ムイシュキン公爵は白痴ということが本屋の売りになっているが、どうしてどうしてそうではない。
ドストエフスキーの小説は犯罪で味付けするわけだが、脇筋で上巻585ページあたりからかなりながい挿話がある。ロシアの天一坊事件ともいうべきブルドフスキー詐欺事件である。
大金の入ったムイシュキンを騙して金を取ろうと言う輩のグループの物語だが、ムイシュキンはどうしてどうして鮮やかな手並みで彼らを撃退する。代理人を使って調査を行い詐欺事件の真相を暴きだし一味を撃退する。
ムイシュキンがばかであるという設定からすると違和感がある部分である。ドストは最初、大金の転がり込んだ知能のたりない、すぐに人に金を恵んでしまう公爵が事件に巻き込まれるところを書きたかったのだろうが、筆が走って見事詐欺を暴きだす物語を書いてしまった。本来なら詐欺の被害者になるところを書きたかったのだろうが(白痴を強調するために)、出来あがったのが見事な出来栄えのためにままよ、とそのままにしてしまったのであろう。 連載ものであり、締め切りにも追われていたに違いない。
この部分はなくても一向に差し支えない部分である。
さすがに、腕力のあるドストであるから、後へはうまく続けてはいるが。