穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

警察正面

2019-04-21 09:32:32 | 妊娠五か月

 マーロウ物の次の作戦正面は警察制度である。これについては村上春樹氏の訳書ロンググッドバイと大いなる眠りのあとがきに紹介がある。

 アメリカ合衆国は徳川幕藩体制と同じで州(藩)ごとに制度が変わることがあるが基本的には同じなのだろう。マーロウ物では勿論カリフォルニア、ロサンジェルスである。登場してくる警察には主として三種類ある。いわゆる市警である。市内で起こった事件を扱う。ロサンジェルスとかハリウッド、そしてベイシティの市警である。ベイシティはチャンドラーの案出した架空の都市であるが、政治的にも、警官も腐敗しきっている。現実に書くと問題があると思ったのか、悪徳警官を登場させるときにはベイシティが出てくることが多い。

  次に群警察がある。郡部で発生した事件を扱う。それに地方検事局がある。地方検事局は群警察や市警を監督補完する役らしい。マーロウは地方検事局の出身である。

  アメリカの私立探偵は日本と違い準警察的な性格がある。拳銃の所持使用も可能だし逮捕権もあると思う。免許制でバッジも持っている。一般市民のなかには「おまわり」と捉えているものもいるらしい。だから本来なら警官の補完役だが、実際には競争相手となる。だから市警とマーロウは不倶戴天の敵なのである、という書き方だ。群警察はどちらかというと中立的(マーロウとの関係で)。地方検事局とは敵対することはあまりない。

  群警察との関係はおおむね中立的である。とくに湖中の女に出てくる村の駐在さんはマーロウを尊敬している。

お断り:以上は、警察度制の説明は別として、チャンドラー作品の中での状況である。作家によって警察と主人公の私立探偵の関係は千差万別である。たとえば、大手探偵社出身のダシール・ハメットの作品では警察には協力的友好的である。この問題は別に書くがハメットでは最後に犯人をうやうやしく警察に差し出すが、チャンドラーの作品ではそのようなことはない。自殺するように追い込むとか(ロンググッドバイほか)、犯人が未成年である場合は家族に精神病院などの施設に収容させるとか(大いなる眠り)。そしてこれはほかのミステリー作家と決定的にチャンドラーが異なる点である。