穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

デカルトの情念論(2) 九月二十七日

2021-09-27 07:42:44 | 読まずに書評しよう

 デカルトは強いタニマチに逆らえない、逆らわないのを処世術としていた。

前回は訳文の問題を取り上げたが、どうも本文の程度、質にも問題があるようだ。この本の執筆過程からして、特徴的な問題があるようだ。よく知られているように(解説者が必ず説明しているように)、この本(論文)はデカルトのタニマチであったスウェーデンの女王クリスティナの求めに応じ、彼女のために書いている。

 政治家や有力者が有名な文化人、学者のタニマチになって彼らを見せびらかすように侍らすことは現代の日本でもよく見られるように何時の時代も、どこの国でも共通である。このクリスティナ女王は強引さはストーカーに近かったらしい。再三デカルトにスウェーデンに来るように誘い、挙句の果ては迎えに軍艦を派遣している。ほとんど脅迫に近い。そしてデカルトはスウェーデン滞在中にこの論文を出版した。

 用心深いデカルトは自分の研究を続けるためには、世間に目立たないような生活をすることを処世術にしている。これは方法叙説のなかで書いている。だから権威に楯突いたりしない。女王の強い要求に最後は従ったのであろう。

 デカルトはスウェーデンの厳しい気候と女王との応対の気疲れから、かの地で肺炎で死亡した。要するに無理やりに書かされた、あるいは出版を急がされた急ぎ仕事でその内容はほかの著作よりかは質が落ちたのはやむをえないのかもしれない。