『ある日突然、アイドルのpippi(ぴっぴ)さんは髪の毛が抜け始め、全身の体毛を失ってしまいました。円形脱毛症です。アイドルを続けられるか不安な時もありましたが、今は「つるつるの頭は自分の個性」ととらえ、ウィッグ(かつら)でオシャレを楽しんでいます。ブログで髪を失ったことを公表すると、大きな反響を呼びました。ウィッグで隠せたはずなのになぜカミングアウトしたのか、聞きました。(朝日新聞文化くらし報道部記者・岩井建樹)


<iframe id="aswift_0" name="aswift_0" frameborder="0" marginwidth="0" marginheight="0" scrolling="no" width="654" height="223"></iframe>城に決定へ
 
 

円形脱毛症〉
 免疫の異常で毛髪の組織が攻撃されて起きる「自己免疫疾患」。発症に性別や年齢は関係ないとされる。硬貨大の脱毛は「単発型」と呼ばれ、自然に治ることも多い。脱毛が数カ所ある「多発型」、全身の毛が抜ける「汎発(はんぱつ)型」などもある。根本的な治療法は確立していない。男女ともステロイドなどの薬はあるが、効き方には個人差がある。(参考 2018年6月20日 朝日新聞朝刊生活面・東京本社版)

 

「頭、つるつるです」

 ぴっぴさんは、踊って歌える4人組グループ「エレクトリックリボン」のメンバーです。首都圏を中心に、週に2〜3度のペースで、ライブをしています。ぴっぴさんのキャラ設定は、ぴっぴ星からアイドルになるために地球にやってきた15歳。実際は島根出身。実年齢が15歳でないことも、ファン公然の秘密です。

 待ち合わせのカフェに向かうと、お団子ヘアのぴっぴさんが先に席についていました。言われない限り、ウィッグだとは気づけません。

 「ウィッグをとると、頭はつるつるです。今もステロイド注射を頭に打つ治療を受けています」

 

 

ブログでカミングアウト

 2月、ブログに髪のない姿の写真を載せて「昨年から『全身脱毛症』になっていたお話をしたいと思います」と記しました。

 「アイドルとして、ファンに夢を見せる仕事をしています。だから、病気というリアルな告白に躊躇(ちゅうちょ)もありました。それでも、伝えたいと考えました」

 カミングアウトするきっかけとなった出来事があったそうです。ウィッグをつけて、ライブでダンス中に転倒。ウィッグがずれてしまったため、すぐに起き上がれませんでした。ファンの人たちは「どうしたんだろう」と心配したそうです。踊ったりジャンプしたりすると、ウィッグがずれました。

 「ずっと秘密にして、ライブ中のアクシデントでウィッグが外れて髪のない頭が急にあらわになったら、それこそファンがショックを受けるだろうって。だから、先に公表しようと思いました」

 脱毛症の女性がウィッグでおしゃれを楽しんで生きる日々をつづったブログに、ぴっぴさん自身が勇気づけられたことも公表の理由でした。

 「同じ症状の人に、伝えたいとの思いもありました。髪の毛がなくてもオシャレを楽しめるよ、女の子を楽しめるよってメッセージを伝えれば、同じ症状に悩む女の子に元気を与えられるんじゃないかと」

 

 

「売名行為」と批判も

 ぴっぴさんのTwitterでブログを紹介すると、リツイートは1000を超えました。数多くのメッセージも寄せられました。

 「ファンからは、『髪の毛があろうとなかろうと、ぴっぴはぴっぴ。応援しているよ』と言われました。中には、坊主頭にして「僕もぴっぴと同じだよ」と言ってくれるファンもいました。同じ病気の方からも『カミングアウトするなんてすごいです。一緒に頑張りましょう』とSNSにメッセージを頂きました。みなさんに勇気を与えられればと告白しましたが、こちらのほうが元気をもらいました」

 売れないアイドルによる「売名行為だ」との批判もネットに書き込まれました。

 「ファンと、円形脱毛症の人に向けたメッセージのつもりで、大きな反響は想定していませんでした。ましてや売名のつもりはなかったんですが…」

 

 

「アイドル続けるの無理かな…」

 髪の毛が抜け始めたのは2017年12月。耳の後ろの毛が抜けていることに気づいたそうです。

 「ツインテールをするときに『あれっ』って。実は私、それまでにも2回脱毛を経験しているんです。その時はすぐに治ったので、今回も気楽に考えていました」

 大学病院で冷却、投薬、注射と様々な治療を受けましたが効果なし。どんどん抜けていったと言います。

 「お風呂で髪の毛を洗うと、抜けた毛が手にバサッと絡みついたのを見た時は、『オヨヨ……』と焦りました。ツインテールをやめて髪を下ろしたり、ベレー帽をかぶったりして隠しましたが、8カ月後には全身の体毛が抜けてしまいました」

 「メンバーに症状の報告はしていましたが、ウィッグを外した姿を見せることはできませんでした。遠征のホテルも私だけ別の個室に泊まらせてもらいました。ただ周りには、ツラいと口に出すことはありませんでした。悩みを表に出すのが苦手なんです」

 「当時は『髪は女の命だ』みたいな価値観が私の中にもあって、女の子を卒業しないといけないのか、アイドルを続けるのも無理かな、って落ち込みました。外見はアイドルにとって重要な要素の一つですし……」

 

 

「髪がないこと=個性」

 髪の毛へのこだわりは今はないと言います。

 「今も治療は続けていますし、髪の毛がまた生えたら私の代名詞だったツインテールにしたいとの思いもあります」

 「でも今は生えなくてもいいかな。髪がないことを個性の一つとして、ポジティブにとらえているので」

 「今、10種類以上のウィッグを持っています。ウィッグを変えると、いろんな自分になることができるんです。黒髪もあれば、金髪もある。ショートもあるし、ロングもあるし、パーマもある。毎日違う自分を表現できるのが、とっても楽しいです」

 

 

「見えない圧」弱まってくれれば

 女性には「つややかな髪の毛があるべき」という見えない圧が弱まってくれればと、ぴっぴさんは願います。

 「脱毛症の人がカミングアウトするかどうかは本人の自由です。髪を失ったことを隠したほうが生きやすい人は無理に告白なんてしなくていい。でも本当はカミングアウトしたいけど、周りの目が気にしてできない人もいると思います。隠し続けるのも大変ですし、告白したいのにそれができないのは心も苦しいように思えます」

 「病気で髪の毛がない女の子がいることを知っている人が増えれば、脱毛症の人が生きやすくなれるかなと考えています」

 「当初はブログで公表したら、脱毛症の話をするのは終わりにしようと考えていましたが思わぬ反響を頂いたので、治療や髪の毛の状況をブログやSNSで伝えていきたいと考えています。同じ患者の方々とも知り合えたので、情報交換もしてきたいです」

 「ただ、私の本業はアイドル。はげネタ任せになってはいけないので、ダンスや歌といったアイドルとしてのパフォーマンスを上げる努力をしていかなきゃと考えています」

 

 

「見た目問題」トークイベントを開きます

中高生のみなさんを対象に、特徴的な外見のゲスト3人と交流し、見た目について考えるトークイベントを開きます。それぞれのリアルな体験や思いを語ってもらい、前向きに生きるためのヒントを探ります。参加は無料です。

■日程
3月23日(土)14:00〜17:00(13:30開場)

■会場
朝日新聞メディアラボ渋谷分室(最寄り駅:JR渋谷駅 徒歩10分)
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目19-21

■定員
30人(事前申し込み制・先着順・高校を今春卒業の方もご参加いただけます)

■ゲスト
単純性血管腫の三橋雅史さん
37歳公務員。顔に大きな赤あざがある。高校生の時は友達がいなくて孤独だった。自転車の旅を転機に前向きになれた

アルビノの神原由佳さん
福祉施設で働く25歳。生まれつき肌や髪の毛が白い。ずっと外見に違和感があったが、少しずつ誇りに思えるようになった

トリーチャーコリンズ症候群の石田祐貴さん
26歳の筑波大大学院生。小さなあご、垂れ下がった目が特徴。中学時代、引きこもりを経験。小学校などで体験を発信している

■プログラム
・ゲスト3人のトーク
・参加者全員で意見交換&アンケート

■申し込み
朝日新聞社応募フォーム(https://que.digital.asahi.com/question/10001937)より
2019年3月20日(水)23:00締め切りです

■持ち物
筆記用具

■注意事項
※イベント当日は記録用、HP掲載用などのために写真撮影をさせていただきますのでご了承ください
※withnewsのほか、朝日中高生新聞の取材が入ります
※会場までの交通費は自己負担でお願いします

■共催
朝日新聞社withnews/NPO法人マイフェイス・マイスタイル(MFMS)

■協力
朝日中高生新聞』

 脱毛は、過度の緊張と強いストレスが、原因ではありませんか。

心のケアを受ければ回復するのではないでしょうか。