一体どこの銀行ですかとチョンマゲが聞いた。
小泉純一郎が民営化したところですよ、と老人が答えた。
「ははあ、なるほど。最近簡保の詐欺的勧誘で指弾されたところですね。ありそうな話だ。自民党は何回か大きな国営企業の民営化を行っているが、大体成果を収めている。国鉄なんて優等生と言っていいでしょう、しかし、、」
いきなり頭の上から「国鉄って」という黄色い声が降ってきた。いつの間にか憂い顔の長南さんが来ていた。葉巻事件以来チョンマゲの傍を敬遠していたが、今日は老人と二人で店内に響き渡るような大声で喧嘩でもしているようにしている議論に引き寄せられるように寄ってきたらしい。
チョンマゲは上を見上げて、先日の猛女を確認するとぎょっとしたように腰を浮かして逃げ腰になったが、今日は葉巻を吸っていないのを見ると座りなおした。
「省線のことだよ」と老人は彼女に教えた。
「ショウセン?」
「その昔は院線ともいったかな。運輸省の前に鉄道院という役所があってな。そこが経営していたから院線というのさ、それから鉄道省になった。そのころは省線と言った」
あっけにとられている彼女を見て、チョンマゲは助け舟を出した。「いやさかのぼって定義をしていくとそうなんですが、逆にたどるとその省線が国電になり、民営化してE電と呼ばれた。しかし座りが悪いと評判がよくなくてJRに今はなっているんですよ」
彼女はようやく納得したようであった。
郵政民営化というのはひどかったな、と老人は話した。「理念もしっかりとした計画もなかった。今日の体たらくは当然の結果だろう」
「あれはアメリカに強要された結果ですからね。それに小泉首相の郵政省(いまの総務省)に対する私怨が相乗りしていたものですからね」
「初代の社長に強盗的な商売で有名な民間銀行のトップを持ってきたときにもオイオイどうなるんだと思ったけれどもね」
老人は乾いた唇に湿りをくれると「どうです、ネタになりそうですか」と聞いた。
「なりますとも、すこし周りを固めてみましょう。ほかの銀行のことも調べてまとめてみたいですね」
「どうぞご自由に」と老人は笑った。
「ところで、あなたの預金は無事でしたか」とチョンマゲは思い出したように老人に聞いた。