ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ジョージ・ウォーリントン/手品師

2024-08-07 18:15:55 | ジャズ(ハードバップ)

ジョージ・ウォーリントンについては本ブログでもたびたび取り上げてきました。プレスティッジ系列の「ジャズ・フォー・ザ・キャリッジ・トレード」「ザ・ニューヨーク・シーン」、サヴォイ盤の「ジャズ・アット・ホッチキス」がそうですが、それらの作品はドナルド・バードやフィル・ウッズらビッグネームをサイドメンに起用していることもあり、ジャズファンの間ではそこそこ知られています。それに比べると、今日ご紹介する「手品師」はスルーしている人も多いのではないでしょうか?イースト=ウェストという聞いたことのないレーベルの作品ですが、それもそのはず全部で4枚のレコードしか発表していない幻のレーベルだとか。ただ、アトランティック・レコードの傘下にあったため、アトランティックの他のジャズ作品と一緒にCD化されています。原題はThe Prestidigitatorと難しい英単語で、奇術師とか手品師の意味があるそうです。

1957年4月の録音で、時期的には上述の「ザ・ニューヨーク・シーン」とほぼ同時期の作品ですが、バードやウッズは参加せず、代わりにJ・R・モンテローズ(テナー)とジェリー・ロイド(バス・トランペット)という渋めのメンツが加わっています。テディ・コティック(ベース)とニック・スタビュラス(ドラム)は「ザ・ニューヨーク・シーン」と同じです。モンテローズについては少し前にジャロ盤を取り上げましたね。玄人筋に評価の高いテナー奏者です。ジェリー・ロイドはかなりマイナーな存在ですが、「ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ」で中間派風のトランペットを吹いていた人ですね。ただ、本作では普通のトランペットではなく、バス・トランペットを吹いています。他ではあまり聞くことのない楽器ですが、音的にはトランペットと言うよりヴァルヴ・トロンボーンに近い感じですね。ウォーリントン含め全員が白人ですが、他のウォーリントン作品同様にハードバップに分類して良い内容です。

全7曲、スタンダード曲は1曲もなく、メンバーのオリジナル4曲と白人ピアニストのモーズ・アリソンの曲3曲で構成されています。ウォーリントンとアリソンは特別の親交があったのでしょうか?特に1曲目の"In Salah"は「ザ・ニューヨーク・シーン」でも取り上げられており、相当気に入っていたのでしょうね。実際になかなかの名曲で、本作でもJ・R・モンテローズがワンホーンで熱いプレイを聴かせてくれます。アリソンの他の2曲"Rural Route"と”Promised Land"はどちらもアリソンらしい土臭い曲で、ロイドのバス・トランペットのくぐもった音色が良いアクセントになっています。

その他ではJ・R・モンテローズの書いた2曲も良いです。3曲目”Jouons"はフランス語でLet's Playを意味する軽快なハードバップ。CD解説では”ジャウオンス”となっていますが、正しいフランス語の発音は”ジュオン”ですね。7曲目のタイトルトラック”The Prestidigitator”も実に魅力的な旋律。”Jouons"同様にモンテローズがワンホーンで快適なテナーソロを聴かせてくれます。ジェリー・ロイドの書き下ろしも1曲あり、6曲目”August Moon"がバストランペットの温かみのある音を活かした快適なミディアムチューンです。この曲では逆にモンテローズがお休みです。実はクインテット編成と言いながら、実際に5人で演奏しているのは7曲中3曲しかないんですね。肝心のウォーリントンはと言うと、他のリーダー作もそうなんですが、もちろん全曲でピアノソロを聴かせるもののあまり前面に出る感じはなく、フロントの2人を上手くサポートする役割に徹しています。マイナーミュージシャン揃いで、曲も知らない曲ばかりなので事前の期待値はあまり高くなかったのですが、繰り返し聴くとなかなか味の出てくる作品だと思います。

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