アルコール分解酵素に地域差 近畿と中部に下戸が多い理由
コラム【Dr.中川のみんなで越えるがんの壁】
アルコールを分解するには、発がん性物質のアセトアルデヒドを無害な酢酸に分解する2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が欠かせません。その遺伝子には、正常型と変異型があり、遺伝子がどんな組み合わせかによって、飲めるかどうかが変わってきます。
変異型の分布は、世界的に地域差があり、日本にも地域性が見てとれるのです。つまり、飲める人と下戸の分布には、一定の特徴があります。両親から変異型をともに受け継いだ下戸は、中国をはじめとする東アジア一帯にしか見られません。
実は、国内を地方別に分けて考えると、変異型を併せて持つ割合が最も高いのが近畿地方。それに次ぐのが、中部地方です。このエリアから遠くなるにつれて、逆に正常型を併せて持つ割合が増えます。
都道府県別に正常型の割合を調べると、秋田がトップで鹿児島が2位。10位以内には東北や九州、北海道、沖縄などが名を連ねています。最下位は三重で、 ブービーが愛知と共に中部地方です。76・7%が正常型の秋田と比べると、三重は半分程度の39・7%。その違いは歴然でしょう。
北海道、東北、九州はイメージ的に飲める人が多い地方とされますが、遺伝学的に証明されているのです。近畿には、京都の伏見や兵庫の灘など有名な酒どころが点在します。では、なぜ近畿には、変異型が多いのでしょうか。
ALDH2の変異型が生まれたのは、2万5000年から3万年前。場所は、北アジアのどこかで、新モンゴロイドの体内で発生した突然変異にさかのぼると推測されています。
日本人のルーツは、1万年以上前から日本列島に住んでいた縄文人と、約2000年前に朝鮮半島からやってきた新モンゴロイドの弥生人との混血です。アイ ヌや縄文人は、シベリアやフィリピン、ニューギニアなどの先住民の系統に属する旧モンゴロイドで、新モンゴロイドとは区別されます。
当時は、お酒がありませんでした。ALDH2の遺伝子変異は、生存上のマイナスにならないため、淘汰されず、受け継がれていったのです。
弥生人は、稲作を通じて高度な文化を育みました。大和朝廷がどこにあったのかは諸説ありますが、ALDH2の変異の分布を加味すると、近畿を後押しする材料になると考えてもいいかもしれません。
かつて顔立ちがスマートな人をしょうゆ顔、濃い顔の人をソース顔と呼んだことがありました。仮に弥生系をしょうゆ顔で、縄文系をソース顔とすれば、しょうゆ顔の人はALDH2の変異型を持っている可能性が高く下戸で、ソース顔の人は飲めるタイプといえるでしょう。
しかし、正常型の人はアルコール中毒や肝機能障害になる割合が高い。ソース顔で飲める人も、お酒は楽しくほどほどに、です。
(中川恵一/東大医学部附属病院放射線科准教授)