本日は少し変わったところでラテン・ジャズ・クインテットとエリック・ドルフィーの共演盤をご紹介します。一応、主役はラテン・ジャズ・クインテットでそこにドルフィーがゲスト参加した形ですが、彼らを目当てにこのアルバムを買う人はほぼいないでしょう。私も当然ドルフィー目当てで買いました。基本的に前衛ジャズやフリージャズにはあまり理解を示さない私ですが、なぜかドルフィーは昔からそこそこ好きです。ジャズの右も左もわからない20代半ばの頃に名盤紹介に載っていた「アット・ザ・ファイヴ・スポット」2枚セットを買い、何だかよくわからないけれどそのエネルギーに引き込まれました。ただ、全部好きと言うわけでもなく、その後に買ったブルーノート盤「アウト・トゥ・ランチ」はよくわかりませんでした。
主役のラテン・ジャズ・クインテットについても述べておきましょう。詳しいプロフィールは調べてもあまり出てこないのですが、コンガ奏者のファン・アマルベルトが中心となったグループのようです。もう1人、マニー・ラモスという人がティンバレスというドラムのような打楽器を担当しています。この2人が名前的にもラテン系でおそらくキューバとかプエルトリコとかそっち系でしょう。それ以外はジーン・ケイシー(ピアノ)、チャーリー・シモンズ(ヴァイブ)、ビル・エリントン(ベース)と普通のアメリカ人っぽい名前です。いずれにせよ全員他ではあまり聴かない名前ですね。強いて言えばピアノのケイシーがオリヴァー・ネルソンの「ソウル・バトル」でピアノを弾いていたぐらいでしょうか?そんなマイナーグループですが、プレスティッジ系列のニュージャズに2枚作品を残しており、1つが1960年8月録音の本作、もう1枚が「ラテン・ソウル」と言う作品です。物好きな私はそちらも買いましたが、内容は正直イマイチでした・・・
さて、ここからがややこしいのですが、実はラテン・ジャズ・クインテットとエリック・ドルフィーの共演盤はもう1枚あります。それが1961年にユナイテッド・アーティスツから発売された「ラテン・ジャズ・クインテット・ウィズ・エリック・ドルフィー」でタイトル名が牛の顔のデザインになったジャケットです。本作に続く共演第2弾かと思いきやそうではなく、実はこのグループは名前だけ同じの全くの別グループのようなのです。リーダーはフェリペ・ディアスと言うヴァイブ奏者で残りのメンバーも全員別人です。よく考えれば”ラテン・ジャズ”なんて固有名詞でも何でもないので名乗ったもん勝ちですよね。しかし、よりにもよってどちらのグループとも個性派のドルフィーと共演するとは、偶然なのかあるいは企図したものか?ちなみに私はこのユナイテッド・アーティスツ(UA)盤も購入しました。こちらの方がスタンダード曲中心で大衆性はありますが、内容的には「キャリベ」の方が優れていると思います。最近CDで再発されたのはこのUA盤の方ですので、購入される際はお間違いのないように。
(キャリベ) (UA盤)
アルバムの内容に移りましょう。1曲目”Caribé”はケイシーのオリジナル。後ろでコンガがリズムを刻むゆったりしたテンポに乗ってまずケイシーがピアノソロを取り、ドルフィーのアルト→シモンズのヴァイブとソロをリレーします。ラテンでも前衛でもない普通のジャズで、なかなかの名曲・名演と思います。2曲目”Blues In 6/8"はアマルベルト作。曲名にブルースとありますがブルースっぽくありません。ヴァイブとアルトが奏でる賑やかなテーマに続きシモンズ→ドルフィーのアルト→ケイシー→アマルベルトのコンガソロと続きます。続くケイシー作"First Bass Line"は曲名通りビル・エリントンのベースが大きくフィーチャーされます。ドルフィーはここではバス・クラリネット(通称バスクラ)を吹きますが、おどろおどろしい音色で一気に前衛音楽感が強まります。ドルフィーのアルトやフルートは多少エキセントリックなソロでも音的に周りの楽器と調和して意外と違和感なく聴けるのですが、バスクラだとトンがって聞こえますね。
4曲目はアマルベルト作”Mambo Ricci"。曲名だけ見ると能天気そうな明るい感じですが、ドルフィーがいきなり先鋭的なアルトソロで暴れます。5曲目”Spring Is Here"はロジャース&ハートの定番曲。本作中唯一のスタンダードで、ドルフィーがフルートで意外とメロディアスなソロを吹きます。シモンズのヴァイブ、ケイシーのピアノも涼しげな感じで、アグレッシブな演奏が続く中での一服の清涼剤という感じでしょうか?ラストの”Sunday Go Meetin'”はいかにもなラテン調のリズムをバックにドルフィーがフルートでぶっ飛んだソロを取ります。続くシモンズ→ケイシーもわりと攻めた感じです。以上、前衛っぽさとラテンっぽさが融合した不思議な感覚の作品です。