モダンジャズにおいて、同じ楽器同士の名コンビといえばテナーのアル・コーン&ズート・シムズによるアル&ズート、トロンボーンのJ・J・ジョンソン&カイ・ウィンディングによるジェイ&カイ等が挙げられますが、アルトのフィル・ウッズ&ジーン・クイルによるフィル&クイルも忘れてはいけません。1956年にRCA盤「フィル&クイル」で共演し、その後プレスティッジにも「フィル&クイル」、ドナルド・バード&ケニー・ドーハムのトランペット2本を加えた「ペアリング・オフ」、サヒブ・シハブ、ハル・スタインを加えたアルト4本の「フォー・アルトズ」を翌1957年にかけて残します。今日ご紹介する「フィル・トークス・ウィズ・クイル」は1957年9月にエピック・レコードに吹き込まれたもので、一連のフィル&クイル作品の中でも最も評価の高い傑作です。
クインテット編成でフィル&クイル以外のメンバーはボブ・コーウィン(ピアノ)、ソニー・ダラス(ベース)、ニック・スタビュラス(ドラム)と言った面々。全員が白人なので東海岸で流行していたクールジャズ的なものを想像しがちですが、内容は完全にバップです。何せリーダーのウッズは自他ともに認めるゴリゴリのパーカー派ですからね。相棒のクイルもおそらく同じではないかと思います。
全6曲。オリジナルは1曲のみであとはバップの定番曲です。1曲目はソニー・ロリンズの名曲”Doxy"ですが、実は最後の6曲目にも同じ"Doxy”の別テイクが収録されています。よくCDのボーナストラックでLPでボツになった曲の別テイクが入ったりしますが、こちらは元々2曲入りです。よほどウッズのお気に入りの曲だったのでしょうか?基本的にどちらもリラックスムードの演奏ですが、あえて言うならテイク2の方が若干テンポ速めでボブ・コーウィンとソニー・ダラスのソロも入っています。2曲目はディジー・ガレスピーの"A Night In Tunisia"。「チュニジアの夜」の邦題で知られる定番曲ですが、本作の演奏はかなりアグレッシブです。2管のテーマの演奏の後、まずコーウィンがシャープなピアノソロを披露し、その後クイル→ウッズの順で激しいソロを聴かせてくれます。特にクイルのソロが予想外にエネルギッシュですね。3曲目”Hymn For Kim"は本作中唯一のオリジナルでフィル・ウッズの曲。キムとは本作収録と同年にウッズと結婚したチャン夫人の連れ子のことらしいですが、チャン夫人については以前に「スガン」で述べたようにチャーリー・パーカーの未亡人です。じゃあキムはパーカーの娘なのかと言うとそうではなく、チャンがパーカーと付き合う前に白人男性との間に生んだ子らしいです。何だかややこしいですね・・・裏事情はさておき、曲自体はやや哀調を帯びた旋律が印象的な名曲です。
4曲目”Dear Old Stockholm"はもともとはスウェーデン民謡らしいですが、1951年にスタン・ゲッツが取り上げて以降、すっかりジャズスタンダードになりました。マイルス・デイヴィスの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」でも取り上げられていますね。本作はテンポ速めで料理されており、フィル&クイルが情熱的なソロを聴かせてくれます。5曲目”Scrapple From The Apple"は言わずとしれたパーカー・ナンバー。ウッズは上述「スガン」だけでなく「バーズ・ナイト」でもこの曲を演奏しており、どんだけ好きやねん!と思わずツッコみたくなりますが、さすがに同じアプローチでは芸がないと思ったのか、テーマ演奏の後、超高速テンポでドラム→ベース→ピアノの順でソロを取る意表を突く展開。その後はフィル&クイルが存分にアドリブを繰り広げます。2曲ある”Doxy"を除けば全体的にハイテンションの演奏が多く、白人ジャズをなめるなよ!と言うウッズ達の主張が聞こえてくるようです。