ポジション・レポート下巻186頁:イポリートの遺書読み上げ。
最初に述べたことに戻るが、この小説は退屈な部分が多い。だから、最初に読んだときに印象に残らなかったわけで、今回の書評では印象に残った部分は忘れないように途中であっても随時記録している。
これまでのところ、いいなと思うのはナスターシャの家での夜会、ムイシュキンがロゴージンの家を訪ねるところぐらいだ。脇筋では隠し子の遺産分け前騒ぎをさばくところもテンポがいい。
再読するきっかけとなった講談社学術文庫の中村健之助『ドストエフスキー人物事典』についても補足しておこう。良書ではあるが、彼の主張の半分以上は賛成できない。
いま読みかけのイポリートの告白も感心しない。ドストは死にかけた未成年を書くのが好きだ。それに仮託していろいろと脇筋のテーマを語りやすいのだろうが、いずれの場合も冗長ではあるが、ドストの最大の特徴である冗長性と緊迫性の渾然一体感がない。
言ってみればベートベンの第五フィナーレのくどい良さがドストの最大の売りである。
ドストは手紙、告白、懺悔にかこつけて思想を開陳することが多いが感心しないものが多い(下手である)。
世間ではカラマーゾフの大審問官のくだりに感嘆するものが多いようだが、どんなものだろうか。あるいはスタヴローギンの告白とか。