マスクは女性のおしゃれアイテムになっているようですね、と第九が話した。
「どうせしなければいけないなら、いろいろ細工しようというのかな。いろんな色のマスクが多いね」
「そうですよ、ロフトで売っていたマスクは全部色付きでしたね。白いのは無かったな」
「あなたは何色を買ったんですか。ピンクのですか」と立花さんがからかうように混ぜ返した。
「そう、うっかりピンクのを拾うところでしたよ。手に取ってはっと気が付いてね。これじゃ恥ずかしくてしていられない、と気が付いてうすいベージュの奴をとりました」
「そういえば黒いマスクをしている男も見かけるね。もっとも黒は男女使うようだが」
「しかし全員がマスクをするようになって、一番得をしたのはブスだろうね」と下駄顔がコメントした。
「なーるほど」とみんなが感心した。
「マスクをしていては美人かブスがわからないものな」
「しかしねえ」とエッグヘッドが思案するような顔をした。「マスクをしても美人かそうでないかは大体見当がつくようになりましたね」
「へえ、どうして、マスクをしていたら分からないでしょう」
「ドリンクを飲む時なんかマスクを外すでしょう。そうすると外す前に判断していたことと大体一致する」
「なにか、ジャンクフードを電車のなかでむしゃむしゃする女もいるね」
「ええ、そういうときも素顔が見える」
「するとあなたはマスクをしている女性でもみんな美人かどうか想像しているのですか」とあきれたように誰かが質問した。
「自然とね。電車の中って退屈でしょう。私はスマホなんていじらないしね」
立場氏が考え深げに述懐した。「もと医者の立場からすると、とくに精神科医としては患者の表情というのは注意して観察しますからね。人相学というのではないが、目と鼻と唇というのは相関があるね。マスクをして鼻と口は隠れていても目は外に出ているわけだ。目から貴方は判断しているんじゃないですかな」
「うーん、そうかもしれない。それと全体の態度でしょうか。美人はいつも注目されているというので身構えているところがある。また自信みたいなものがありますよね。それかな、目も相関があるでしょうが」
「そうすると、やはり不美人は分かるわけだ」
「いや、そうとはわかりません。並みか不美人かは区別できない」
「松か竹かは分からないわけだ」と下駄顔がうなぎを注文するようなことを言って一座を笑わせた。
「しかし、マスクの効用は大きいんじゃありませんか。なんとなくそれほど目立って美しい、魅力的じゃないと受け取られるのと、自分の鼻がペニスを張り付けたようなものだと注目されるのとでは天地雲泥の差があるものな」