【役に立つオモシロ医学論文】
体内に侵入してきた病原菌を排除する免疫の働きは、健康維持に欠かせない生体機能のひとつです。免疫が不全状態に陥れば容易に感染症にかかってしまい、命を落としてしまうこともあります。
花粉症は、花粉に対するアレルギーにより発症します。アレルギーとは簡単にいえば免疫の過剰反応ですから花粉症を有する人は免疫の働きが活発であると考えることができます。このことはまた、花粉症を有する人は、さまざまな病気に対する抵抗力が強いのではないか、ひいては花粉症ではない人に比べて長生きすることができるのではないか、という仮説を提起します。
そんな中、花粉症と死亡リスクの関連性を調査した研究論文が、日本疫学会誌2019年2月号に掲載されました。この研究では、過去に心臓病や脳卒中、がんを発症したことがない45〜80歳の日本人1万2471例が対象となっています。被験者はアンケート調査に基づき、スギ花粉症を有する人(2444例)と、有していない人(1万27例)に分けられ、死亡のリスクが比較されました。なお、結果に影響を与えうる、年齢、性別、喫煙状況、身体活動量などの因子で統計的に補正を行って解析しています。
10年にわたる追跡調査の結果、スギ花粉症を有する人は、そうでない人に比べて21%、統計学的にも意味のある水準で死亡のリスクが低下しました。特に呼吸器疾患による死亡リスクは62%も低下するという結果でした。
もちろん、この研究結果のみで因果関係を決定づけることは難しいように思います。ただ今後の研究成果の積み重ねにより、花粉症を有する人のどんな特性が寿命に影響を与えているのか、その詳細が明らかになるかもしれません。
(青島周一/勤務薬剤師。「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰)
花粉症、一種人間の生体防御反応が、働いているのではありませんか。