30年にわたって日本銀行の超金融緩和政策が続いた後、わずかな利上げでも、支払い不能に陥る「ゾンビ企業」が急増し、淘汰が加速しかねない状況にある。
東京商工リサーチが今月発表した全国企業倒産状況によれば、2024年度上期(4ー9月)の倒産件数は5095件と10年ぶりに5000件を突破。負債総額は約1兆3800億円で、産業別ではサービス業が最多だった。
ゾンビ企業とは、営業利益だけでは借入金の利払いが困難な状況にある企業と定義され、日本の低金利と政府支援のおかげで長年生き延びてきた。投資も人材採用もできないゾンビ企業は、新規企業の誕生を阻害し、雇用の流動性を妨げている。CLSA証券のストラテジスト、ニコラス・スミス氏によると、ゾンビ企業を一掃することはそれほど悪いことではなく、より健全な新規企業が参入する余地を与え得る。
ゾンビ企業はどれも倒産しても「悲しまれることはないだろう」と話すスミス氏は「日本では失業を心配する必要がなく、むしろ深刻な労働力不足が最も懸念される状況になっている」と指摘した。
東京商工リサーチの3月のリポートによると、金利が0.1ポイント上昇すると、利益のほとんどを負債返済に充てているゾンビ企業の数は、約56万5000社から約63万2000社に増加する可能性がある。
そのうちの1社は、国内最大の旅行代理店の一つであるエイチ・アイ・エス(HIS)だ。2023年10月期に14億円の営業利益を計上したが、純支払利息は15億円に上った。
低価格パッケージツアーで知られるHISは、新型コロナウイルス禍後の日本からの海外旅行の低迷で苦戦を強いられている。日本に海外から観光客が殺到しているのとは対照的だ。数十年にわたる低金利政策のもう一つの遺産である円安が一因。ブルームバーグが集計したデータによると、HISは20年以降、負債をさらに増やし、現在は300億円の債務を抱えている。
同社はコメントを控えた。
「ゾンビ企業」という用語は、2008年に星岳雄・東京大学教授を含む3人の教授が作り出した。星教授はゾンビ企業を経営課題に対処せず、政府や債権者からの金融支援で破綻を免れている企業と定義している。
一方、国際決済銀行(BIS)は、設立から10年超で3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオ(年間の事業利益が金融費用の何倍かを示す指標)が1を下回る企業をゾンビ企業と定義している。
今年最大の倒産案件の一つは、三菱航空機の後継会社MSJ資産管理の特別清算で、負債総額は6413億円に上った。その他に環境経営総合研究所、ホクシンメディカル、アサヒフードクリエイトなどがある。
銀行・保険だけでなく、日本のあらゆるセクターや地域でこの6カ月間に倒産件数が増加している。金利が上昇し、運輸や人工知能(AI)、ソフトウエアなどの産業がグローバルプレーヤーとの熾烈(しれつ)な競争にさらされる中、この数字は今後も増え続ける見通しだ。
日本の大企業でさえ、もはや倒産の可能性から免れることはできない。2023年、パナソニック液晶ディスプレイが国内の倒産企業の中で負債総額トップとなった。競争により、液晶ディスプレーパネル事業は自動車および産業分野に重点を移したが、米中貿易摩擦による打撃を受けた。
親会社のパナソニックホールディングスはパナソニック液晶ディスプレイの清算を決定。負債総額は5836億円だった。パナソニックが21年に持ち株会社体制に移行したのは、各部門の説明責任と収益性の改善が狙いだった。経営最高責任者(CEO)の楠見雄規氏は今年5月、「最適な所有者」を見つけることで業績不振部門の改善を図ると述べている。
日本では負債を抱えた企業数が急増しており、そのペースはバブル崩壊後の1992年より速いとのデータもある。東京商工リサーチによると、ゾンビ企業は日本の上場企業の14%を占めている。
またゾンビ企業はレストランやホテル、運輸、観光など国内で労働力不足が最も深刻な業界に集中しているという。
生産性の低い企業は雇用や競争力を維持できず、買収や身売りもできず、利益を生み出すこともできない。特に大都市の人口密集地以外では、経営難が続く企業への投資は難しくなる。
しかし、数十年にわたる低金利の融資や手厚い補助金が破綻寸前のバランスシートを抱える非生産的な企業を次々と生み出してきた。日本政府は新型コロナウイルス禍にこうした企業に巨額の資金を注ぎ込んだ。一部の専門家はこうした「無利子・無担保」の融資が最近の倒産急増の主因になった可能性があると指摘している。
中小企業が倒産するとその従業員が解雇され、別の企業、願わくば収益性や生産性がより高く、収支のバランスが良好な企業に転職できる可能性が出てくる。どちらかといえば、これは日銀の利上げによる自然ながらも意図せざる副産物であり、高齢化と人口減少に伴う労働力不足の進行に歯止めをかけるのに役立つかもしれない。
みずほリサーチ&テクノロジーズの主席エコノミスト、服部直樹氏は「日本は経済環境の大きな転換点を迎えつつある状態で、企業もそのデフレ環境からのマインドチェンジなど意識転換を図っていくことが求められる」と指摘。倒産件数の増加は避けられないが、だからといってこれらの企業全てを倒産に追い込むべきではなく、どの企業をどのように支援できるかを決めることが課題だとした。
各企業は独自の事業を展開しており、それぞれに合わせたアプローチが必要だ。一部の専門家は地元の金融機関がこのようなアプローチに最適な立場にあると主張している。
東京商工リサーチ情報本部の原田三寛部長は「目指すのは倒産増加ではなく、債務の減少だ」とし、これがわれわれの暮らし方を守ることにつながるとの見方を示した。
今のところ、日銀が利上げを急ぐ可能性は低いもようだ。日銀は先月、金融政策の据え置きを決定したが、服部氏は日銀が来年1-3月に金利を最大0.5%まで引き上げると予想している。これは1990年代初頭以来の高水準で、負債を抱えたり倒産したりする企業がさらに増えるかもしれない。
CLSAのスミス氏は、金利が上昇すると円高が進み、インフレが低下し、消費者に一息つく機会をもたらすと指摘。「もちろんストレスは大きいが、世界が金利上昇に対応しなければならない。経済全体としては金利が上昇した方がはるかに良い」と語った。
原題:Zombie Companies May Finally Succumb to Bankruptcy on BOJ Hikes(抜粋)