知っていそうで知らないことのひとつに「鼻のかみ方」がある。子供の頃からやってきたことだが、間違ったかみ方を覚えたまま大人になった人は意外と多い。鼻のかみ方が悪いとスッキリしないだけでなく、鼻や耳の病気を引き起こすキッカケにもなる。東京逓信病院・耳鼻咽喉科(東京都千代田区)の八木昌人部長は、正しい鼻のかみ方の4つのポイントを挙げる。

①「反対側の鼻を押さえて、片方ずつかむ」
②「口から息を吸ってからかむ」
③「ゆっくり少しずつかむ」
④「勢いをつけて強くかまない」

「鼻をかむときは、必要最小限の圧力でかむのがいいので、片方ずつかむのが鉄則です。よく両方の鼻を一緒にかむ人がいますが、細菌やウイルスを含んだ鼻汁が鼻の奥の方に追い込まれてしまい副鼻腔炎の原因になります。また、鼻腔と中耳は耳管という空気の通り道でつながっているので、鼻汁が中耳に行けば中耳炎を引き起こします」

 勢い良く両鼻を一遍にかむと、耳が「ツーン」として痛むが、これも、かんだときの圧力が、耳管を通して中耳に行くために起こる現象だ。

 鼻汁や鼻クソが残っているとティッシュを丸めて鼻穴をグリグリとこする人がいるが、これも、できればやらない方がいい。耳鼻咽喉科・日本橋大河原クリニック(東京都中央区)の大河原大次院長が言う。

「鼻の粘膜は非常に繊細で軟らかいので、丸めたティッシュでこすると粘膜がボロボロになる。まるでビロードのような部分をヤスリでこすっているようなものです。傷ついた粘膜から細菌感染して『鼻前庭炎』を起こす人がよくいます」

 鼻前庭炎とは、鼻穴の開口部のすぐ内側に炎症が起こり、赤くただれて痛み、膿のような黄色い鼻クソが出たりする。鼻穴付近の皮脂腺や毛穴に細菌が感染し、おできができた状態は「鼻せつ」と呼ばれる。鼻が腫れて痛みも強い。いずれにしても鼻のいじり過ぎは、これらの病気の原因になるので注意しよう。

 過度にエチケットを意識して鼻毛を抜く人も多いが、鼻毛を抜く習慣は鼻せつを起こしやすい。そもそも鼻毛は、吸い込んだホコリや病原体などが体内に侵入するのを防ぐフィルターの役割をしている。

 鼻毛は抜かずに、鼻穴の入り口付近にある鼻毛だけを鼻毛カッターで短くした方がいい。

■病院での治療が必要な鼻血

 鼻を強くかんだり、鼻をいじったりして起こる「鼻血の対処」の仕方も知っていそうで間違いやすい。その代表的なものが「首の後ろを叩く」や「鼻の付け根の硬い部分を押さえる」といった鼻血の止め方。都市伝説のようなもので、無意味で医学的には何の根拠もないことを知っておこう。

 鼻血の9割方は、鼻穴から1センチほど奥の左右の穴を隔てている鼻中隔の前部が出血部位。ここは「キーゼルバッハ部位」と呼ばれ、粘膜が非常に薄く毛細血管が集中しているので、ちょっとした刺激でも出血しやすいのだ。

 鼻血が出たら横になって寝てはいけない。鼻が心臓より低くなると余計に出血するからだ。とりあえず椅子に楽な姿勢で座り、鼻穴に丸めたティッシュを詰め顔はやや下向きにする。

 鼻血が喉に流れ込んできた場合は、飲み込むと気持ち悪くなったり、嘔吐したりするので、口から吐き出そう。ここからが止血のポイントだ。

「止血の基本は、出血している場所を押さえて止める圧迫止血法です。ですから出血している側の小鼻(膨らんでいる部分)を強く押さえます。15〜30分押さえていれば大抵は止まります。しかし、止まっても詰めた物は血が滴るほどでなければ、取り換えないでください。換えると余計に傷が広がり、再び出血するので、半日以上は詰めたままにしておいてください」(大河原院長)

 ただし、このような正しい鼻血の止血法をやっても、鼻血が止まらなければ病院を受診しよう。出血部がキーゼルバッハ部位ではなく、鼻腔の奥で出血を起こしている可能性があるからだ。特に高血圧の人、抗凝固薬や抗血小板薬を内服しているような人は要注意だ。

「鼻腔の奥の出血は自分では止められません。出血部を軟膏ガーゼタンポンを詰めて圧迫したり、レーザーで粘膜を焼いて止血する治療が必要になります」(八木部長)

 鼻はとてもデリケートな部分。意識してやさしく対応してあげよう。