前回に続き村上春樹訳チャンドラー「高い窓」である。第一回の進行形書評である。80ページくらいまで読んだ(全体で350ページほど)。
村上春樹訳のチャンドラーものは四冊読んだが、今度のが一番のっているのではないか。前四冊は忠実な翻訳だし、分かりやすく水のような(褒め言葉です)どちらかというと淡々とした訳だった。
原文(英文)は村上氏があとがきで言っている様にそれほど全編にわたって均質なドライブというか、「のり」はない。チャンドラー作品としては1、2番を争う出来ではなく、まあ中の下くらいというものである。それも確かめたく、また原文で読んだ記憶でそんなことが書いてあったのかな、というところがあり、書棚を探したが英文の方は紛失してしまったらしい。
今日書店に行ったついでに洋書の棚を見たが、彼の作品はプレイバックや湖中の女まで置いてあるのに高い窓だけない。それだけ人気のない方なのかも知れない。
創作落語とか創作料理とかいう言葉があるが、これは村上春樹の創作翻訳じゃないかなと思った。彼自身も楽しんで原作に色をつけているのではないか。原作の文章はこれだけの「のり」はなかったうような記憶が有る。これだけは翻訳の方が面白い。
彼の小説は読んでいないものも多いが、彼の創作ではこのような軽快な文章には出くわしたことが無い。いや、一度ある。「カンガルー日和」という短編集があるが、そのなかに10ページ足らずの題はわすれたが、ハードボイルド小説のラストだけを書いたようなへんてこな文章があった。短編としての体裁も整っていないが、何かの習作のような、スケッチのような掌編である。その運筆が「高い窓」の訳に似ているようだ。