穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

125:特売場に群がるおんなたち

2020-08-04 14:16:15 | 破片

「そういえば、マスクを特売場で売っているところがありますね」と銀色のクルーケースを持ち歩いているCCが言った。

「デパートかなんかでですか」

「さあ、デパートでやっているかどうかは知らないが、この間ロフトでやってましたね。もっともロフト側からすると特売場のつもりはなかったかもしれない。このあいだロフトに入ったらどこの売り場もそんなに混んでいなかったのに、一か所だけ若い客の群れているところがあった。ほとんどは女性でした。それで店員に何を売っているのかって聞いたんですよ。そうしたらマスクが入荷したので客の取り合いになっているというのですよ。よほど特殊なマスクなのかと聞くとそうでもないらしい。なんでも新素材で夏用に熱さを軽減するような製品だというんですね」

「このごろ日本製で涼感のあるマスクが開発されているという報道があったから、そういうのかな。結構高いですね。わたしもこのあいだ、薬局のマツモトキヨシでマスクを買おうとしたらこれしかないと店員がいうのが750円ぐらいもした」

「何枚かセットになっているんですか」

「いや、一枚750円」

「そりゃあベラボウな値段だ。買ったんですか」

「いや買いませんでした」

「それも日本製だったんですか」

「店員はそういっていました。それでロフトのマスクの値段はいくらだったんですか」

「三枚セットで500円でした」

「ということはあなたも特売で買ったわけだ」と下駄顔が言った。

「ええ、だけど女たちが群れていて近寄れない。それであきらめてほかの予定していた商品を買って戻ってみると、やや人垣に隙間ができていたんですね。ちょうど前に店員が持ってきた商品が売り切れて、まだ新しい補充が来なかったらしい。店員が少しずつ商品を持ってきて箱に入れるらしいんです。そうしたら店員が小脇に商品を抱えていくつかある小箱に並べ始めた。ちょうど私の前にある箱にも来たので一つとりました。そうしたら女どもが遠くから、四方八方から手を伸ばしてきた私の手から商品を奪おうとするんですな。中には一人で三つも四つも鷲掴みにしている奴もいる。私も手の甲を引っかかれました」

「みんな年の甲羅を経た強欲なおばさんたちでしょう」

「ところがみんな若い女なんですね。年配の女性もいましたが気配に気をのまれたのか、まあ怖いなんていっているんですね」

「その女たちはなんで幾つも買うんですかね」とエッグヘッドが不思議そうな顔をした。

「さあ」

「おそらく、転売しようというのじゃないか、三枚で500円といいましたね。それをネットかなんかで千円とかの値段をつけて売ろうというんじゃないかな」

「なるほど、そうに違いありませんね」とCCは感心したような表情で頷いた。