本日はブロッサム・ディアリ―です。女性ジャズヴォーカルはざっくり言うとどっしり黒人ヴォーカル系(エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレエetc)とハスキー白人ヴォーカル系(アニタ・オデイ、クリス・コナー、ジューン・クリスティ、ヘレン・メリルetc)に分かれますが、このブロッサムはどれにも属さないかなり個性的なヴォーカリストで、鼻にかかった独特の声で歌い方も少女っぽいです。ジャケットのようなアラレちゃん眼鏡(たとえが古い?)も何とも言えずチャーミングですよね。
では彼女が単なるアイドル歌手のような存在だったかと言うとそうではありません。基本全作品で弾き語りをしているようにピアノの腕前もなかなかですし、可愛い声に隠れがちですが歌も上手いですよ。本作は1956年9月にヴァーヴに吹き込まれた彼女のアメリカでのデビュー作で、ギターにハーブ・エリス、ベースにレイ・ブラウン、そしてドラムにジョー・ジョーンズ(フィリーではなくパパの方)とヴァーヴ・レコードが誇る一流のサイドメンをズラリと揃えています。
全14曲。どれも2~3分の短い演奏です。曲はスタンダードが中心ですが、注目すべきはフランス語の歌が何曲かあること。実はブロッサムは1952年から5年間フランスのパリに居住しており、現地で歌手活動を行っていたようです。また、その間にテナー兼フルート奏者のボビー・ジャスパーとも結婚していたとか(アメリカ帰国と前後して離婚)。フランス語でhow are you?を意味する”Comment Allez-Vous?"、very softlyを意味する”Tout Doucement"がそうで、男女混声コーラスも加わったフレンチ・ポップス風の作りです。また、”It Might As Well Be Spring"は曲自体はリチャード・ロジャースの有名スタンダードですが、本作では全編フランス語で歌っています。しっとりしたバラード演奏でささやくように歌うブロッサムが実に魅力的で、本作のハイライトと言っても良い名唱です。
英語曲の方ももちろん素晴らしく、”Everything I've Got"”Thou Swell"等定番のスタンダードを自身のピアノソロもまじえながら軽快に歌っていきます。ボブ・ヘイムズと言う人が書き下ろしたと思われる"You For Me""Now At Last"も良い曲です。ピアノ演奏もなかなかのもので”More Than You Know"ではヴォーカルは封印し、ハーブ・エリスのギターを伴奏にしっとりとしたバラードを聴かせます。ジャズヴォーカルの王道とは少し違いますが、たまにはこういう作品も良いですよね。