本日は西海岸で活躍したベーシスト、レッド・ミッチェルをご紹介します。ハンプトン・ホーズ、バーニー・ケッセル、ビル・パーキンスらの諸作品にサイドマンとして参加し、ウェストコーストジャズの屋台骨を支えると同時に自身でもリーダー作をいくつか残しています。本ブログでも先月にハロルド・ランドとの共同リーダー作「ヒア・イェ!」を取り上げました。今日ご紹介する「プレゼンティング・レッド・ミッチェル」はその4年前の1957年3月にコンテンポラリー・レコードに吹き込んだ作品です。
この作品、サイドマンに注目です。まずはジェイムズ・クレイ。テキサス出身の黒人テナーで、曲によってはフルートも吹きます。コアなジャズファンにはローレンス・マラブルの名盤「テナーマン」のジャケットにリーダーのマラブルを差し置いてデカデカと写っている人物として知られています。60年代に入るとリヴァーサイドにも2作リーダー作を残していますね。ピアノが女性ピアニストのロレイン・ゲラー。アルトのハーブ・ゲラーの奥さんです。今では珍しくないですが、当時はまだまだ女性の器楽プレイヤーが少なく、パット・モーランやパティ・ボウン、秋吉敏子らと並んで貴重な存在でしたが、翌1958年に30歳の若さで病死してしまいました。夫のハーブとはエマーシー盤「ザ・ゲラーズ」等で共演していますが、それ以外のジャズマンとの共演は少なく、貴重な録音です。ドラムのビリー・ヒギンズは60年代になるとリー・モーガン、ドナルド・バード、デクスター・ゴードンはじめブルーノートの大量の作品群に参加し、同レーベルのハウス・ドラマー的存在となりますが、生まれはロサンゼルスで50年代までは西海岸でプレイしていました。本作参加時は弱冠20歳でおそらく初のレコーディングではないかと思われます。
全7曲。うち2曲がミッチェルのオリジナル、1曲がスタンダードですが、残りの4曲は黒人バッパー達の名曲を取り上げており、ミッチェルが強いハードバップ志向を持っていたことが如実にわかります。チャーリー・パーカーの"Scrapple From The Apple"、マイルス・デイヴィスの”Out Of The Blue"、ソニー・ロリンズの"Paul's Pal"、クリフォード・ブラウンの”Sandu"がそれで、いずれのナンバーもジェイムズ・クレイのテキサステナーの流れを組むソウルフルなプレイ("Paul's Pal"だけはフルートですが)を大きくフィーチャーしています。ロレイン・ゲラーのスインギーなピアノソロ、ミッチェル自身のベースソロも良い味を出しています。
一方、ミッチェルの自作曲の"Rainy Night"と"I Thought Of You"はどちらもクレイがフルートを吹いており、ウェストコーストらしい小洒落た演奏ですが、少しパンチ不足な面も。本作中唯一の歌モノスタンダードである"Cheek To Cheek"も可もなく不可もなくと言ったところでしょうか。聴きどころは上述のバップナンバー、特に"Scrapple From The Apple"と”Sandu"ですね。