Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

宇宙よりも遠い場所

2024-02-16 | テレビ・アニメ


世間で評判がいいから気になっていた。2021年にBS11で再放送された録画で13話完走。

参りました。これは傑作。前半は今の自分を変えたい!という青春もの、日常もの的な彼女たちの自然さ、そして南極観測隊のお仕事ものとしても楽しんでいた。それが後半。露わになっていく、それぞれが抱え込んでいた感情や積年の思いの爆発に、こっちまで感情が揺さぶられる。

「ざまぁみろ!」を連呼する南極到着の回。今までバカにされ続けていた報瀬の気持ちであるのだけれど、藤堂隊長のひと声で全員が叫んだのに感激。無理だと言われ続けた民間観測隊の世間への気持ちが、そのひと言で爆発する。第1話のオープニングで砂遊びで溜まった水が流れ出す場面があるけれど、「ざまぁみろ!」はまさに溜まり溜まった感情。

さすがマッドハウスと思える作画、映像表現は見事だし、声優陣がオーバーアクトにならないギリギリのところで、登場人物の昂りや気持ちの揺らぎを吹き込んでくれている。最終回は彼女たちの確かな成長が刻み込まれている。

ラスト2、3話は涙がにじむ。日向の過去に触れる回は気持ちのこもった台詞と演技でしっかり人物を見せる。それに続くクライマックスの報瀬と母のエピソード。台詞も確かにいいのだけれど、パソコンやスマートフォンの画面を無言で見せるだけで、こんなにじわーっと感情に訴えかけてくるなんて。

友達のあり方。これまでの自分を振り返させてもくれた。等身大のキャラクターばかりなのに、南極大陸という壮大な舞台の物語。一見アンバランスな題材なのに、ここまで感動的な話になるなんて誤算だった。

南極観測隊の仕事や意義、南極の様子を知る上でも意義あるアニメ。2024年1月からEテレで再放送が始まったのは、いいセレクトだと思うのだ。多くの人に見て欲しい。初回を見直したら、広島に向かう新幹線の中で、報瀬の携帯の画面がチラッと映る。メールの件名は12話に登場するお母さん宛のものじゃないか😳。嬉しかった日常を綴って送っていたんだな、と理解できてまた涙しそうになったよ。


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なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?(2022年・ドラマ)

2023-12-10 | テレビ・アニメ



アガサ・クリスティ原作のドラマ「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」一気見。近頃ミステリーに飢えていたから、NHKBSがいいタイミングで放送してくれた。感謝。
アガサ・クリスティー なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?

アガサ・クリスティー なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?

いざ、楽しく危険な謎解きの冒険へ!吹き替え版日本初放送!ミステリーの女王アガサ・クリスティーによるノンシリーズの名作をイギリスの俳優ヒュー・ローリー脚本、演出...

アガサ・クリスティー なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? - NHK

 
ゴルフ場の崖から転落した男が最期に口にした言葉。
「なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」
その謎を、海軍を辞めて職探し中のボビーと伯爵令嬢フランキーの幼なじみコンビが解き明かすミステリー。3話構成のドラマは前半はテンポよく、複雑な人間関係にも着いていけるのだが、2話の後半くらいから詰め込み気味になってきて、最後は「え?」「え?」とちょっと混乱。

それでも、ウェールズのホッとする風景と伏線回収の面白さ、そして主役2人の活躍が楽しくて3時間一気に観られた。次々に登場する謎多き人々と秘密の関わり。途中、立ち入りすぎたことでミスリードを誘う流れ。さすがはクリスティ!🤩

「ミッドサマー」のウィル・ポールターと「ボヘミアン・ラプソディ」のルーシー・ボーイントンのキャスティングが素晴らしい。2人のやり取りが、ただの幼なじみから、信頼できる友人、それぞれの得意と度胸が頼りになる間柄にだんだんと変わっていくのが面白い。そして事件を通じて最高のバディになっていく。会話の端々にお互いの身を案ずる気持ちや、嫉妬、イライラが織り込まれて、ハッピーエンドに結びつく。クリスティ作品のラストはモヤっとして終わることが圧倒的に多いけれど、爽やかな幕切れが晴れやか。3話の謎解きは、ちょっと駆け足でモヤっとではあるのだが。

ルーシー・ボーイントンのファッションとお高くとまらないお嬢さま感がとにかくカッコいい。彼女ファンなら観て損はない。



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悪魔が来りて笛を吹く(2018年・ドラマ版)

2023-10-11 | テレビ・アニメ


犬神家の一族」で吉岡秀隆の金田一耕助がちょっと気に入った。2018年の本作をタイミングよく再放送してくれたのは嬉しい限り。これ見逃していたし、原作も読んだことないし、西田敏行が金田一耕助を演じた映画版も観ていないのだ。恥ずかしながら、ストーリーに触れるのは今回が初めて。

うっわー…😨
こんな話だったのか。

華族制度が終わろうとしている頃。モンタージュ写真で残虐な事件の犯人とされた元子爵が自殺。何故死を選ばねばならなかったのか、娘が真相に迫ろうと金田一耕助に助けを求める。怪しげな人間関係から忌まわしい過去が見えてくる。

派手な殺害現場やトリックが出てくる訳ではない。確かに前半には密室殺人こそ出てくるけれど、それは一つのエピソードにすぎない。今起きている出来事を解き明かすだけでなく、過去にいったい何があったのかを紐解く謎解きが、本当のクライマックスになっている。他の作品とは違って犯人が解き明かされてからが見ものになっているのが面白い。

吉岡秀隆の金田一耕助を見るのは「犬神家」に続いて2回目。解決してから思い悩んだり、相手を気遣う優しさは好印象。倍賞美津子の大家さんがいい存在。

それにしても後味悪い。ラストの筒井真理子がめちゃくちゃ怖かった…😰。それだけうまい役者だと再認識。倉科カナのはすっぱな役柄、予想外によかった。
悪魔が来りて笛を吹く

悪魔が来りて笛を吹く

東京の元華族の屋敷を舞台にしたミステリー。過去6回にわたって映像化されたゴシック・ホラー・テイストあふれる人気作。銀座の宝石店で殺人事件が発生。容疑者とされた...

悪魔が来りて笛を吹く - NHK

 

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犬神家の一族(2023年・ドラマ版)

2023-08-30 | テレビ・アニメ


2023年に放送されたNHKドラマ。

幾度も映画化、ドラマ化されている横溝正史作品。今回の「犬神家の一族」は、吉岡秀隆の金田一耕助。
「家賃も溜めてるんだから行っておいで」
と家主に促されて依頼先へと向かう金田一は、カラカラと笑う飄々としたキャラクター。困った顔しかしない石坂浩二、険しい表情の古谷一行とは違う。クールな長谷川博己とも、チャラい加藤シゲアキとも違うw。見る人それぞれの金田一耕助像があるから、それぞれの違和感があるだろう。でもストーリーが進んで深刻な表情で頭を掻く吉岡秀隆は、個人的には好印象。

繰り返し映像化されるため、キャスティングばかりが注目を浴びがち。今回も有名どころを揃えているが、松子を演ずる大竹しのぶの凄みに圧倒される。松子役は高峰三枝子も富司純子も素晴らしい。けれど淡々と推理を聞き、真実を知っても落ち着いていた二人と違って、本作の大竹しのぶは佐清に向かって絶叫する。父佐兵衛に向けられた怨念の深さを視聴者は思い知らされる。凄い。

だが今回のNHK版の見どころは、なかなか挑戦的な改変部分だ。事件は解決するが、ふと思い立った金田一耕助は再び関係者への面会を求める。なんとも陰鬱として歯切れの悪い結末。灰色のラストシーンが残すなんとも言えない余韻は、横溝正史ものを見慣れた僕らに「そう考えたことはなかったな」と思わせる。
「金田一さん、あなた病気です」
刺さるひと言と突き放される結末にゾクっとする。面白い。凝ったビジュアルも含めて、見応えのある前後編。
犬神家の一族

犬神家の一族

映画テイストあふれる映像で話題を呼んできたNHK版「金田一シリーズ」。「獄門島」(2016)・「悪魔が来りて笛を吹く」(2018)・「八つ墓村」(2019)に続き、満を持し...

犬神家の一族 - NHK

 



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じょしらく

2023-08-08 | テレビ・アニメ


2020年代の今見ると、2010年代初頭のサブカル好きを取り巻いた空気感を思い出させてくれる。同時期のアニメやドラマ、映画、コミック、政治、世相、アニメ製作の裏事情まで盛り込んでいる面白さ。もちろん、このアニメは"女の子の可愛さをお楽しみ頂くため邪魔にならない程度の差し障りのない会話をお楽しみいただく"ことに主眼が置かれているのだが、ハイスピードで盛り込まれるネタの数々に、「あったよねー」と懐かしくなる。これもいつか世代限定のアニメになっちゃうのかなー。

落語が絡む話はほんとに各話の"枕"程度で、あとは脱線に次ぐ脱線のガールズトークを楽しむアニメ。これはこれで楽しいのだが、各話に関係する落語にちょっとでも触れて欲しかった気もする。「娘ほめ」の回なら落語の「子ほめ」の文句を一つでも散りばめておくとか。と、優等生的な感想を持ちつつも、この掛け合いのコンビネーションの見事さと、しつこいギャグの応酬はクセになる。

最終回に魔梨威(まりい)さんが高座に上がるのを袖から撮り続ける長回し(?)が不思議な余韻を残してくれる。

Bパートの東京各地を街歩きするシリーズが好き。地方都市在住のわが身としてお上りさん的に興味あるのと、切り口の面白さが楽しい。畑亜貴と神前暁コンビのOP、ヒャダイン作の桃黒亭一門によるED。楽曲よき。

お先に勉強させていただきましたっ。





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ツルネ つながりの一射

2023-07-26 | テレビ・アニメ


高校弓道部の青春アニメ第2シーズン。チームとしての結束、それぞれが抱える思いや悩みが絡み合っていく過程が、ライバル校のメンバーをも巻き込んでストーリーが幾重にも重なっていく。個人競技と思われがちな弓道だが、一人がみんなをリードする様子やチームのために自分ができることを探す様子が描かれて、個人の立ち直りが中心に描かれた第1シーズン以上に引き込まれる要素が強い。

緊張感が画面から伝わってくる試合シーン。的に当たる🎯と、こっちまで「よーし!」と叫びたくなる。彼らが矢を放つまでにどんよりした気持ちに襲われると、足元に澱んだものがたちこめたり、それぞれが意識を集中するポイント(?)に波紋のような描写が添えられる。心情をビジュアルに変換するうまさ。緑の葉🌿が舞い落ちる描写は、青春の表現なんだろう。とても爽やかに映る。これが薔薇🌹の花びらだったら「パタリロ !」になるよな、とつまらない想像をする私💧(失礼しました)。

第2シーズンで印象的なのは、登場人物それぞれのキャラクターが掘り下げられている事だろう。風舞高校の5人だけでない。桐先高校の貴公子愁くんの生い立ち、リッチな家庭に育った彼が弓道を通じて周囲とどう関わってきたのかが描かれる。特に人懐っこい遼平との交流で、彼を取り囲んでいた壁が取り払われていくのが印象的だ。第1シーズンで嫌われ役だったドッペル兄弟もはやけを経験して人間的な成長を見せる。そして湊や静弥、愁とは中学の先輩でもある辻峰高校の二階堂の存在が、ドラマをかき回してくる。何のために弓を引くのか、射場に立つのか。その意味を考えさせるきっかけとなる大きな存在だ。

脇役キャラも素敵な存在。風舞女子部員のいかにも京アニらしいキャラクターも相変わらずいい。男子たちを冷やかに見ているようで、理解者でもある。今期では桐先のアイドルヲタ佐瀬先輩が好き。「のりりんにこの射を捧げる!」に爆笑🤣。いやいや、好きって万事に置いて強烈な推進力になるのです。辻峰で二階堂を見守る不破、豪快な大田黒もいい存在感を示す。

OP曲はラックライフの「℃」。仲間とのつながりから感じるぬくもりが、前向きな力になっていくことを高らかに歌う。サビの四分打ちドラム🥁に、思わずヘドバンしてしまう長女と私w。なんか四分打ち好きなんよねー。変ですか?






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笹の葉ラプソディ

2023-07-10 | テレビ・アニメ


雨の七夕🎋。
ふと「笹の葉ラプソディ」を見たくなって配信で見返す。
何度も見てるもんだから、台詞をタイミングよく唱和できる💧
「禁則事項です…」
「あんた名前は?」
「ジョン・スミス」
「16年か、遠いなぁ」

初放送からハルヒが言う16年目がもう少し。朝日奈さんは裁縫が上手になるだろか。ハルヒを中心に世界は回るだろうか。古泉君が望んだ世界平和は実現するだろうか。キョンはお金が増えただろうか。長門が望んだ調和と変革は起こるのだろうか。

時々、無性にSOS団に会いたくなる。




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推しの子

2023-07-02 | テレビ・アニメ


全11話完走。原作未読。今、僕の脳内でいろんな困惑が起こっている。その原因は、間違いなく、「推しの子」が掛け値なしに面白いからだ。

あれこれ見てきた今の年齢になってると、映画やアニメやドラマ見ながら、これまで見てきたいろんなものが脳内で勝手に結びついてくる。あれに似てるよね、でも期待を超えない、うーん既視感あるなぁ。大人たちが経験というアドバンテージを振りかざして、作品を評する時に使う言葉たち。逆に共感できず、ヤングの感覚(死語)についていけないと思ったら、おじさんにはわっかんねぇなーと逃げちゃえばいい。大人ってズルい。

僕も最初はこの流行ってるアニメをナメてた。美男美女キャラが出るだけの混みいった話だとしか思ってなかった。ところが初回の90分で度肝を抜かれたのだ。難病ものかぁ、ドライな台詞で笑わせちゃって、えっ?殺人ミステリー?、流行りの転生もの?、喋る不気味なベイビー、ネットの闇、青春、業界の内幕もの、猟奇殺人、そして復讐劇。あらゆる要素がてんこ盛り、目まぐるしく変わる演出テイストと怒涛の展開。僕のおじさんな脳髄がこの「推しの子」って作品をどこかにカテゴライズしようとするのだが、結論を出せずに困っているのだ。そして脳髄はこう結論を出した。

「どれにも似ていない。」

各話でテイストが変わるからそれぞれを深く考え、楽しみ、ケラケラ笑い、シリアスに社会問題を考え、ラブコメにドキドキして、手に汗を握る。1期最終話を終えてドキドキが止まらない。

初回や転生場面前後で使われていた"推しの子"という言葉が、11話の有馬かなのひと言「アンタの推しの子になってやる」で違うベクトルを示された時、背筋に電気が走った。
ああ、そうか、
好きになるってこういうことなんだね
どっかのアニソンの歌詞と同じフレーズが浮かぶw

アクアの冷静沈着なキャラが好き。登場人物それぞれを結びつけ、主軸のストーリーでは探偵役になる。女性陣では有馬かなが好き。自虐と自信と不安と信頼と疑い、そして恋する乙女が同居するめんどくさいヤツ。脇役では少年アクアを早熟と呼ぶ監督がいい。

それにしても恐ろしいのは、YOASOBIが手がけたOP曲「アイドル」。本編とリンクする歌詞、音が飛びまくるメロディを歌いこなすテクニカルなボーカル、1分29秒に怒涛の展開を見せつけるアレンジの凄さ。ルビーのキャッチーな魅力と、アクアの計算づくな思惑が楽曲で同居してるようだ。すげっ。

ちょっと気になるのはストーリー上でのインターネットやSNSの描写。アイが活躍していた時代と現在とで情報技術的な部分の時代の差があまり感じられないところ。いや、そんなところを気にするのはおっさん世代だからかもしれないな。

ともかく2期を座して待つ。
アニメ『【推しの子】』公式サイト

アニメ『【推しの子】』公式サイト

「この芸能界において嘘は武器だ」赤坂アカ×横槍メンゴの豪華タッグが全く新しい切り口で”芸能界”を描く衝撃作、ついにアニメ化決定!

アニメ『【推しの子】』公式サイト

 




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メーテルレジェンド 交響詩宿命 第一楽章・第二楽章

2023-06-03 | テレビ・アニメ

◼️「メーテルレジェンド 交響詩宿命 第一楽章」・「第二楽章」(2000年・日本)

声の出演=雪乃五月 池田昌子 榎本温子 潘恵子 松山鷹志

(第一楽章)
「銀河鉄道999」は他の松本零士作品と関連がある。それぞれを読んでいた当時は、関係を感じさせるひとコマを見て、そうだったのか!と驚いたり感動したり。OVAとして発表された本作はメーテル、エメラルダス、女王プロメシュームとの関係を描いた「銀河鉄道999」の前日譚。

長大な楕円軌道をもつ惑星ラーメタルは、太陽に近づく期間がわずかしかない。人工太陽にも限界があり、寒さに凍えて滅びを待つばかりであった。生き延びるために機械の身体になり、国民にも機械化手術を受けさせることを選んだ女王。しかしその裏には機械人間ハードギアの陰謀があった。女王の2人の娘は陰謀に立ち向かうことを決意する。

本編となる各作品への思い入れが強い人向き。「999」本編を知らずに、時系列で「メーテルレジェンド」を最初に見ると「999」のミステリアスな面白さが半減してしまうだろう。だがオールドファンが本作前後編を観て、劇場版「銀河鉄道999」第1作を再度観ると、感慨深いものがあるに違いない。

前編はラーメタルの人々が機械化を選択せざるを得なかった事情が語られる。自ら滅びる選択はできないだけに、確かに仕方なかったのかもしれない。しかし、機械が体内で自己増殖を始めて、プロメシュームの身体から人間としての感覚や感情が失われていく過程が見ていて辛い。生身の人間が次々と命を奪われていく様はホロコーストと重なって見える。

メーテルと言えばあの黒服なのだが、その白服で登場するのも印象的。二人の娘を助ける老人はヤマトの沖田艦長を思わせるキャラデザイン。老人が造る光線銃は、"戦士の銃"コスモドラグーンの原型。

10代の頃、松本零士の描く女性を何度も描く練習した。特にあの眼を描くのに力が入るから、自分で描くと眼が大きくなりがちでバランスが悪い。スッとしたあの顔にならなかったっけ。本作をディスする気持ちはないけれど、本作のメーテルとエメラルダスの作画も眼がデカいw。でも眼をちゃんと描いてこそ松本作品の女性なのだよ。

(第二楽章)
メーテルとエメラルダスが機械人間の陰謀に立ち向かう物語の後編。機械人間ハードギアの支配はなおも続く中。女王プロメシュームの身体は次第に機械に支配され、人間としての母としての感情が失われようとしていた。ハードギアの魔手から娘を逃れさせようと脱出することを勧める女王だが、娘二人は悪に立ち向かう、母を救いたいと首を縦に振らない。正気を失いつつある女王と娘に決断の時が近づいていく。

松本零士のメカ表現は、「999」の機関車内部に見られるように無数の計器やインジケーターが描かれることだ。子供の頃はよく真似て描いて楽しんでいた。しかし、本作ではそれらがプロメシュームの美しい身体からケロイドのように浮き上がってくる。この場面は、前作から続くホロコーストを思わせる描写と重なって不快な気持ちにさせられる。

娘を思う気持ちを口にした次の瞬間には、ハードギアの命令に従い、メーテルに殺意をむき出しにする。母に銃を向けてでも立ち向かうと言うエメラルダスと、それでも母を救えないかと迷うメーテル。葛藤のドラマはますます混沌としていく。

二人を助ける老人ダガーとその息子も印象的な存在。「メーテル様のおかげで人間の心のまま死ねます」のひと言に泣ける。

プロメシュームが正気に戻るたびに、それまでの会話が蒸し返されるので、中盤は話が遅々として進まない印象を受ける。しかし、脱出艇を失った後、惑星ラーメタルに停車しなくなっていた999号で二人を脱出させることを思いついてから、ドラマは一気に濃厚さを増していく。悪党ハードギアと対峙する女王プロメシューム。劇場版「999」でお馴染みのあの姿になる瞬間が訪れる。そしてプロメシュームが娘に告げる遺言とも言えるひと言が重い。そして空からあの汽笛が聞こえてくる。

母から託されたトランクを開けるラストシーン。「銀河鉄道999」「宇宙海賊クィーンエメラルダス」「新竹取物語1000年女王」の物語が繋がっていく。ドクターバンが封じ込められたペンダント、機械伯爵も登場。

(蛇足ながら)
松本零士のこうした作品でテクノロジーの発達とそれに支配される人間の構図を散々見てきた僕ら世代は、現実世界でDXやら生成AIやらデジタル化の波に直面している。結構なことだし、合理的で便利なのは間違いない。でも、一方で失われるものがありはしないか、とつい思いを寄せてしまうのだ。ツールとして使いこなせればいいけれど、応酬の為だけに国会答弁がAIで生成されたり、芸術作品が機械によって模倣を繰り返されたり、いろんなお伺いをAIに委ねてそれに盲目的に従ったりする未来が来やしないか。そんな思いが心のどこかにある。大袈裟なのは百も承知だが、松本零士作品に触れることは、そうした未来を人間の気持ちに寄り添ったものにしていく良心回路になるのかもしれないな。







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SPY x FAMILY

2023-04-07 | テレビ・アニメ


夫婦で隠し事があってそれがスパイや殺し屋でした、と言うお話なら世間にいくらでもある。アンジーやブラピ、トム君の顔が浮かぶことだろう。だけどそこに子供という要素が加わり、偽装するのが家族となると事態は一変する。この作品の基本設定を聞いて、最初は「なんぼのもんじゃい」と思っていたが、気づくとどハマりしていて、全12話を長女とキャアキャア言いながら完走。

任務に忠実になればなる程、隠し事を貫こうと思えば思う程、世間から魅力的に映る家庭にならなければならない。そのギャップ、ジレンマ、スパイの立場を利用しまくった家庭円満作戦、受験合格作戦の数々が楽しい。

ロイド・フォージャーがひたすらカッコいい。ああいう色のスーツいいな、そー言えばバブル期にモスグリーンのスーツ持ってたな。ED曲歌ってる星野源もPVでこんな色のスーツ着てるな。007、ジェームズ・ボンドこそ男子の理想と育てられた僕だけに、ロイドのキャラクターに憧れる。ヘンダーソン先生と一緒に「エレガント!」と称えたくなる。

長女に言ってみた。
😏「将来男の子の母親になったら、こういう男になりなさいって、このアニメ見せるんやろ」
🧒🏻「いいかもね、ちち(アーニャの口調)」
まあ、もともとうちは"ちち""はは"と呼んでいたから違和感はないのだが。

わが家は一応お受験を経験しているので、両親と子供での面接の回は、嫌な記憶が頭をよぎる。
😐「オレが質問に答えてる時に、お前立ち上がって走り回ったんだぞ。覚えてるか?」
🧒🏻「知らない。覚えてないよ、ちち(アーニャの口調)」

ヨルさん(大好き)の特訓が成功しないオチも笑わせてくれる。
🧒🏻「ははの教え、役に立たない(ここまでアーニャの口調)…って、近頃マぁジそう思う」
😟「まぁまぁ」
早見沙織のボイスアクトは、落ち着きを感じさせるのに、少女のような茶目っ気もあるキャラを見事に演じていて好感。「平家物語」の建礼門院徳子もよかったしな。

隠し事があるかないかは別としても、世間が考えるよき家族を演じなければならない場面って人生について回ることは得てしてあるものだし、関係を守るために真剣になることはどこの家庭にもある。それはフォージャー家となんら変わらない。フツーじゃないのに、どこか共感できる不思議な感覚。









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