけれど
M:ええ。僕の中にいくつかの音楽性があるんだれども、この10年間、コヨーテ・バンドと共にね全国ツアーを沢山やってきた。そのやり方、佐野元春の音楽の傾向そのものをバンドは熟知している。で、それは僕が押し付けたものではなくって、バンドにもう既にあったものですよね。まあ僕は70年代音楽で育ってきましたけれども、彼らは90年代以降の音楽で育ってきた。ただ良い音楽、例えば60年代70年代のソウルとかロックン・ロールとか、良い音楽についてはジェネレーションは離れていても共通の認識があるんですよね。この音楽は良いよねっていう。
T:はい
M:まあ交差するところでこのBLOOD MOONが出来てきたのかなあと思います。
T:それが今夜のテーマかもしれません。
T:ゲストの方はですね皆さんがレコーディングが滞ったことが無いって仰っていたんですが
M:あーそうだね、僕のレコーディングはどんどんアイディアを試していく、そこでトライアル&エラーでね止まることなく進んでいく。一番大事にしているのはライヴ感。僕達はライヴバンドなんで、スタジオの中で煮詰まることなく、いつも迷った時にはですね、あの何千人を前にしたあのライヴ感。あの感覚に立ち戻って、演奏します。
T:佐野さんの中で、もうデモの時から形が見えているんで
M:うん
T:それを僕らは音にしたっていうような言い方をしてましたよね。11:43
M:とは言っても僕がオリジナルの原石みたいなものを彼らに提示して、そして磨いてくれるのは彼らですからね。
T:ああなるほど
M:その磨き方にも色々とあるわけで、コヨーテ・バンドのメンバーひとりひとりの経験とテクニックですよね。そしてもう一つ大事なのは彼らのロックン・ロール音楽に対する愛情とそれらを総合して僕の曲を本当に上手く形にしてくれました。
T:その場でセッションして、しゅんちゃんちょっと弾いてみてって感じでその場でアイディアが生まれて形になっていったりする。
M:そうですね。大事なのはソングライティング。彼らもソングライターですから、他のバンドと違うのは、このコヨーテ・バンドにはみんな、ソングライターがいて、しかも歌い自分たちで演奏する。そういう連中達が集まっている。だから僕がまず曲を持って行った時に、佐野元春はこの曲で何を伝えようとしているのか、という一番大事なところをまずキャッチアップしてくれていると思うんですよね。そこからの演奏。彼らが技術的なことだけではなく、彼らがソングライターであるというところから、僕の曲を本当にちゃんと理解してくれているところから始まっている。これが上手くいっている所じゃないかなって思います。
T:そういった皆さんにデモを聴かせる時に、説明もされたりするんですか
M:説明はないですね。僕がもう片っ端から歌っていけば彼らがそれに付いて来てくれるという感じ。
T:あー、(渡辺)省二郎さんが、何が起こるか解らないから皆緊張してるって言ってましたけど。(笑)
M:何が起こるか見せないです。って言うのは、そこで演奏のスリルが失われますから、僕自身は解っていても、それは皆に見せません。ただミュージシャン同志ですから、皆カンが働きますから僕がこの次に右に動くのか左に動くのか、それを彼らはカンでぱっと解ってくれる。だからイチイチ説明しないです。クリエイティヴをして行く時の基本姿勢ですよね。コンセプチャル・ワークではないですから、インプロビゼーション、そこに起こるハプニングを期待して我々は演奏していますからね。
T:あーはい。去年のツアーとか、クリスマスの中で曲が沢山どんどん出来ているんで2枚組になるかもしれないよって仰ってたでしょ?
M:はい。まあそれは事実ですね。このセッション「BLOOD MOON」レコーディング・セッションでは、20曲以上書いて、うち18曲、19曲ぐらいレコーディングしたと思います。その中から12曲に絞りました。
T:残りはじゃあ
M:今回のこのアルバムの枠というか、収まらなかったので、また別の機会を持って発表したいと思っています。
T:今回のアルバムに選んだ12曲の選択のイメージというのはあったんですか?
M:直感だね
T:直感
M:皆とレコーディングして、スタジオ中でスピーカーから流れれば、これは自分の中でどう位置付けるのかが良くわかります。
T:年末にTVのドキュメンタリーを拝見していて、ビートの源流をたどるという、トリニダード=トバゴに行かれて、スティール・パンの本当に没頭しているというドキュメンタリーがありました。
M:(佐野さんは笑いながら そうねー)あのドキュメンタリーは凄く楽しかったし、皆さんまだ見てない方もおられると思いますけれど、是非見て頂きたい。再放送もあると思うからね。トリニダード=トバゴそしてその先の西アフリカにも行きましたし、結局ビートの源流を探るというドキュメンタリーでしたね。えーミュージシャンである限り、そのビートというところからは離れられない訳で、自分が今この音楽の中で使っているビートのルーツを探るというのは凄く興味あることでしたし、勉強になりました。
T:世界で有名なそのスティール・パンの奏者のところに弟子入りというんじゃないですけど
M:そうですね。
T:納得するまで弾けるようになるまで、(そうですねって照れ笑いする佐野さん)一晩中かかって練習されていて今回のアルバムにはスティール・パンというかそういう打楽器がフューチャーされるのかって思いましたけれど
M:他の音楽文化に触れてそのままにダイレクトに出すというやり方もあるでしょうけれども、やはり僕は何よりコヨーテ・バンドという素晴らしいバンドを持ってますから、コヨーテ・バンドと共にそうした音楽的な影響を消化した上で滑り込ませる。
T:ああなるほど。
M:僕らの音楽の中に滑り込ませる。そういうやり方です。具体的に言えば、素晴らしいパーカッショニスト達に出会ったんですけれども、その独特のリズム。それは今回の「BLOOD MOON」アルバムの中で「私の太陽」とかそうした処に表しました。
T:アルバムのタイトルっていうのは、どんなふうに決めて行ったんですか?
M:これは2曲目の「紅い月」という曲を書いていて、まあ自分でレコーディングしたあと、ざっくり聴いてみてね、まあ詩の内容も含めて、これがアルバム全体のムードをけん引するものなのかなっていう直感があり、紅い月、BLOOD MOON、こういうタイトルにしました。
T:どんな中で出てきたんですか
M:何回かBLOOD MOONを肉眼で見る機会があって、そん時にインスプレーションを受けて、詩を書きました。
T:ええー月食
M:はい。まあ非常に強烈なイメージがあったので、そこから何日かして書いたんです。
「紅い月」
T:「境界線」の中の決意というのと、この「紅い月」の中のある種の達観みたいなというか。自分たちが今どこにいてっていう、その年齢だとか人生だとかってことを踏まえながら、アルバムのある種の精神的な出発点とでも言うような
M:まあ、十分その人生の中で成熟した人たちの歌ですよね。「紅い月」について言えば敗北者に向けて声をかけているわけだけれども、本当の敗北とは何だろうか ということを問いかけて、それからロック・ミュージックってとても不思議で、リリックだけ取り出すとね、ネガティヴに聞こえるものも、そこに適切なビートとメロディとソングライターの声が重なるとね。ポジティヴに聞こえてくるという、これはロック・ミュージックにしかできない特別な表現ですよね。そしてそこで上手くいくと、どんな表現フォーマットよりも汎用性が高く、また力強いメッセージとして人々に伝わっていく。だから僕は35年近くずっとこのロック・ミュージックのフォーマットでやってます。非常に魅力的ですよね。
T:この大人になるっていうことについて、今あらためて思っていることはあるんですか?
M:ソングライターであれば、誰でも大人になるってどういうこと、成長するってことをテーマにね曲を書いて来ていると思うんですよね。ビートルズにしてもストーンズにしてもデヴィッド・ボーイにしてもボブ・ディランにしても 僕も14歳くらいから曲を書いていますけれども、大人になっていく、成長するって僕にとってずっと、ずっと大切な僕のテーマです。ただ18歳の時に書いた曲は18歳の時に見えた景色。自分の近い友達たち、自分の年の近い17、18の友達たちのことをスケッチしますし、今自分の目に映っているのは17、18ではなく、30代40代50代 今社会の中で戦っているね大人たちを見て歌っている。しかし、テーマは同じですね。成長ってどういうことだろう。成熟ってことはどういうことだろう。
T:つまらない大人にはなりたくないって言った若者たちが今どうなっているのかっていうことも、このアルバムの中に見える気がしますものね。
M:どんな文学もまた音楽もね、この成長とは何だというところはね概ね凄く大事なテーマになっているし、色んな芸術家たちがそこに、それなりの答えを、表現をですね出して行ってるように思いますね。
T:コヨーテ・バンドがですね2007年に「COYOTE」、「ZOOEY」が2013年に出て、2015年に三作目でコヨーテ・バンドが2005年からのレコーディングに始まって、その前Mellow Headのアルバムに参加したり、しているところから始まっているわけで、
M:そうですね。コヨーテ・バンドの仲間たちというのは、元をずっと辿っていくと深沼君とか深沼君の音楽をバッキングしていた友人たちですよね。僕からするとGREAT3≪1992年、ロッテンハッツのベーシストとしてデビューした高桑圭(Kiyoshi Takakuwa) が1994年の解散後は片寄明人、白根賢一とGreat3を結成。≫と付き合いはありましたし、言ってみれば自分の音楽を10代の頃に多感な頃に聴いていたロック表現者たちっていうかな。というのが何となく集まったという感じかな。
T:そのころは、こういうバンドのある種の成熟期を迎えるというようなことを彼らには期待はしていたんですか?
M:特にね、それは期待してない。とにかく良い音楽良いロックン・ロールが奏でられれば何歳でもかまわない。それが僕の気持ちですからね。ただ彼らは90年代以降のオルタナティヴなロックを本当によく聴いてますし、僕は70年代のロックン・ロールを聴いてたし、そこで相通ずるものがあったんですよね。まあエックス・バンドであるHKBとは違った新しいバンド表現ができるかなっていう期待はありました。
T:アルバム「COYOTE」が2007年に出た時にですね。佐野さんが「このアルバムは『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』と同じような意味のあるアルバムになるだろう」って言われているんですよね
M:あーそう言ったのは忘れましたね。
T:笑
M:『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』は80年代の僕の転換期にあったアルバムですし、「COYOTE」もですね、エックス・バンド、HKBから離れて新しくやっていこうというところで出したアルバムですから、気持ちの背景は似ているのかもしれないね。
T:スパムさんが言われたんですけれど、「COYOTE」で一回佐野さんはすべてを吐きだしてしまったんじゃないか。
M:「COYOTE」アルバムでね、はい。
T:で「COYOTE」と「ZOOEY」の間にHBKと組んだセルフカバーアルバムである「月と専制君主」がありましたでしょ。「月と専制君主」の役割が凄く大きかったんじゃないかって言われてましたけどね
M:うんうん。なるほどね、そういう見方もあるかもしれないね。
T:改めてずっと聴いてみると「月と専制君主」はやっぱり凄い意味を持つなって思ったりしますけどね。
M:整理すると、自分のバンドということで振り返ってみるとね、80年代のTHE HEARTLAND、90年代のHOBO KING BAND、そして00年代このCOYOTE BANDですよね。どのバンドのミュージシャンもplayabilityが高い凄い良いミュージシャン達、やっぱり音楽に対する愛情、ロック音楽に対する愛情が人並み以上ですよね。なのでずっと一緒に音楽をやっていて触発されるものもあるし、楽しいし、どのバンドも楽しい。どのバンドも10年以上やってますからね。このCOYOTE BANDもあっという間に結成してから11年目ね今年。クリエイティヴなギグが出来ているということで、これは僕にとっては嬉しいことなんですよね。バンドの成長を見てきましたから、はい。まあその中で僕がクリエイティヴな作業をやっていく時にね、やはり迷ったりすることも多分あるんですよね。そうする時には少し前に進んで、少し後ろに下がってっていうことを意識的にやりながら少しずつ前進していく。で今のCOYOTE BANDと凄く先進的な現代的な表現を追求しているとしたら、そこで迷いがあったら、今一度HOBO KING BANDの彼らと一緒にルーツ的な自分の音楽に立ち戻って、自分の方に居たんだってことを確認し、そこで良い作業をして、もう一度COYOTE BANDに戻ってきて、新しいことをやるっていう、かのプロセスをね できているってこと自体が凄くラッキーですし、二つのバンドを意味のある形でね、少しマネージできていることってとても大変なことじゃないかなって、僕はとても恵まれているなと思っています。
T:なるほどね。それで『月と専制君主』がそういう意味を果たした。
M:はい。
T:それがあるから『ZOOEY』も生まれたし、今回の『BLOOD MOON』があるんだって思ってても良いんでしょうかね。
M:特に『月と専制君主』アルバムもうそうですけれども、『ZOOEY』アルバムの存在も凄く大きい。『ZOOEY』は広いジェネレーションから「いいね」って評価を得たアルバムだったんですね。それまで僕の音楽はどう聞かれているか、古いファンは僕の80年代の音楽しか聴いてない感じもあるし、90年代に良いことをやっているんだけど、何か90年代に全然スポットが当たっていない。みんなポップ音楽なんてのはノスタルジーでね、只のオモチャみたいなもんなんだろうって、沈むこともあるけれども、しかし、しかし、僕はリリースしてきたアルバム一つ一つに対しては個人的に凄く意味のある作業でしたから、どのアルバムも自分のヒストリー中からカットする訳にはいかない。全部、全作が礎になって次のアルバムが出てきている、その連鎖なんですよね。
T:なるほどね
M:従って今回の『BLOOD MOON』アルバムは前回の『ZOOEY』アルバムがあって 出来たものだと思う。『ZOOEY』アルバムを多くの世代の人たちが支持してくれた、そこで得た自信を次の『BLOOD MOON』アルバムに拡大して作りこんでったって感じですよね。
T:それがこの2年という早いタームで生まれたんですか?
M:そうだね。
「優しい闇」
T:このバンドの加速感っていうんですかね、たまりませんね。
M:そうですね。精神面ではご機嫌で、ドラムのグルーヴも最高だし、バンド自体が、もううねっているでしょ。やはりね10年間全国ツアー何回もやりましたけれども、そのライヴでの良い経験が今回のBLOOD MOONに全部注ぎこまれているんですね
T:ええ、文明の果てに泳ぐ二人 というんでしょうか この二人、君と僕のファンタジー というんでしょうかね。これがまあ佐野さんならではのロマンティシズムがあるんだろうって思うんですけれど、 月と毛皮にくるまってというこれが凄く好きですね。
M:ポジティヴな表現というものは、まあ日常 詩を書いているうえで、とても大事なものなんですよね。やはり論文ではないですから、一つの現象を見てみて、あ、このことをを詩にしてみようとした時にスケッチしようとするんですが、自分の目の前で展開されているものが残酷であればあるほど、表現上、僕が忘れてはならないのは
官能とユーモアですよね。
T:官能とユーモア ね
M:ええ、そこを忘れないようにしている、そうするとロマンチックな表現がふと生まれてきたりしている。それが歌になり、特別なものとして伝わっていくものになってるんじゃないかなって信じています。もともと物事は多面的ですから、ポップソングの詩を聴いてみると、よくインターネットの中にあるブログ日記のようなねもので終始している物も少なくないんじゃないかって思うんですけれども、もっともっと多面的な現実をやっぱり多面的に表現していく。これがポエトリーであるって僕は思っているんですよね。そこで一番必要なのは、って言うか、欠けてるのは、ユーモアのセンスと官能だと思うよ。
T:なるほど
M:政治家にも欠けてるし、経済人にも欠けている。世の中全体に欠けているよ。
T:はいはい。そういう曲がこの辺は並んでおります。
J-POP LEGEND FORUM 今年はデビュー35周年 2年ぶりのアルバム『BLOOD MOON』を発売したばかりの佐野元春さんの軌跡を辿る一か月、今週はパート4、最終週、佐野元春さんご本人をゲストにお送りしております。
アルバムのですね、曲順がとっても印象的で、それぞれの流れがですね練り上げられているような気がしたんでですよ。
M:プロですからね。曲の流れというのは僕達ライニング・オーダーって言ってるんだけれども、ここは凄く重要に感じて欲しい。CDの時代ですから、1曲目から12曲収録されている。その12曲を最後まで聴いてもらうために、曲と曲の間のイメージが増幅していくようにね、何とかこう工夫して最後まで聴いてもらおうとします。
T:「境界線」と「紅い月」はですね、僕ら今こうなんじゃないかというある種の現状認識が行われているとしたら、「本当の彼女」と4曲目の「バイ・ザ・シー」では日常と週末の生活ソングのような、5曲目の「優しい闇」6曲目の「新世界の夜」7曲目の「私の太陽」と、ここ凄いですよね。
M:はい。
T:不条理、理不尽、残酷な世界で生きる に向かい合って
M:はい
T:それでいて決意が見える
M:BLOOD MOONの世界観はとても多面的で複雑で、わかりにくいものではないかなって、まあ自分の中では思っていたので、友人たちにプレゼンテーションする時に最初っからその解りにくさとか複雑さとをね出すんじゃなくて、まずは皆元気?元気でやってた?っていうような感じで挨拶から始まって、僕らの日常ってどうなってんだってことを話し合いながら、だんだん深い所に行ってく感じかな?一番最後は一番サイケデリックなところまで行っちゃったけれどもね「東京スカイライン」でね
T:省二郎さんはですね、「新世界の夜」をですねサイケデリックな気がしたって言ってましたよ。
M:はい。今回のアルバムでは「境界線」とか「本当の彼女」とかは割とフラットな感じでだけれども、概ねサイケデリックですね、僕が出したアルバムの中では最もサイケデリックなアルバムです。
T:「私の太陽」なんかもそういう一曲ですよね。ちょっと歪んでいるって言いますかね。
M:ドラッグです。
T:英語のタイトルが付いておりまして、「優しい闇」はですねEVERYTHING HAS CHANGED、「新世界の夜」はPERFECT WORLD、「誰かの神」はTHE ACTOR、「いつかの君」はHARD TIMES
この日本語のタイトルと英語のタイトル、イメージがあるんでしょうね。
M:一つ一つの曲というのは言ってみれば映画みたいなもんですから、自分にとっては。
それぞれの曲にはそれぞれのキャストっていうか、主人公がいて、時代があって設定があって、物語がそこにあって、この1曲をもし映画化するとするなら、そのタイトルは何だろうっと考えてつけるタイトルが英語のタイトル。自分にとって映画のタイトルです、日本語のタイトルは歌のタイトルです。
T:なるほどねー。それぞれの曲調がですね本当にCOYOTE BANDの充実ぶりが見える。
M:まあ僕の中には本当に沢山の色んな音楽素養がありますから、それを集まってくれたミュージシャン達がどういう音楽表現が得意かということを僕の方で見抜いて、彼らの得意な音楽表現、演奏形態それをまとめて、僕の作品としていくという。それは僕の音楽プロデューサーの視点でやっているところです。
T:8曲目の「いつかの君」が若干、レイド・バックしている気もしたんですが、ここを挟んで後半聴いてみたいと思います。
「誰かの神」
T:9曲目の「誰かの神」を聴いて頂きました。この曲だけずっと歌詞が無かったと聞きましたけれど
M:インストルメンタルでしたね。最初はね、はい。
T:COYOTE BANDのテーマとかっていう
M:そうですね、いつかは詩を付けようと思っていました。
T:この9曲目の「誰かの神」とですね10曲目の「キャビアとキャピタリズム」これはファンク繋がりのように思えましたね。
M:そうですね。はい。COYOTE BANDの得意の1つですよね。70年代のニュー・ソウルをロック的に解釈したサウンドですね。
T:成程ね。
M:僕も好きですし、彼もその70年代的なニュー・ソウル的なものを彼らの年代で聴いていたとは思えないんだけれども、90年代以降のオルタナティヴな音楽を経由した後の70年代ニュー・ソウルの解釈だなっていう感じ、まあそれが二つが出会って、こうして一つのもになるって面白いものじゃないかなって思います。
T:成程、それがこのCOYOTE BANDの世代を超えている音楽の繋がり方ということでもあるんでしょうね。で、今回のアルバムで目を引くのがアートワークでもあるわけですが、イギリスのデザイン・チーム「StormStudios」彼らと組んだ訳ですね。
M:そうですね。僕は70年代音楽で育ってきましたから、言ってみれば30センチ×30センチのブラック・ビニールのレコードですよね。そこには必ず良いアートワークがありました。音楽とグラフィック・アートの統合した、一つの総合アートの楽しみというものを10代の僕は得てきた訳なんですよね。で80年代に入ってCDになり、グラフィックの表現面積も小っさくなってしまったから、なかなか音楽とグラフィック・アートの総合的なアート表現というのが難しくなってきたんだけれども、ここにきてまたアナログ盤LPが若い人たちも含めて聴かれ始めているというのを聞いて、今回僕のレーベルでは30センチ×30センチのアナログ盤を出すことにして、そこにはグラフィック・アートもしっかりしたものが良いだろうってことでイギリスのヒップノシスの流れをくんでいるアートの師に会って、このBLOOD MOONの曲を何曲か聴かせ、で、その詩を間に挟んで、ディスカッションして、詩の内容から日本の状況からイギリスの状況、そして互いの日常的な会話ですね、その中からヒントを見つけつつ今回のグラフィック・アートに繋がりました。
T:成程ね、まあ色んな解釈ができますものね。
M:色んな解釈があって良いと思うんだけれど、一番大事なのは中の音楽とグラフィック・アートとの持つ一体感というかね、総合アートとしての魅力というか。やっぱり18歳から25歳の人たちに楽しんでもらいたいと思っている。
T:そういう世代を超えたバンドと新しい作り上げられた訳ですが、今の日本のロックというのは、どんな場面っていうか、佐野さんの中ではどういう風に映ってるんですか?
M:すごくバリエーションがあって良いんじゃないかなあ?
T:肯定的に映ってる?
M:はい
T:30周年を迎える辺りから佐野さんが一段とエネルギッシュになっているってゆう風にも見えるんですけれど、それはご自分でも自覚してらっしゃる?
M:情熱は消えてないのでね、思うままに進んでます。
T:ええ
M:同時代の日本のアルバムに比べても、ぶっちぎりで質は高いと思います。
T:ぶっちぎりで?
M:はい。ぶっちりぎで凄いアルバムだと思う。
T:全然違うものが出来上がっている感じはしますね。
M:うーん。全然違うものって?
T:つまりその、ある種のコマーシャリズム的なものであるとか、商業主義的なものであるとか、聴き手に対して妥協しているってことではない。
M:まあ僕は商業主義は凄く肯定している。ポピュラー音楽ですからね。そのポピュラー音楽の中で出来る自分の良い表現というものが必ずありますし、でも商業主義にぶら下がっちゃうようなみすぼらしい格好はしたくないと思っている。商業主義を超えて表現するってことが大事かなって思います。
T:成程、何を伝えなければならないかとか、このアーティストには世界がこんな風に映っているんじゃないかってことがちゃんと見えるアルバムっていうのが無いんで、そういう意味では非常に鮮明なアルバムだなって思いますね。
M:今の時代に何か言いたいことが無いということこそ僕は不思議な気がするけれども、今の時代だからこそ何かすぐれたロック表現が出てくるだろうし、優れたポエトリーが出てくるはず。って僕は見ている。
T:そうでなければいけないですけれどもね
M:10代20代からは出てきてないの?そこが大事だと僕は思っている。15歳から25歳だ。もし15歳から25歳でそうした表現に向かう、若しくはそうした表現を既にしているというバンドやソングライターが居たら、是非紹介して欲しい。
そういう新しい才能に出会うというのも僕にとっては凄く楽しいことですね。それはNHKの「ソングライターズ」で自分より下のソングライター達と色々とソングライティングについて語り合えたことを切っ掛けにね、新しい時代に新しい才能は居ないのかなっと。こうした今、もうインスプレーションがもう凄く溢れているこの時代に!
T:ええ
M:それなりの表現をしているロック・ミュージシャンやソングライターが是非会いたいもんだって思ってます。
T:インターネットの世界というのが、そういう意味では新しい才能が登場できる場になっていますが
M:まあね、新しい才能が登場できる場にもなっていると同時に新しい才能も潰している。それも現実だ。
T:ええ、で、そういう中でですね。アルバムの最後の2曲。11曲目「空港待合室」にはですね 時が経って景色が変わった とうのもありましたし、けれど忘れられない歌がある 笑うにはまだ早すぎる とも歌われてますね。
M:その前の曲ですよね、後半に当たりますけれども「キャビアとキャピタリズム」とかその前の「誰かの神」とか、この曲は何についての曲ですか?と尋ねられたら単純に答えるとしたならば、ファシズムや全体主義に対する冷笑だよね。
T:はいはい。
M:シニシズムだよね。シニカルな投げかけだよね。それをロックで歌い飛ばしてる。演奏して飛ばしてる。という感じ。そうした気持ちを少し和らげるために「空港待合室」。まあそういう人生の中ではそうしたシニカルな視点だけになりかけている毎日じゃないですから、僕らの家族もいるし友人もいるし恋人たちもいるわけで、我々は日々の地味な生活の営みを毎日続けなきゃならない。その認識に立ってば、もう一度生活に立ち戻るとしたら僕たちはどの視点に立つだろうか。特に僕自身を立たしたのは「空港待合室」だったという話です。
T:成程ね、そういう意味では全体のシステムと個人というテーマは、80年代からずっと歌ってきているテーマでもある訳で全く変わってないテーマですよね。
M:全く変わってないです。手を変え品を変えです。(笑)
T:成熟しながら色んな事が解ってきながら手を変え品を変え。
「東京スカイライン」
T:この曲は最後の曲にするんだって決めてからエンディングの曲の長さを佐野さんがこの長さにしようと佐野さんが仰ったというような話がありましたね。
M:アルバムの中のある1曲として、制作したんですけれども、時間が進むに連れて、この「東京スカイライン」という曲がアルバムを締める最後の曲になるだろうなっという思いを途中で感じて、その時からエンディングをすごく長く作り変えてますね。
T:で、リバーブも変わってる。
M:はい。曲の最初から最後にかけて聴いてる人が判らない程度に少しずつリバーブを深くしてってますね。曲の始まりと曲の終りと聴き比べてみると、このリバーブ、残響の深さが全然違う。何を示しているかというと、良きキャメラでいうと、非常に近い所からクローズアップから曲が始まって、だんだんだんだんと引いて行って、深くなり、更に広い視点で終わっている。そういうことを表わすためのサウンドの仕掛けですよね。
T:で、それがですね。継続感とか持続感とかにも繋がっている。この先がきっとあるんだろうなっていうような余韻も感じられますね。
M:この曲はサイケデリックだと思いますね。ギターにしても通常のチューニングじゃなくて、ギターは全部で6本入ってますけれど、全部オープンチューニングで、演奏しているので、ある人が聴くとトラッド風にも聞こえるだろうし、ある人が聴くとサイケデリックにも聴こえると思います。
T:成程、そういう不思議な響きになっているということですね。
M:はい。
T:尖ってますね。
M:そうですかね(笑)こういう時代だからね、表現者はねピリピリしてます。そんなこと言うなとかね、センサーシブが働いたりする、表現者というのはトラウマになりますから気を付けた方が良い。
T:八月からツアーが始まりますが、このツアーはどんなものになるんでしょう?
M:八月というと夏の季節感もありますから、すごく開放的で、楽しくてビートに溢れたCOYOTE BAND全開のね ツアーにしたいと思ってます。
T:まあ曲がですね今回も沢山生まれてる訳で、またすぐに次のアルバムがあるんじゃないかっていう声もありますが
M:アルバムにするしないは その時の流れですね。ミュージシャンにとって一番大事なのはやっぱりライヴです。極端な話、ライヴをずっと良い感じでを続けていられればね、レコードなんて作らなくたって良いと思ってる。ただ新しい曲ができて、多くの人に一辺で聴いてもらいたいと思う時はね仮の形としてね、レコードというものを作りますけれども、で、そうね次のアルバムはいつになるのかは解らないけれども、でも曲自体は沢山あるのでね、思いついたらまた形にまとめて、またファンの皆さんに披露できると思います。
T:成程ね、80年代に書かれた詩の中にですね レジェンドなんて信じない って歌詞があったなんて思いましたけれども
M:そうですね。90年代の3番目、「十代の潜水生活」という曲の中の1曲だったと思うけれど、あらゆるリーダーを信じない。あらゆるレジェンドを信じない。言ってますよね。あらゆる教祖を信じない。それっ当然のことです。
T:BLOOD MOONの中にもそれは流れてますものね。
M:はい。
T:まだレジェンドなんかにはならないぞっていう 今なんでしょうか。
M:そもそもレジェンドってのが何なのか解らないですしね。まあ死んだ後に人々がそう言ってもらうのは構わないけれど。
T:佐野元春がレジェンドだと言っている人もいますが。
M:聞いたことないね。
T:重要なのは官能とユーモアです。有難うございました。
M:有難うございました。