穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

128:買本は女の安衣装集めと同じ

2020-08-10 07:39:09 | 破片

 買本は買春と同じで癖になるからな、と下駄顔が呟いた。

皆はポカンとした顔をしていたが、銀色のクルーケースの男が思いついたように「癖になると言えば女が衣装の異常収集に奔るのと同じかな。女房がやたらと衣装を狂ったように買いまくるんですよ」とぼやいた。

「あなたは資産家なんだね、知らなかったよ」とエッグヘッドが失礼なことを言った。

「資産家なんかじゃありませんよ。私が診療所を回って検査サンプルを集めてくるのと、女房がコンビニのレジ叩きの収入しかないんですから。衣装を買いまくるといっても特売場なんかで安衣装をあさるだけですがね。それでもその数は馬鹿にならない。狭いマンションの一室は床の上にじかに積みあげられてた洋服で一杯になっているんですよ。その大部分は一回ぐらいしか着ていないようですがね」

「そうかと思うと、靴を買いまくる女がいますね」

「そう、資産の多寡によっては宝石や指輪を買いあさる女もいる」

「本を買いまくるのも、同じことなんだろうな」と第九が気が付いたように発言した。

「本を全然読まないというか、買わないという人もいるが、一方で買う人は買うね。どうしてかな」とクルーケースの男が聞いた。

「悪質な宣伝のせいでしょうね」と第九は考えながら答えた。

「宣伝が悪質な業界のベストスリーに入るからな。出版業界は」と下駄顔が断定するように言った。

「へえ?そうするとほかのベストスリーはどこですか」

「不動産業界とサプリメント業界だよ」

「なるほど、言えてるね」と一同は賛意を表明した。「宣伝に引っかかってツイツイ買ってしまうわけだ」と頷いた。

「ところで」と第九のほうを向いて「一旦トランクルームに預けてしまうと引き出して読むなんて言うことはなくなるでしょう」

「そうなんですね。トランクルームというのは便利なようで、実際は利用もしない本のための倉庫代を長期間にわたって馬鹿丁寧に払っているようなものでね。今回も本の整理を断行しようと思ったんですが、本の山を前にするとなかなか決断が付かないことがわかりました。何かいい方法がありませんかね」

 それまで黙って皆の話を聞いていた立花さんが口を開いた。「私もね、十年ほど前に本の整理を始めたんですがね。どうにも溜まりに溜まった屑本に生活を圧迫されてね。夏目さんの参考になるかどうか」

「ぜひ聞かせてください」

「いろんな方法があると思いますがね。人によって事情が違いますから。あくまでも私のやり方ということでお話ししましょう」と立花さんは自分のやり方を説明した。