第六回は村上長編小説制作アトリエの公開であります。説明は平明軽妙、さすがに語り口は手慣れている。
内容に奇を衒ったところはない。大体この種の解説(書)に書いてあることと大きな相違はない。違いと言えば書き直し回数が多めだなという印象です。アドバンスを採らない(つまり出版社に完成期限を約束しない)、雑誌の連載をしない(これも期限に追われます)、いわゆる書き下ろしでしか長編小説をかかないという村上氏の方針が気が済むまで書き直しをすることを可能にしているのでしょう。
最後に知人など第三者に読んでもらって意見を聞く。村上氏の場合は夫人。これも大体だれでもとっているプロセスでしょうが、面白いと思ったのは、意見や批判が出た箇所は必ず見直す、書き直すということですが、意見が出た方向と反対の方向に書き直すというところ。
第三者がここはどうも、とか書き直した方がいいというところは、小説として読者がなにか引っかかる所があるから見直した方がいい、それは素直でいいが、書き直す方向が意見と反対側にするというところで、これは案外有効な方法ではないか、と思いました。勿論、第三者の意見に従う方がいいと思えばそうするのでしょうが。
編集者に渡したあともゲラで何回もやり取りして書き直すというところも、村上氏のような出版社にとっては大事な存在であるから出来るのでしょうが、これも相当回数ゲラが行き来するらしい。羨ましいと言えば羨ましいが。あんまり売れない作家だと、編集者に怒鳴られそうだ、しつこくゲラの訂正をすると。