クインシー・ジョーンズはジャズの範疇にとどまらず、20世紀のアメリカ音楽を代表する偉人と言ってよいでしょう。最近もソフトバンクのCMに使われた"Soul Bossa Nova"や「鬼警部アイアンサイド」のテーマ曲はCM等で誰もが耳にしたことがあるくらい定着していますし、洋楽好きには「愛のコリーダ」や「バック・オン・ザ・ブロック」等のヒット作が外せません。何よりプロデューサーとしてマイケル・ジャクソンの「オフ・ザ・ウォール」「スリラー」「BAD」を手掛け、音楽史上に残る大ヒットを記録しました。
上記の作品を聴けばわかるようにクインシーは自ら歌ったり演奏することはなく、アレンジャー/プロデューサーとして他のアーティストの才能を最大限引き出すことに能力を発揮しました。もともとはトランペット奏者としてデビューし、ライオネル・ハンプトン楽団でプレイしていましたが、同僚のクリフォード・ブラウンの圧倒的なプレイを目の当たりにしてトランペッターとしての自分の能力の限界を感じたとか。大学で音楽教育を受け、譜面にも強かったことから、その後はアレンジャーとして生きる道を選びます。
本作「クインテッセンス」は1961年に新興のインパルス・レコードに吹き込まれたもので、1956年録音のABCパラマウント盤「私の考えるジャズ」と並んでジャズ時代のクインシーの代表作です。録音は11月29日、12月18日、12月22日の3回に分けて収録され、延べ33人ものジャズメンが参加したビッグバンド作品です。さすがに全員列挙はできませんが、フレディ・ハバード、オリヴァー・ネルソン、フィル・ウッズ、カーティス・フラーらハードバップ・シーンの俊英たちに加え、ベイシー楽団のサド・ジョーンズ、ジョー・ニューマン、エリック・ディクソン、フランク・ウェスらが名を連ねています。
アルバムはまずクインシー作の美しいバラード"The Quintessence"で幕を開けます。英語で"真髄"を意味する言葉とクインシーの名前をかけたアルバムのタイトル曲です。この曲はフィル・ウッズの独壇場で、彼の素晴らしいアルトを存分に聴くことができます。2曲目"Robot Portrait"は本作にトロンボーン奏者としても参加するビリー・バイヤースの曲。ファンキーなビッグバンドサウンドに乗せてオリヴァー・ネルソン(テナー)とフレディ・ハバード(トランペット)がソロを取ります。3曲目"Little Karen"はベニー・ゴルソン作曲のミディアムチューン。ゴルソン自身は演奏に参加していませんが、エリック・ディクソンがゴルソンを彷彿とさせるソウルフルなテナーソロを聴かせます。続く"Straight, No Chaser"はお馴染みのモンク・ナンバー。急速調の演奏でカーティス・フラー(トロンボーン)とジョー・ニューマン(トランペット)がパワフルなソロを取ります。
5曲目"For Lena And Lennie"はクインシー作のバラードで歌手のレナ・ホーンとその夫に捧げられた曲。ベイシー楽団を思わせるゆったりした曲調で、途中で挟まれるベイシー風のピアノは白人ピアニストのボビー・スコットです。6曲目はクインシー作のファンキーな"Hard Sock Dance"。フレディ・ハバードとサド・ジョーンズの新旧トランペット・コンビが熱いソロを繰り広げます。7曲目"Invitation"は本作中唯一の歌モノスタンダードで、原曲のドラマチックな旋律を巧みなアレンジでさらに洗練させています。サックスのソロはオリヴァー・ネルソンとフィル・ウッズです。ラストは再びビリー・バイヤース作曲の"The Twitch"。ベイシー楽団風のミディアムチューンで、ジョー・ニューマンがミュートトランペットでソロを吹きます。以上、正統派ビッグバンドサウンドながらハードバップシーンを支えた名手達のソロも随所に聴くことができ、ビッグバンド愛好者でなくても楽しめる1枚と思います。