ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

アート・ファーマー/イヴニング・イン・カサブランカ

2024-04-23 21:32:03 | ジャズ(ハードバップ)

本日はアート・ファーマーが1955年に吹き込んだ「イヴニング・イン・カサブランカ」をご紹介します。原題は「アート・ファーマー・クインテット・フィーチャリング・ジジ・グライス」なのですが、それでは区別がつきにくいためかCD版では収録曲の1つをタイトルとして付けたようです。原題通りアルト奏者ジジ・グライスとの共演作で、6曲中5曲がジジのオリジナル曲とプレイヤー兼作曲家として大きくフィーチャーされています。ファーマーとジジはライオネル・ハンプトン楽団時代からの盟友でウマが合ったのかたびたび共演しており、前年には「ホエン・ファーマー・メット・グライス」でも共演していますし、「アート・ファーマー・セプテット」でもジジがアレンジャーを務めています。リズムセクションはデューク・ジョーダン(ピアノ)、双子の弟アディソン・ファーマー(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)です。

アルバムは唯一ジジ作曲ではない"Forecast"で始まります。本作でピアノを弾いているデューク・ジョーダンのオリジナルで、彼自身も同年のシグナル盤で取り上げている痛快ハードバップです。2曲目以降は全てジジのペンによるもの。まずはタイトルにもなっている”Evening In Casablanca”。中東っぽいエキゾチックな旋律で始まる哀調あふれるマイナーキーの曲です。3曲目”Nica’s Tempo"はホレス・シルヴァー”Nica’s Dream"やセロニアス・モンク"Pannonica"等と同様に当時多くのジャズミュージシャンのパトロンだったパンノニカ男爵夫人に捧げられた曲です。4曲目"Satellite"はノリノリのハードバップで、思わず歌詞をつけて歌いたくなるようなメロディが印象的。5曲目”Sans Souci”は憂いなしを意味するフランス語でドイツのサンスーシ宮殿が有名ですが、ここではカリブ海にある島の名前のようです。南国風の明るい雰囲気に満ちた魅力的な旋律でズバリ本作のベストトラックと言って良いでしょう。"Nica’s Tempo”と”Sans Souci”はジジの自信作と言うこともあり、2年後にドナルド・バードとの共演作「ジャズ・ラブ」 でも再演されています。ラストはファンキーな”Shabozz”で締めくくり。後にソフトジャズ路線に転じるファーマーのコテコテハードバップが味わえる傑作です。

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ドナルド・バード&ペッパー・アダムス/アウト・オヴ・ジス・ワールド

2024-04-22 20:47:58 | ジャズ(ハードバップ)

本日はドナルド・バードとペッパー・アダムスの双頭クインテットによるウォーリック盤をご紹介します。以前ブルーノート盤「アット・ザ・ハーフノート・カフェ」でも取り上げましたがバードとアダムスは同じデトロイト出身と言うこともあって仲が良く、共演作は10枚を超えます。特に1958年から1961年にかけては双頭コンボを結成し、多くの名盤を残しました。ただ、本作については発売元がウォーリックと言うマイナーレーベルなために長らく廃盤となっており、知る人ぞ知る作品となっています。ただ、内容は充実しています。特筆すべきは本作があのハービー・ハンコックのレコーディング・デビュー作と言うこと。シカゴ出身のハンコックはこの時弱冠20歳。バードにその才能を見出され、デューク・ピアソンの後任としてコンボに加わりました。バード、アダムス、ハンコック以外のメンバーはレイモン・ジャクソン(ベース)、ジミー・コブ(ドラム)です。

内容ですが1961年3月という時代背景もあり、ハードバップを基本フォーマットとしながらも60年代らしい空気感も感じさせます。違いを生み出しているのはやはりハービー・ハンコック。透明感のある洗練されたピアノはそれまでのバップ期のピアニストとは一線を画しています。収録曲ですがタイトル曲の”Out Of This World”や”I'm An Old Cowhand”と言った有名スタンダードも悪くないですが、私がおススメするのは”Theme From Mr. Lucky"と”It's A Beautiful Evening"の2曲。どちらも当時の流行曲でいわゆる定番スタンダードではありません。前者は「ミスター・ラッキー」というテレビドラマの主題歌で、映画音楽の巨匠ヘンリー・マンシーニの作品。ドライブ感溢れる演奏でバードとアダムズが快調にブロウした後、ハンコックがシャープなソロを聴かせてくれます。後者はナット・キング・コールが前年に発表した「ワイルド・イズ・ラヴ」に収録されていた美しいバラード。ここではアダムスの代わりにヴァイブのテディ・チャールズが参加。バードの美しいトランペットの音色とハンコックのたゆたうようなピアノソロが聴く者を夢見心地にさせてくれます。それ以外ではバードの自作曲である叙情的な"Bird House"や熱きファンキージャズ"Curro's"も良いです。ブルーノート等と違って録音があまり良くない(ややくぐもった音がする)のが玉にキズですが、内容は文句なしの名盤と思います。

 

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フィル・ウッズ/スガン

2024-04-20 11:37:05 | ジャズ(ハードバップ)

本日はフィル・ウッズをご紹介します。リーダー作を取り上げるのは本ブログで初めてですが、彼のことについては先日ご紹介したジョージ・ウォーリントン「ジャズ・フォー・ザ・キャリッジ・トレード」等で取り上げています。白人でありながら、当時流行のクールサウンドには目もくれず、チャーリー・パーカー直系のバッパーとして名を馳せました。ウッズといえば必ず触れられるのが、彼の奥さんがパーカーの未亡人チャンだったということ(ただし後に離婚)。パーカーを尊敬するあまりなのか、単に女性の好みが一緒だったのかはわかりませんが、とにかくウッズとパーカーを結びつける一例として必ず紹介されるエピソードです。1957年7月に吹き込まれた本作「スガン」も全6曲中、自身のオリジナルが3曲、残りは全てパーカーの曲で、その傾倒ぶりが如実に表れています。

メンバーですが、テディ・コティック(ベース)、ニック・スタビュラス(ドラム)の2人はジョージ・ウォーリントンのグループで一緒だった面々。となるとトランペットにドナルド・バードあたりが入って来るのが自然な気がしますが、意表を突いてレイ・コープランドが起用されています。たまたまバードが都合悪かったのか、それとも何か意図があったのかはわかりません。コープランドはお世辞にもメジャーとは言えませんが、セロニアス・モンクの「モンクス・ミュージック」等に参加しているので熱心なジャズファンなら名前ぐらいは知っているはず。さらに注目すべきはピアノのレッド・ガーランド。当時マイルス・デイヴィス・クインテットのピアニストとして名を上げ、自身のリーダー作も続々と発表するなどスタープレイヤーとして活躍していたガーランドの参加は作品のクオリティを一段上げています。

演奏内容ですか、まずは3曲のパーカーナンバー"Au Privave""Steeplechase""Scrapple From The Apple"に触れないわけにはいきません。どの曲もウッズのアドリブは絶好調で、パーカーの後継者は俺だ!と言わんばかりです。一方、コープランドのトランペットは乾いた音色のややオールドスタイルな印象。ガーランドは華麗なピアノソロでセッションを盛り立てますが、得意のブロックコードは多用せずやや控え目な気も。ウッズのオリジナル曲もなかなか良いです。"Last Fling"はミディアムテンポの叙情的なナンバーでウッズはもちろんのこと中盤のガーランドのソロが見事。"Green Pines"は何となくスタンダードの"Like Someone In Love"に似た曲調。コープランドはここではミュートトランペットを吹いています。よくわからない謎のジャケット(荒野?)だけはいただけませんが、内容は上質のハードバップです。

 

 

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ジャズ・メッセンジャーズ/ハード・バップ

2024-04-18 21:21:52 | ジャズ(ハードバップ)

モダンジャズを代表するグループであるジャズ・メッセンジャーズは今でこそアート・ブレイキーが率いたグループとして認識されていますが、実は当初はそうではありませんでした。1955年に吹き込まれた記念すべき彼らのデビュー作「カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ」、続くコロンビア盤「ニカズ・ドリーム」はアート・ブレイキーの名は冠しておらず、実態はブレイキーとホレス・シルヴァーの双頭コンボだったようです。実際、ブルーノートには「ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」というアルバムも残されています。1956年になって、ブレイキーとシルヴァーは袂を分かつことになったのですが、その際ジャズ・メッセンジャーズの名称はブレイキーが引き継ぎ、シルヴァーの方は当時メンバーだったドナルド・バード、ハンク・モブレー、ダグ・ワトキンスをごっそり引き連れて行ったという経緯があるようです。平たく言うと、ブレイキーは"名"を取り、シルヴァーは”実”を取ったという形になります。

本作「ハード・バップ」はそんな新生ジャズ・メッセンジャーズの第1弾として1956年12月に吹き込まれた作品です。一新されたメンバーの顔ぶれはと言うと、フロントラインにビル・ハードマン(トランペット)とジャッキー・マクリーン(アルト)、リズムセクションがサム・ドッカリー(ピアノ)、スパンキー・デブレスト(ベース)、そしてブレイキーです。はっきり言って前作のバード、モブレー、シルヴァー、ワトキンスから比べると格落ち感は否めませんね。実際、ジャズ・メッセンジャーズはこの後多少メンバーを入れ替えて翌1957年までに計9枚のアルバムを発表しますが、どれも成功を収めたとは言い難く、多くのジャズファンからは”暗黒時代”と称されています。ジャズ・メッセンジャーズが黄金時代を迎えるのは1958年にリー・モーガン、ベニー・ゴルソン、ボビー・ティモンズを迎えてからのことです。ただ、個人的には本作含めこの頃のジャズ・メッセンジャーズの作品もそう捨てたものではないと思います。

アルバムはビル・ハードマンのエネルギッシュなオリジナル曲"Cranky Spanky"で始まります。ブレイキーのド迫力ドラミングに煽られるようにマクリーン、ハードマン、ドッカリーがハイテンションのソロをリレーして行きます。ずばり本作のベストトラックと言って良いでしょう。2曲目”Stella By Starlight”と3曲目”My Heart Stood Still”はどちらも有名スタンダード曲。本来はバラードですが、ここでは早いテンポで演奏されており、前者はスインギーに、後者はアップテンポで演奏されています。特に”My Heart Stood Still”の後半のブレイキーのドラミングが圧巻です。4曲目”Little Melonae”はマイルスやコルトレーンも取り上げたマクリーンのオリジナルですが、当時としてはかなり尖鋭的なメロディを持った曲で、後にフリージャズに転身するマクリーンの将来を予見させるような曲です。5曲目”Stanley’s Stiff Chickens"はハードマンとマクリーン共作の変わった名前の曲ですが、なかなか魅力的な旋律を持ったバップナンバーです。演奏面では「ジャッキーズ・パル」でも共演したマクリーンとハードマンが息の合ったコンビぶり。サム・ドッカリーはあまり耳にすることは多くないですが、特にクセのない正統派のピアノを聴かせてくれます。暗黒期ジャズ・メッセンジャーズについてはこれからもちょくちょく取り上げて行きたいと思います。

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ケニー・バレル/ブルー・ムーズ

2024-04-17 18:52:55 | ジャズ(ハードバップ)

本日はケニー・バレルのプレスティッジ初リーダー作をご紹介します。原題はシンプルに「ケニー・バレル」なのですが、それだけでは他の作品と区別がつかないので「ブルー・ムーズ」という邦題が付いたようです。かと言ってそういう名前の曲が収録されているわけではなく、おそらくですが後年の「ブルー・ライツ」「ミッドナイト・ブルー」と言ったバレルの代表作にあやかって付けたのではないかと思われます。録音年月日は1957年2月1日。前年にデトロイトからニューヨークにやって来て主にサイドメンとしてブルーノート、サヴォイ、プレスティッジの数々のセッションで腕を上げていた頃の作品です。メンバーはリズムセクションがトミー・フラナガン(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)。全員がデトロイト出身で、おそらくバレルとは旧知の間柄だったのでしょう。もう一人、バリトンサックスにセシル・ペインが加わっているのが面白い。なぜ、テナーやアルトではなく地味なバリトンを選んだのか一見すると不思議ですが、実は前年のサヴォイ盤「ジャズメン・デトロイト」もメンバーは違いますが同じ楽器構成なので、バレルにとっては馴染みのあるフォーマットだったのかもしれません。

全5曲、スタンダードからオリジナルまでバランス良く構成されています。1曲目”Don’t Cry Baby”はブルースの女帝ベッシー・スミスの曲。後にバレルの代名詞となるブルージーなギターがこの時点で完成されていることが良くわかります。2曲目”Drum Boogie”はスイング時代の名ドラマー、ジーン・クルーパのヒット曲。ここではセシル・ペインのバリトンが大活躍しますが、タイトルとは裏腹にドラムのエルヴィン・ジョーンズのソロはありません。3曲目”Strictly Confidential”はバド・パウエルの「ジャズ・ジャイアント」に収録されていた曲。フラナガンの軽快なソロの後、ペイン→バレルとソロをリレーして行きます。4曲目”All Of You”はコール・ポーターのスタンダード曲。マイルス・デイヴィスの名演が印象深いですが、ここではバラードからミディアムに変化する落ち着いた演奏。この曲はペインは参加していません。5曲目”Perception”はバレルのオリジナルで疾走感溢れるハードバップ。個人的には本作のベストトラックと思います。高速パッセージを次々と繰り出すバレルも見事ですが、中盤でトミー・フラナガンも目の覚めるようなピアノソロを披露してくれます。知名度はそんなに高くありませんが、バレルにハズレなしをあらためて実感させてくれる作品です。

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