緊迫化するインド・パキスタン情勢と日本
インド・パキスタン情勢が緊迫しています。インド北部で起きたイスラム過激派による治安部隊への自爆攻撃を機に緊張が高まり、インド軍機が停戦ラインを越えてイスラム過激派の拠点を空爆しました。
両国の戦闘機同士の交戦に発展し、インド軍の戦闘機が撃墜され、パイロットが捕虜になりました。その後、パキスタン側がインド軍機のパイロットを解放しましたが、その後も砲撃戦が続いているようです。パキスタン側は停戦を呼びかけていますが、インド側がなかなか応じない模様です。
インドとパキスタンはこれまで3回も戦争しています。第一次と第二次のインド・パキスタン戦争はカシミール地方の帰属をめぐる戦いでした。今回の武力衝突もやはりカシミール地方で発生しています。
カシミールといえば、日本で有名なのは「カシミア」でしょうか。カシミール地方のヤギ(羊?)からとれる毛は上質でカシミアは「繊維の宝石」と呼ばれる高級品です。
私がパキスタンにいたときに事務所で雇っていたコックさんがカシミール地方の出身でした。カシミール地方の人は温厚な人が多いと聞いていましたが、日本の田舎のおじさんみたいな穏やかで無口なコックさんでした(単に英語が得意じゃなくて無口だったのかもしれませんが、、、)。
今回のインド・パキスタンの緊張に関して、日本政府の動きはあまり目立っていません。河野外相が「インドとパキスタン双方が自制し、対話を通じて事態を安定させることを強く求める」との談話を発表しましたが、それだけです。
インドとパキスタンという核保有国同士の戦争は絶対に避けなければなりません。人口13億人のインドと人口2億人のパキスタンの戦争になれば、数百万人単位の犠牲者が出ることになりかねません。何としても戦争を防ぐ必要があります。
インドではまもなく下院議員選挙が予定されており、ヒンドゥー至上主義政党のモディ首相としては強硬な態度を崩しにくいのかもしれません。イスラム教徒を排斥してきた傾向のあるモディ首相にとっては、メンツにかけて引けないのかもしれません。それでも両国の戦争は避けなくてはならず、中立的な仲裁者が必要です。
日本はインドともパキスタンとも良好な関係を保っています。どちらの国に対しても軍事援助や武器輸出を行っていません(*注意)。日本は中立的な立場で仲裁ができると思います。談話で終わりにせず、両国に積極的に働きかけ、戦争を防ぐことに全力をあげるべきだと思います。
*インドには自衛隊の飛行艇U2を輸出しようとしていましたが、いろいろ報道があり、進んでいるのかわかりません。おそらく進んでいないと思います。仮に進んでいるとしてもまだ納入されていないはずです。
個人的にもインド・パキスタンの緊張は、他人事ではありません。2002年5月にもカシミール地方におけるインド軍駐屯地襲撃事件等により、インドとパキスタンの間の緊張が高まりました。そのときは国際社会の働きかけが功を奏して、危機的な状況は回避されました。
私はちょうど2002年春にパキスタンにいました。私の勤務先のNGOがアフガニスタン人道支援事業に関わっていて、アフガニスタン内の事業をバックアップする事務所をパキスタンの首都イスラマバードに置いていました。当時の私の肩書は、「アフガニスタン・パキスタン駐在代表」というものでした。
物資の調達や休養、日本との行き来の経由地として、パキスタンの事務所を使っていました。治安が悪くて物資もないアフガニスタンから、パキスタンに行くと、停電もなく比較的平穏で中華料理店やスーパーマーケットがあってイスラマバードが天国に思えました。
しかし、2002年5月頃はインド・パキスタン情勢が緊迫化し、国際機関や外国企業の駐在員の家族が国外避難をはじめ、戦争の一歩手前という雰囲気でした。
私の勤め先のNGOは紛争地における人道援助をやっていたので、紛争が起きればすぐにかけ付けます。紛争が起きてから準備するのでは間に合わないこともあるので、紛争が起きそうになったら人道支援の事前準備をはじめます。
そのためインドとパキスタンの緊張が高まった段階で、アフガニスタンからパキスタンに入りました。外国人の避難が始まったタイミングで、わざわざパキスタンに入国し、パキスタンの現地NGOを訪ねて情報収集をしたり、万が一戦争が起きた場合には、協力して緊急人道支援を行うパートナーになってもらうための交渉をしたりしていました。「もし戦争になったら、うちの団体と協力して、避難民に緊急援助をやりませんか?」という交渉をしていました。
幸いにしてパキスタンでちょこちょこ活動しているうちに情勢が落ち着き、緊急援助の事前アレンジメント作業は不要になりました。もしインド・パキスタンの戦争が起きていたら、私は戦地で人道援助活動の最前線にいたと思います。戦争にならなくて本当によかったと思ったものでした。
今回も2002年のときに近い雰囲気なのかもしれません。戦争をして幸せになる人はほとんどいません。戦争をよころぶのは、武器商人、昇進したい高級軍人、そして政治利用したい政治指導者だけだと思います。ふつうの国民や末端の兵士の多くは戦争を望んでいません。
パキスタンのイスラマバードのチキンカレーは世界一おいしいと個人的に思います。気のいいカシミール人のコックさんが戦争に巻き込まれたり、近代的なイスラマバードの街が空爆で破壊されるのは想像したくありません。
パキスタンとの国境に近いインドのグジャラート州にも2001年の大地震のあとに緊急人道援助で行ったことがあります。私が行った被災地はパキスタン国境に近いエリアでした。グジャラートの現地NGOのカウンターパートといっしょに被災者にテントを配るプロジェクトを実施しました。心やさしいグジャラートの地震被災者の人たちが、今度は戦争の被害者になるのも見たくありません。
インドにもパキスタンにも懐かしい思い出があり、どちらの国の人たちも戦争で苦しんでほしくないと思います。アジアの先進民主主義国家であり、世界第三の経済大国の日本には、何か果たせる役割があるはずです。安倍総理はインドのモディ首相との親密さをアピールしてきたはずですから、ぜひその強みを生かして和平を呼びかけてほしいと思います。河野外務大臣にもがんばっていただきたいと思います。