穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

ディック・フランシスの「本命」

2009-12-23 23:43:43 | ミステリー書評

この小説の主役はアマチュア障害騎手と言えるだろう。この早川文庫の巻末に原田俊治氏がイギリス競馬のことを解説している。わずか数ページだが、資料としてこの解説だけでも買いだ。

最近は欧米競馬の知識も日本で流通量が大きいから、このくらいのことはすでに御承知の人も多いだろうが、大分日本と勝手の違うところがあるから、知っておいて読むと興味が増すだろう(必須とは思わないが)。

探偵役、大分ハードボイルド調であるが、はアマチュアの騎手である。この辺も上記の解説などで知っておくといい。とくに障害飛越レースではプロの騎手以上にアマチュアが活躍する。現にこの主役も想定では勝ち鞍数で第二位、第一位もアマチュアでこのベストジョッキーが落馬事故で死亡したことが発端となっている。

自分の馬を自分で調教してレースにも自分で乗る。まさに、アマチュアのだいご味だろう。

作品の出来栄えは彼の作としては並みというところだ。そこで、すこし言葉の問題を取り上げてみる。この前に、最近厩務員といっているのは昔は馬丁と言っていたと書いたが、1976年、翻訳、初版のこの本にはバテイと厩務員という両方の言葉が出てくる。ちょうど言葉狩りで変わっていった端境期がそのころだったのだろう。

おかしいのは断郊競馬という珍妙な訳語である。しばらく頭をひねってみたが、どうもクロスカントリーのことらしい。アマチュアでは馬のクロスカントリーと言うのは日本でもあったらしい。軍隊、騎兵華やかなりしころだ。最近はクロスカントリーのレースと言うのは聞かない。遠乗りとか野外騎乗とか言っているようだ。ただ、競技として存在しているかどうか。

もっとも、オリンピックの馬術ではクロスカントリーが今でもあるはずである。

平地競走ではイギリスでもアマチュアの騎手はいないらしいが、これは体重の関係だろう。障害ではある程度体重がないと馬が御せない。馬そのものがほとんど狩猟馬系統でいわゆる半血種だ。アフターバーナーのエコ使用の技術で済む平地競走とことなり、技術の奥が深いというか面白さが違うのだろう(趣味として)。サラブレッドでハミの柔らかい馬はいないし(後天的に調教でかたくなる)、単調な技術である。

ちょっと、はなしがそれたな。ま、いいだろう、アマチュア騎手の小説だから。

次は「賭け屋」が主役のディック・フランシスの小説を探すか。原田さんの解説にもあるが、賭け屋は日本にはないシステムだからね。賭け屋というのは飲み屋とはちがう。オッズも自分で決める。つまりどんぶり比例配分(日本にはこれしかないが)の方式とは違う。

% タイトルを間違えた。大穴は前回の本だ。「本命」です。