穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

ドストエフスキーの記述トリック2

2013-07-29 21:02:41 | 書評
要するに
A: 3000 + 3000 か、

B: 1500 + 1500 なのかということである。

記述はAのごとく思わせるようにすすむ。しかし、読み返してみるとBであると言い逃れが出来るように細工がしてある。

ここでは読者が一度は「カラマーゾフの兄弟」を読んだという前提で書いている。この部分だけでも第三部の大部分を占めているわけで、とても要約出来るものではない。

モークロエでのばか騒ぎに第一回目に3000ルーブル、第二回目に3000ルーブル使ったと本人ミーチャも多くの人にいい、そう信じられていた。そうして第二回目の豪遊の前に6ルーブルや10ルーブルの金策をしているから、第二回目の金は親父を殺して奪ったと見られた。

ところが、どっこい、びっくり、ミーチャは第一回には、カテリーナから送金を依頼された3000ルーブルを横領しそのうち、1500ルーブルを使い、残りの1500ルーブルは其の時に自分で香袋を縫って其の中にしまって首に掛けていた、と供述する。

しかし、検察はミーチャの主張を認めず、彼を逮捕する。以上亀山訳第三巻まで。最終的に検察が勝つか、ミーチャの供述が認められるかは第四巻に委ねられる。

一応ミーチャの1500+1500も認められないことも無い、という記述になっている。そうすると、第二回目の豪遊の資金の出所として父親を殺害して強奪したものとする嫌疑は成り立たないことになるわけだ。

実際に使われた金は領収書が整っていれば簡単に検証出来るが、それが出来ないようになっていたという記述になっているのだ。

はたして、第四巻ではどうなりますか、お後がよろしいようで。





ドストエフスキーの記述トリック

2013-07-29 07:09:54 | 書評
兵隊はどこの国でも裁縫が出来る。将校でも裁縫が出来るようになる。男だけの集団だから全部主婦のやることは心得ていなければならない。

将校のためには従卒が繕い物をするわけだが、平時と異なり戦場ではどういう事態になるかわからない。将校も一応自分で裁縫が出来るようになる。日本の場合もそうだし、ロシアでも同じだ。

で、これから何を書こうとしているか分かるかな。謎掛けをしておいて、すぐ解答だ。

絡まん棒の兄弟、おっとカラマーゾフの兄弟だ。第三編後半はモークロエでのミーチャの第二回目の豪遊散財である。親父の家に忍び込み、逃げ出すところを下男のグリーゴリーに捕まり、彼の頭をかち割った後でグルーシェンカの後を追って乗り込み、散財する。

この場面はカラマーゾフの兄弟にいくつかあるカーニバル場面で最大のものだ。彼女が5年前の初恋のポーランド将校の迎えでモークロエに行った後を追い、ポーランンド将校に彼女を譲り其の後で自殺するつもりで乗り込んだが、豈図らんや、このポーリャがどんでもない小物でいかさまトランプをして、ばれる。彼女はミーチャに乗り換える。

それから村の娘やユダヤ人の楽隊を総揚げして、どんちゃん騒ぎだ。カーニバルの王の戴冠である。ところが明け方、警察、検察が彼を逮捕に来る。父親殺しの容疑である。カーニバルの王の奪冠である。実に様式に従っておる。

そして予審判事立ちによる尋問、証拠調べが行われる。ここでドストエフスキーの現代チンピラ(=代表的、平均的)・ミステリー作家の顔色を失わせる記述トリックを披露する。どこだか、次回までに考えておいてくれ給え。