ハンク・モブレーの初期のブルーノート作品が全て似たようなタイトルであることは以前にも述べましたが、1957年1月13日に吹き込まれた本作「ハンク・モブレー&ヒズ・オールスターズ」はその中では比較的区別がつきやすい方ですね。5人編成なので「ハンク・モブレー・クインテット」と名付けられてもおかしくないところですが、本作がレコード発売される直前の同年3月にアート・ファーマー入りの正真正銘「ハンク・モブレー・クインテット」が収録されたので、このタイトルになったようです。
実はモブレーの初期ブルーノート作品はほぼ全てリズムセクションが一緒で、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・ブレイキー(ドラム)です。勘の良い方はお気づきのように第一期のジャズ・メッセンジャーズの面々ですね。本作が収録された1957年初頭と言えば、シルヴァーがワトキンス、モブレーらを引き連れてジャズ・メッセンジャーズを脱退し、自身のクインテットを結成した頃(その頃の経緯は「ハード・バップ」参照)で、一説ではギャラの支払いを巡って喧嘩別れしたようなことが伝えられていたりもしますが、こうやってしれっと共演したりもしているので本当のところはよくわかりません。
注目すべきはクインテットの1人にMJQのヴァイブ奏者であるミルト・ジャクソンが加わっていること。モブレーとミルトの組み合わせは他では目にしたことはありませんが、シルヴァー、ブレイキーはたびたび共演しているのでそちらの人脈からの起用かもしれません。ただ、結果的にミルトの参加が本作の大きな魅力になっていることは間違いないところです。
曲は全5曲、全てモブレーの自作曲です。モブレーは作曲家として過小評価されていますが良い曲を書きますよね。ロリンズの"St. Thomas"やコルトレーンの”Giant Steps"みたいな他のジャズメンがこぞってカバーするような曲こそありませんが、どの作品でもハードバップの薫り高き自作のナンバーを書き下ろしています。
1曲目”Reunion"は華やかなヴァイブとテナーの合奏から始まる軽快なハードバップ。reunionは再会とか同窓会の意味がありますが、解説書によるとジャズ・メッセンジャーズ解散後の初めてのブレイキーとの再会を祝した曲とのことです。とは言え、最後の共演となったコロンビア盤「ニカズ・ドリーム」から8ヶ月ぐらいしか経ってませんが・・・2曲目”Ultramarine"は群青(ぐんじょう)を意味する曲名のマイナーキーの曲。ミルとの涼しげなヴァイブとモブレーの哀愁たっぷりのテナーが聴きモノです。
3曲目”Don't Walk"はこれぞハードバップと呼びたくなるようなドライブ感満点のナンバー。ブレイキーのドラミングに乗せられてモブレー、ミルト、シルヴァーが軽快にソロをリレーします。4曲目”Lower Stratosphere”は難しい曲名ですが、stratosphere=成層圏と言う意味らしいです。モブレーはアルバムタイトルには一切頓着しないくせに、上述”Ultramarine”と言い、個々の曲名には随分ひねりを加えてきますね。曲自体はストレートなブルースで、こういう曲だとミルトのソウルフルなヴァイブが冴え渡ります。ラストの”Mobley's Musings"は美しいバラード。スタンダード曲のような魅力的な旋律を持った曲で、モブレーのまろやかなテナー、ミルトの爽やかなヴァイブの音色が胸に響きます。モブレーの名作群の中では地味であまり取り上げられることのない作品ですが、”Reunion"”Mobley's Musings"等モブレーの高い作曲センスがよくわかる1枚です。