本日はジャッキー・ケインとロイ・クラールによる夫婦デュオ、ジャッキー&ロイを取り上げたいと思います。彼らについては6月にも同じタイトルの作品「ジャッキー&ロイ」を取り上げました。この2枚のアルバムについては、レコード会社がストーリーヴィル、録音年が1955年というところまで全く一緒なので、マニアの間では「顔」「足」の呼び名で区別されているようです(ブログのタイトルはレコード番号で区別しています)。「顔」の方は2人がおでこをぴったりくっつけておしどり夫婦ぶりをアピールしていますが、このジャケットは何なんでしょうか?ひび割れたコンクリートに壊れたピアノの部品?シュールですね・・・
詳しい録音年月日は記載されていませんが、時期的には「顔」が先で「足」が後のようです。メンバーも違っていて、「顔」の方がバリー・ガルブレイス(ギター)、ビル・クロウ(ベース)、ジョー・モレロ(ドラム)と東海岸のミュージシャンが脇を固めているのに対し、「足」の方はバーニー・ケッセル(ギター)、レッド・ミッチェル(ベース)、シェリー・マン(ドラム)と西海岸の面々です。ストーリーヴィル・レコードはボストンのレコード会社なのですが、録音は西海岸で行われたのでしょうか?謎です・・・
全12曲、スタンダード曲中心ですがジャズオリジナルも何曲かあります。スタイル的には主に3つに分かれており、まず1つ目がジャッキーとロイが夫婦で絶妙な掛け合いを見せるデュエット・スタイル。”Says My Heart""Let's Take A Walk Around The Block""You Smell So Good"等がそうですね。途中でスキャットやロイのピアノソロも交えたりしながら、お洒落なポップス風に仕上げています。ジャッキーもキュートな声で甘えるような感じで夫婦デュオ特有のラブラブ感を出しています。一方で"Spring Can Really Hang You Up The Most""Lazy Afternoon""Listen Little Girl"のようなバラードでは、ロイはピアノ伴奏に回り、ジャッキーがキーを1つ下げてじっくりと歌い上げます。声の伸びも素晴らしく、ジャッキーが本格的なソロ歌手に負けない歌唱力の持ち主だったことがよくわかりますね。
3つ目が最もジャズ要素の強いスキャットナンバー。”Bill's Bit”は西海岸のテナー奏者ビル・ホルマンの曲を、♪ピドゥピドゥップ、プンドゥルルル~と独特のスキャットで歌い切ります。ロイのスインギーなピアノソロ、バーニー・ケッセルのギターも最高ですね。本作のハイライトと言っても良い名曲です。"Tiny Told Me"はロイのオリジナルで、スキャットの合間にケッセル、ロイ、そしてミッチェルのベースがソロを取ります。"Dahuud"は少し綴りが違いますがクリフォード・ブラウンの”Daahoud"をスキャットでカバーしたもの。前年にブラウンが初演したばかりのこの名曲を取り上げるとは彼らの慧眼ぶりに驚きます。この曲もロイ→ケッセル→ミッチェルとソロを取ります。村上春樹も著書「ポートレイト・イン・ジャズ」で絶賛していましたが、これほどお洒落で洗練され、なおかつ大衆性も兼ね備えた音楽を生み出した50年代のアメリカの文化的土壌にあらためて憧憬の念を抱かずにはおれません。