■「老親」(2000年・日本)
監督=槙坪夛鶴子
主演=萬田久子 草笛光子 小林桂樹 榎木孝明 岡本綾
誰にでも老いはやってくる。自分もいつかは親の介護を考えなければならない時期がやってくることだろうし、その先自分も同じ立場に・・・。これからを考える為にも観ておこう、そう思っていた。正直なところ、もっと重い話だと思っていた。中村玉緒主演の医療もの昼ドラを見るようなのを想像していたのだ。しかし、それは間違いだった。老親を抱えた家族の成長物語として実に爽やかで元気をくれる映画だ。
映画の前半は厳しい現実が描かれる。仕事を理由に親の面倒を押しつけてくる夫、長男の嫁であることからくる要求・非難、虐待に近い状況で育てられた過去・・・萬田久子演ずる主人公は精神的にギリギリになっていく。病院で花を切り落とす場面、葬儀の後で夫の親族に啖呵を切る場面。夫榎木孝明に特に象徴されているのだが、こういうときの男は本当に頼りなく見える。自分が同じ立場だったら・・・どういう行動がとれるだろう。小林桂樹扮する義父との生活で疲れていく主人公は、夫に離婚を請求。子供と東京で暮らし始めるが、そこへ義父がやって来る。なさそうでありそうなこの展開から、映画はグッと面白みを増してくる。奇妙な共同生活が始まり、義父は慣れない家事にも挑戦しようとする。孫に「ゆっくり成長するタイプ」と言われた義父が、次第にしっかりしていく様には、「かわいい」とさえ思えてくる。萬田久子の明るさと”ただではころばない”主人公の前向きな姿勢は、これまでの日本映画には成立しにくいキャラクターだ。公園での若者のダンスに体を揺らす義父と主人公。何とも微笑ましい場面だ。
人間関係が円滑にいくのは、お互いが役割を担いそれをこなしていくこと。そう学ばされた気がする。また、岡本綾が演ずる孫娘の成長ぶりも印象的だ。特に介護福祉士として、施設のおばあちゃんにオムツをさせる場面は心に残る。義父が亡くなった後のファンタジックな場面も素敵。老いは誰にもやってくるが、老いもまた成長なのかな、と思った。年齢を重ねることによって学ぶことはたくさんある。そして家族も成長していくものなのだ。撮影中、槙坪監督は認知症の母親を連れてご自身も車椅子の身で演出したそうだ。そういうエピソードを聞くと、この映画に込められた愛がますます感じられる。