いじめや児童虐待の問題が日々深刻化する中、「子どもたちが、自分で自分の身を守れるように」と、六法全書の一部を、小学生も読めるよう分かりやすい表現にした「こども六法」を出版しようとしている若者がいます。一橋大大学院に通う山崎聡一郎さん(25)。出版の背景には、自身の小学生時代の経験がありました。

蹴られて骨折…中学受験に失敗

 それは、小学5年の秋に始まりました。元々、いじめられていたのは、少し頭に血が上りやすい性格のクラスメート。ある日、その子をかばったことで、山崎さんにも矛先が向かいます。男子3人組が中心でした。

「最初は『きもい』『菌がうつる』という悪口でした。そのうち、ぶったり蹴ったり、みんなで体を持ち上げて床に落としたり、が始まりました。休み時間に教室でというのが、いつものパターンでした」

 仲の良かった友達もいましたが、助けてくれることはありませんでした。山崎さんが巻き込まれた経緯を見て、次は自分が、と思ったのかもしれません。2人がいじめのターゲットにされる日々が続きました。3学期には、さらにエスカレート。6年になり、いじめっ子たちとクラスは離れましたが、登下校時の嫌がらせは続きました。

「建物の3階以上にいるときは、窓を見るたびに『ここから飛び降りれば…』と考えていました。首にひもを回したこともありました。周囲に止められたり、思いとどまったりして、『実現』はしませんでしたが」

 彼らと離れようと中学受験を決意。体育実技の試験もある中学を第1志望に決め、猛勉強で合格が見えてきていました。しかし、受験が近づいたある日の下校時、いじめっ子の一人に会ってしまいます。突然、後ろから蹴られて転倒しました。

「左手をついた瞬間、強烈な痛みを感じました。一緒に下校していた友人に支えられて学校に戻り、保健室に行きました。保健室に来た担任は『まあ、大丈夫でしょう』みたいな反応。そのまま家に帰りましたが、痛みが引かなかったので病院に行きました」

 病院での診断は、左手首の骨折。治療を経て徐々に回復したものの、「治りかけのまま」受験の日を迎え、不合格に。骨折の原因を知った担任は相手を呼び出し、謝らせました。

「『ごめんなさい』と一応言ってはいましたけど、『ごめんで済むなら、警察いらん!』と心の中で叫んでいました。それでも、先生は『許してやれ』という感じで…。こんなことは許されるはずがないと思っていたけど、当時の僕にはそう断言できるだけの知識がありませんでした」

図書室で出合った本

 第2志望の中学には合格し、いじめっ子たちとは離れることができました。そこで、一つの出合いがありました。1年生のとき、図書室の棚に置いてあった分厚い本が、目に留まりました。

「六法全書でした。今でもはっきり覚えています、有斐閣の平成13年版です。小学生のとき、公民の授業が好きで、憲法は興味を持って読んでいました。だから、自然とページをめくったんだと思います」

 最初は憲法の読み直しから始めましたが、一番興味を持ったのは「刑法」でした。

「人にけがをさせたら『傷害罪』、けがをさせなくても暴力を振るったら『暴行罪』、バカとかアホとか言ったら『侮辱罪』。小学校時代、僕がやられていたことは法律違反だった。本当は、国に止めてもらうことができた。六法を知っていれば、自分の身を守れたんじゃないか…」

 あのとき、おかしいと思いながら何もできなかった。ぶつけようのない怒りと悔しさがこみ上げてきました。

 埼玉県内の公立高校を経て、慶応義塾大学へ進学。法律の教育を通じた、いじめ問題の解決を研究課題に選びます。それは、法知識がないゆえに自分の権利を主張できなかった、12歳のときの後悔からでした。そして「12歳の自分」に届ける法律書作りを思い立ちます。

「法律はみんなのためのルールのはずなのに、小学生は難しくて六法全書を読めない。ならば自分で作ろうと思ったのが、最初の『こども六法』です」

 大学3年のとき、研究計画書を作成し、大学が設けた研究奨励金を獲得。小学生向けの副教材として完成させました。刑法や民法の一部などを六法全書から抜粋して、子ども向けに「翻訳」。漢字には、すべて読み仮名を付けました。

「人(ひと)をぶつ、蹴(け)る等(など)して怪我(けが)をさせた人は、15年以下(ねんいか)の懲役(ちょうえき)か50万円以下(まんえんいか)の罰金(ばっきん)とします」(傷害罪)

「『バカ』『アホ』等(など)の曖昧(あいまい)な言葉(ことば)であっても、他(ほか)の人(ひと)たちの前(まえ)で人(ひと)を馬鹿(ばか)にしたり悪口(わるくち)を言(い)ったりした人(ひと)は、拘留(こうりゅう)か科料(かりょう)とします」(侮辱罪)

 小学生時代、自分が受けた行為です。「法律では許されない行為」として並べました。

すべての子どもが読めるように

 いじめ問題について一つの成果を残した山崎さんですが、「出版」といっても、印刷版400部と電子版。読める人は限られています。

「『こども六法』を多くの子どもたちに届けたい。できれば、全国の子どもたちに」

 法律書を数多く出している出版社に相談し、デザイナーやイラストレーターの協力を仰ぐことができました。資金は友人に勧められてクラウドファンディングを開始。そのサイトで自身のいじめ体験も打ち明け、300人以上の協力を得て、当初の目標を超える170万円超の資金が集まりました。

 初版は5000部。1200円程度の価格で、今年秋の出版を目指しています。ただ、本当の目標は、全国のすべての小中学校に1冊以上置いてもらうことです。

「本当は『1つの教室に1冊』が理想ですが、かなりの冊数になるので、まずは『1校に1冊』を実現したいんです。中学1年の僕が図書室で六法全書に出合ったように、一人でも多くの子どもの目に留まるように」

 小学生時代のつらい記憶に、今も悩まされることがあるという山崎さん。「あの頃、死んでいたら楽だったのではと思うことが、実は今もあります」と打ち明け、大人に助けを求められなかった頃の自分の姿を、現在の子どもたちに重ね合わせます。

「『12歳の自分』のように、今いじめられている子どもが『自分が今やられていることはおかしいんだ』と気付いてほしい。『守ってください』と大人に助けを求められるようになってほしい。その力になれればと思っています。』

虐められる方が、悪いと言うメンタルカウンセラーが居ます。

いじめた方もいじめられて教育現場での先生でも困惑する今の虐めの現実です。

筆者が、実際に虐めを受けた体験談を書いた本ですから、貴重です。

一橋大大学院に通う山崎聡一郎さんいじめられて困っている子供達の相談にも是非のって上げて欲しいと思います