穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

アスピリン駆動のキング

2010-11-03 09:18:12 | 書評

ハードボイルドのウィスキーにあたるのが、キングの場合、アスピリンである。アスピリンをまず一度に三錠は飲む。よい子の読者は真似をしてはいけません。命は保証しません。

前期の作品ではアルコール駆動ものもあったが、キングと言えばとにかく、鎮痛剤アディクトである。あらゆる鎮痛剤が出てくる。リーシーではヴァイコデンである。

スコットのようにもともと異能者(超能力の持ち主)はともかく、並みの人間が超能力を獲得する過程は限られている。一つは覚醒剤、麻薬などの薬物の影響、

それと大病あるいはみずから求めての苦行。宗教者が幻覚、啓示を受けるのは苦行の過程であることがほとんどである。いろいろな苦行がある。断食も数十日やれば苦行だ。一つ間違えば命にかかわるギリギリまでやれば。

キリストが幻影を見たのは荒野で40日の断食中。それとキリスト教や回教では、自ら鞭うち、宗教的法悦を得る。鞭うち教徒なんてのもいる。

リーシーはその気(ケ)はないが、夫の影響ですこしそういう能力を得る。下巻前半で冥界に夫を取り返しに行く際のトリッガーも上記の二つという「作法」をキングは踏んでいる。

すなわち、キチガイのストーカーにかん・オープナーで乳房を凌辱されて大けがをした後、強力な鎮痛剤ヴァイコデンを服用する。やがて彼女の冥界わたりがはじまる。キングは一応世間の作法を守っているわけね。