ジューン・クリスティに続き、本日も女性ヴォーカルです。今日ご紹介するのはアニー・ロス。ソロシンガーとしても活動していますが、むしろデイヴ・ランバート、ジョン・ヘンドリックスと組んだトリオ、ランバート、ヘンドリックス&ロスの一員としての方が有名かもしれません。このトリオはヴォ―カリーズと呼ばれるスタイルを確立したことで知られています。ヴォ―カリーズとはサックスやトランペット等器楽奏者のソロに歌詞を付けて歌うというもので、ベイシー楽団はじめパーカー、マイルズ、ロリンズ等様々なジャズマンの曲を歌っています。ただ、私はこのヴォ―カリーズ自体があまり好きではないんですよね。ヴォーカル自体を楽器に見立てて自由にソロを取るスキャットと違い、もともとある器楽奏者のソロに後から歌詞を付けているので、無理矢理当てはめてる感が強い。後年に有名なマンハッタン・トランスファーもヴォ―カリーズ作品を発表していますが、こちらも個人的にはイマイチ。(マンハッタン・トランスファーの通常のヴォーカル作品は大好きです)
本作「ア・ギャサー!」は1959年にワールド・パシフィック・レコード(1957年にパシフィック・ジャズから改名)に吹き込まれたもので、この作品はヴォ―カリーズではなく、普通に歌っています。ただ、ぶっちゃけそんなに歌上手くないですよね?いや、もちろん下手ではないですが、他のジャズシンガー達に比べると、ちょっと声量とか声域の面で不安定さを感じるのは私だけでしょうか?
この作品の魅力はずばり共演者ですね。特にテナーのズート・シムズとピアノのラス・フリーマンが大々的にフィーチャーされており、半分くらい彼らを聴くための作品と言っても過言ではりません。実際、レコードジャケットの表面には派手な衣装を着たアニーが写っていますが、裏面にはズートとフリーマンがバッチリ写真入りで写っています。その他のメンバーはギターがジム・ホールまたはビリー・ビーン、ベースがモンティ・バドウィグ、ドラムがメル・ルイスです。ただし、8曲目”You're Nearer"と続く”I'm Just A Lucky So And So"の2曲はテナーがビル・パーキンス、ドラムがフランク・キャップに交代しています。
(表ジャケット) (裏ジャケット)
作品はロジャース&ハートの”Everything I've Got"で始まります。ジャッキー&ロイやブロッサム・ディアリ―も歌ったスインギーな曲で、アニーのパンチの効いたヴォーカルも楽しめますが、注目はやはりズートのプレイでしょう。いつもながらのコクのあるテナーで歌心たっぷりのソロを披露します。続くフリーマンのピアノも良いですね。この曲に限らずズートは7曲目”You Took Advantage Of Me”までのほとんどの曲で存分にソロを取っており、”Lucky Day”等曲によっては主役のアニーを食わんばかりの存在感です。スインギーな曲はもちろんのこと、"I Don't Want To Cry Anymore"でのバラードプレイも見事です。唯一、3曲目の”I Didn't Know About You"だけはズートのソロはなく、アニーが切ないバラードを情感たっぷりに歌い上げます。途中で挟まれる乾いたギターソロはジム・ホールですね。8曲目"You're Nearer"と続く"I'm Just A Lucky So And So"はテナーがビル・パーキンスにチェンジしますが、彼のプレイも良いです。ヴォーカル作品としては上述のようにアニー・ロスの歌声に若干物足りない部分がありますが、ズートやフリーマンら西海岸の名手をたっぷり聴けるという点を加味すれば悪くない1枚と思います。