穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

79:NHKの小学生ドラマ

2020-03-29 09:06:23 | 破片

 は?と下駄顔は戸惑ったような表情をみせた。
その、預金が無断で知らない間にごっそりと引き出されていたことは無かったんですか、とチョンマゲは念を押したのである。「おれおれ詐欺だとか振り込め詐欺だとかNHKが誰に頼まれたのか、しつこくやっている番組があるが、そんな被害はなかったんですか。知らない間にキャッシュカードを使われるということがあるらしい、NHKによるとだが」

「まさか、あなた、そんなことはありませんよ」と老人は心外そうに答えたのである。
「まあ、善意に考えれば銀行の窓口で老人だと思って親切に心配してくれているとも取れますな」と人のいい老人は呟いた。「しかし彼らに善意があるとは全然感じられないがね。それにNHKが本当のこととして報道しているような事例がそんなにあるんですかね。しつこく毎日国民の貴重な資源である電波をジャブジャブ使って放送する必要があるのかな」ともっともな疑問を呈したのである。

NHKはなぜしつこくあんな放送をするのだろう、これは老人がいつも逢着する当然の疑問であった。

「あれはひょっとすると、警察庁の下っ端が仕事を無理にひねり出しているのかもしれませんね、あまりにも不自然だからな」とチョンマゲが思案するように言った。「官僚が一番怖いのは仕事がなくなることなんですよ。だから要らない仕事を常に作り続けている。あれも彼らが失業しないための仕事づくりかもしれない。それでNHKも警察や財務省に言われて放送する。警察に協力しているという姿勢を示しておけば、何かの時に役に立つ」

というと?

「たとえば、近い将来、国会でNHKの解散が問題になった時にはNHKはこんな仕事でも防犯に協力していますといえば、なにかの役にたつと考えているのでしょう」

それで財務省の下っ端役人もいい仕事が出来たというので金融機関に命令を出す。財務省も立派な仕事が増えたわけですよ。銀行は当然従うでしょう。そんなことで財務省のご機嫌を損ねてはわりがあいませんからね。それに銀行にもメリットがある。客のあづけた金が外に出ていくのを一番銀行は嫌がりますからね。一人一人は少額の引き出しでも積もり積もれば大変な金額になる」
「ナール、辻褄が合いますな」
チョンマゲが心配そうに最初の質問を繰り返した。「それであなたの通帳は無事でしたか」
「そうそう、それですよ。家に帰ってね」と老人は興奮から覚めたように云った。

「ああそうだった。それでね、家に帰って預金通帳をみたら元のままの金額だ。考えてみれば当たり前ですよね」と老人は恥ずかしそうに言った。「しばらく全然使っていないんだから、前の金額のままなのは。それで翌日郵貯に行ってATMで残高照会をしました。そうしたらね、残高はいじられていませんでしたね」
「よかったですね。それで銀行には抗議されましたか。話を聞いていると銀行内部の事務処理というか、つまりコンピューターを使ったシステムの運用上の問題という可能性が濃厚なんですがね」
コンピューターシステムの問題ですか?
「ええ、しかしハード的な問題よりも運用上の問題ね」
すると人為的な問題だと?
「取材してみないとわかりませんが、そんな感じですね」

 


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