2-2のドローながら、上位アドバンテージによってプレーオフ決勝を制したカターレ。
前半のうちに0-2のビハインド。そのまま時計は進み、残り10分という絶体絶命の状況。1点を返したものの、残り時間は幾ばくも無い。
そんなピンチを土壇場で覆してみせた、試合終了間際の同点ゴールーーーまさに劇的というよりほかない展開は、伝説として語り継がれることとなるでしょう。
10年越しの、悲願。
焦がれ続けてきたJ2昇格を、2014年以来11年ぶりとなるJ2復帰を、ついに成し遂げることができたのでした。
先のプレーオフ準決勝に続いて、決勝のこの日も、ホーム・県総はあいにくの雨模様。
それでも、12月7日ともなれば、あるいは雪が降っていてもおかしくない時期であることを思えばマシか、と。
そんな雨でも関係ない、とばかりに乗り込んできたアウェイ・松本山雅サポーターの数は、4000人とも。
アウェイ側スタンドを埋め尽くす、チームカラーの緑色。J3規模とはかけ離れた熱気と圧力。これまでの対戦からも予想できたこととはいえ、やはり壮観というか。
ただ、それでも。
これまでであれば、その迫力に気圧されたり、こちらのゴール裏との規模の差に卑屈になってみたりもしたかもしれませんが。
こと、ここに至っては。
かつてないほどに高まっている、カターレの昇格への機運。信じて応援するファン・サポーターにも、その覚悟というものが出来ているなかにあっては。
臆する必要などない。敢然と立ち向かっていくのみ!
あいにくの空模様のなかでも、それでも詰めかけた入場者数11847人。
多くの人の思いを、願いをかけた、運命の一戦。その火蓋が切って落とされました。
準決勝と同じ編成となったスタメン。誰が、ではなく、全員が持てる力を全て注ぎ、勝ちにいかねばならない試合。
脇本の縦パスに反応した神山から松岡へ、その松岡が積極的なシュートで強襲するも、ゴールならず。
そうして良い場面も作ったカターレではあったものの・・・どうにも、ペースは松本山雅の側に。
当然、勝つことでしか昇格が無いということがハッキリしている松本山雅の側にとっては、やるべきことはシンプルであり。まずは、先制点と。
もちろん、そうはさせじと、無失点状態を続けねばならないカターレ。
引き分けでも勝ち上がり・・・昇格につながるということは。無失点で、クリーンシートを達成してしまったならば、こちらの得点に関係ないということ。
そう、アドバンテージはこちらにあるのだから。
普段のレギュレーションとは違うプレッシャーを与えつつ、いかに相手のメンタルを削っていくか。そこで崩れたならば、しめたもの。得点機も生まれようというもので。そうしてゴールを挙げて、リードを奪ったならば。リーグ戦で1敗しかしていないという自信も相まって、ますますもって勝利が近づくーーー。
・・・そう、思っていたのですが。
その思いは、早々に打ち消されることに。
18分という早い段階で。
松本山雅の攻勢のなか、中央でボールを受けた元カターレのMF安永 玲央が、テクニックを見せた切り返しからグラウンダーのシュート。それがゴールに吸い込まれ、先制点を許してしまったのでした。
ゴール前の密集状態に気取られていては難しかったであろうシュートでしたが、それを決めきった安永の度胸というか。
松本山雅のシーズン最終戦となったアウェイ沼津戦で、スコアレスで迎えた試合終了間際。プレーオフ進出こそ決まっていたものの、このままでは4位から転落、ホーム開催の無い6位になってしまう、という状況であったなか。土壇場で起死回生の決勝ゴールを挙げて4位死守を成し遂げたのが、安永でした。
その「持っている男」っぷりを、この決勝戦でも発揮。カターレにとっては手痛い恩返しゴール、松本山雅にとっては、昇格に向けて勇気づけられるこれ以上ないファインゴールであったかと。
この先制ゴールによって、ドローでも可というカターレのアドバンテージが失われ。当然と言えば当然、負けたら終わりなのだから。
追う立場となったカターレ、なんとしても得点せねばならない状況に。
ただ、失点からの立て直しも充分ではなかったであろう、26分でした。
直前に松本山雅のカウンター、ディフェンスが対応しきれていない、失点危険度の高い状況からシュートを放たれ。そのシュートこそ、なんとか田川が手を伸ばしてはじき出し、CKに逃れることが出来たのですが。
ただ・・・「ヤバいな」とは思いました。
そして、そんな嫌な予感というものは、当たる。
そのCK、松本山雅のキャプテン・菊井 悠介の蹴った精度の高いボールに、頭で合わせたのはMF樋口 大輝。
痛恨の、2失点目。
松本山雅にとってみれば、昇格を一気に手繰り寄せる会心のゴール。アウェイスタンドが沸き立つことに。
午前中から降っていた雨は、試合時間頃には止んでいましたが。カターレ側のファン・サポーターの心情としては、重く、どんよりと。
2点をリードし、余裕の出てきた松本山雅。それを崩すのは容易ではなく。
焦って雑なプレーをしてしまったのでは、それこそ相手の思うツボ。慎重を期さねばならないけれど、時間は有限であり。
スコアは動かず、0-2のままハーフタイムを迎えることに。
後半開始時に選手交代。瀬良に代えてヨシキ、布施谷に代えて伊藤を投入し、事態打開を図ることに。
まずは、1点を返すところから。
ボールを落ち着かせ、攻撃のリズムを作り出すヨシキ。ここ最近はなかなか出場機会がなかったものの、キレのあるドリブルで左サイドを駆ける伊藤。
交代の効果というものは、しっかりと出ていた印象。ならば、それをどうゴールに結び付けていくか。
ただ・・・なかなか、相手を崩しきるかたちにまでは持ち込めない。
リードをキープしつつ抑えきるという戦略の松本山雅に対し、攻撃の機会こそ前半よりも増えたものの。その増えた機会に得点できるかどうかは、また別の話で。
だんだんと、減っていく残り試合時間。
このまま終わるのか?
負けて、松本山雅の大応援団が歓喜する姿を見せつけられることになるのか?
1年前、同勝ち点ながら届かなかった昇格。
また、あの悔しさを味わい、J3のままになってしまうのか?
そんなこと、認めてたまるか!
ただひたすらに、昇格を信じて応援をつづけるゴール裏。
そんなの認めない、想像すらしてやるもんか!
ホーム県総で負けるなんてありえない!
苦しい試合なんて、それこそ何度となくあった。けれど、あきらめたりしなかった。乗り越えてきた。
これまでそうしてきたように、この試合だって!
そんななか、66分。キャプテンの吉平がピッチへ。
昇格を目指す気概をカタチに、ということでボーズ頭にした彼ですが、この決勝戦に、それを金髪に染めて。
1万人近くを集めつつも、ドローで勝ちきれなかった今治戦。その無念のあとには、やるせなさがあふれてでしょう、感極まって涙する姿もありました。そして、敗色濃厚であった岐阜戦には起死回生の同点ゴールを挙げ、勝ち点1をもぎ取る姿もありました。
そんな吉平が、この決勝戦に半端な覚悟で臨むわけがない。
イケる気がする・・・いや、やるんだ!
そして、80分。
再三にわたってキレキレなプレーでもって左サイドを制してきた伊藤が、中央へとクロスを上げると。
それに頭で合わせたのは、ショウセイ!
決して得意ではないというヘディングシュートでしたが、しっかりと決めて1点を返すことに成功。
重く沈んでいたようなスタジアムの雰囲気が、ガラリと変わりました。
直後にはマテウスに代えて松本を投入し、パワープレイの意図を明確に。
松本山雅の側も3人同時交代で守備固めに入るも、カターレの攻勢は続き。
攻め続けるカターレと、跳ね返し続ける松本山雅という構図が続きました。
87分には最後のカードとして坪川を投入、6分のアディショナルタイムへ。
あと1点、あと1点を、なんとしても獲るんだ!!
通常の試合と違い、上位アドバンテージによって引き分けでも勝ち上がり。いつもであれば追いついて同点というシチュエーションも、それが逆転勝利を意味します。一方、それが出来ねば、普通に負け。「次」は、ありません。
まさに、乗るか反るかの瀬戸際。
いや、だからこそ。
あと1点、あと1点を、なんとしても!!!
そして。
90+3分でした。
キレキレの躍動を見せていた伊藤への対処で、松本山雅としてはケアしきれなかった部分もあった左サイド。そこから、坪川が良いかたちで中央へとクロスを上げると。
その跳ね返りを、再三の空中戦で競り勝ってきた松本が、今回も制し。マイボールとしてこぼれてきたところを拾った吉平。その吉平がゴール前へと蹴り込んだボールは、相手に当たりながらも高く上がってゴール前へ。
その想定と違った上がりかたを見て、、ほんの一瞬だけボールへの対処に迷ったGK大内 一生。それを前に、長身を活かしたジャンプからの高い打点で、再び頭で合わせていったショウセイ!
ゴー――――ル!!!!
地鳴りのような歓声に包まれる、我らがホーム・県総。
値千金のゴールを決めたのは、地元出身・カターレ富山のエースたる碓井 聖生その人でした。
プレビューで書いた通り、このプレーオフ決勝戦という大舞台で決められたならば、それはショウセイにとって、プロとして、ストライカーとして大きな影響を及ぼすことになると。そう期待を込めていましたが。
そんな期待に、予測をはるかに上回る大仕事をもって応えてくれるあたり・・・本当に、ハンパない、並外れてしまっているよ!と。
ゴール裏のみならず、メイン、バックスタンドともに総立ち。まさに、興奮と熱狂のるつぼと化した県総。
残り時間僅かでリスタート、GKも総動員で最後の攻勢をかけてきた松本山雅でしたが。最後の最後まで集中を切らさず、しっかりと跳ね返したカターレ。
そして。
試合終了のホイッスル。
2-2のドローとなったスコアは、あまりにも劇的なカターレ富山J2昇格決定というかたちで決着を見たのでした。
2点をリードして勝利を確信していたであろう松本山雅にとってみれば、俗に言うところの「2点差は危険なスコア」というジンクスが、まさに当てはまったかたち。
手にしかけたJ2昇格が、終了直前でスルリと抜け落ちてしまった、と。
察するに余りあるほどのショック?
いや、察することくらいは出来ますよ。なにせ、かたちこそ違え、「あとちょっと」が届かなくて昇格を逃した無念は、カターレも経験済みなので。
そう、1年前の最終戦で、同勝ち点ながらも昇格を逃してしまったという無念があったから。
その悔しさをバネに、今シーズンを戦い抜いてきたカターレ。
ルヴァンカップでの躍進をはじめ、数々の修羅場をくぐりぬけてきた。シーズン終盤に失速する悪癖を繰り返すのか?という状況にあっても、敗戦をやむなしとはせず、必死の粘りでドローに持ち込むなど、喰らいついてきた。
そう、このプレーオフ決勝での劇的同点ゴールだって、マグレじゃない。
ホーム讃岐戦、アウェイ宮崎戦、ホーム岐阜戦ーーーざっと思い出してみただけでも、後半アディショナルタイムでの劇的同点ゴールというシチュエーションは、スラスラと出てくる。それだけの経験を積んできた。それがすなわち、3位カターレと4位松本山雅との最終順位での勝ち点差4ともなっていたかと。
つまり。
ビハインド状態でも、あきらめてしまうという選択肢など、端から無かったということ。
なかなか昇格プレーオフ圏入り出来ない状況が続いていた松本山雅は、シーズン終盤でそれまでの4バックというスタイルを捨て、3バックに変更。それが功を奏すかたちで最終盤の5連勝フィニッシュにもつながり、プレーオフ決勝までコマを進めることとなりましたが。
勢いそのままに昇格を勝ち取りたかったでしょうが・・・もしかすると、「付け焼刃」的な限界が露呈した、という側面があったのかもしれません。
決勝での紙一重の決着、その明暗を分けた要素は、やはりシーズンの積み重ねであったのではなかろうかと。
今シーズン、一貫して「覚悟」をもって臨んできたカターレ。その成果が、この決勝で紙一重の、ほんの少しの差となって表れたーーーそういうことなのかもしれません。
本来であれば、優勝を成し遂げての昇格決定、それでなかったとしても自動昇格を目指していたシーズンでしたが、それは叶いませんでした。
ただ、それでも。
今シーズンより導入された、J2昇格プレーオフ。それを制するかたちで、最後の最後で、見事に昇格をつかみ取ってみせたカターレ。初回となったJ2昇格プレーオフに、いきなり劇的フィニッシュという伝説を残してみせました。
優勝してシャーレを掲げることは出来なかったけれど。
記録としてはドローで、アドバンテージによる決着だけど。
それでも。
プレーオフ覇者として、優勝シャーレではなくとも、「J2昇格」のボードを高々と掲げてみせたセレモニー。
欲してやまなかったJ2昇格を、ついにつかみ取ったのでした。
長かった。本当に、長かった。
10年越しの悲願を成就、J2の舞台に戻ることとなったカターレ。
思えば、2014年11月1日。ホーム栃木戦で、勝利したにも関わらず降格が確定、3か月ぶりのホーム戦勝利にも笑顔はありませんでした。
一方で、今回。
記録としてはドローで、勝ったわけではない。けれど、アドバンテージによって、勝っていないにも関わらず昇格決定。ホーム県総に、歓喜の笑顔が広がりました。
皮肉というかなんというか。
それでも。
11年ぶりのJ2復帰ーーーそれは、夢でも幻でもなく、現実。
10年にわたって願ってやまなかった「そのとき」が、ついに訪れたのでした。
ツラいことのほうが多かった、この10年。
それでも、信じて応援し続けてきて、良かった。
本当に、報われた。
長く険しい道のりでしたが、ついに、成し遂げた。
今シーズンを戦い抜いた選手・スタッフ、そしてカターレを支え、応援してきたすべての人たちに感謝を。そして、おめでとう!と。
新たな戦いとなる来シーズンに向けて、しばしの休息。
歴史に残る戦いとなった今シーズン、本当にお疲れさまでした。