■「長江哀歌/三峡好人(Still Life)」(2006年・中国)
監督=ジャ・ジャンクー
主演=チャン・タオ ハン・サンミン ワン・ホンウェイ
三峡は、長江中流に位置する幽幻な山地の風景が有名な場所。映画にも出てくるように、人民元紙幣のデザインにも使われている。そこには毛沢東の時代から大規模なダム建設が計画されており、万里の長城以来とも言われるくらいの国家的プロジェクトとなっている。事業の陰でダムの底に沈む村がある。この映画は沈みゆく村を舞台に、別れた家族を探すふたりの人物の姿を綴る物語。
発展という名のもとで変わっていく中国。これを映画は決して肯定して描かないし、かといって文明批判めいた描き方もしない。この映画にあるのは、何とも例えようがない喪失感。出てくる人々は、みんな何かを失っていく。何年も会っていない家族を捜しに来た男ハン・サンミンは、愛する子供に会うことも果たせない。彼を棲ませた家主は、ダム建設による取り壊しで家を失ってしまう。元妻を探すのを手伝ってくれたチョウ・ユンファ気取りの男を友に得たが、彼は瓦礫の下敷きになってしまう。音信のない夫を捜しに来た女シェン・ホンは、やっと再会した夫に別れをきりだす。それぞれが大事なものを見つけに来たはずなのに、何も手にすることはない。寂しさに満ちたラストシーン。
銀幕を通じて、現地の湿っぽい空気が伝わってくるような映像が印象的だった。登場人物はよく水を飲むし、汗をかいている。ハン・サンミンは全編を通してランニングシャツしか着ていない。それにしても、突然オブジェとして現地で作られた塔がロケットとなって飛び立ったり、元妻と再会した場面で突然ビルが崩れ落ちたりと、静かな映画の空気感を敢えて崩したいのか、理解しがたい演出もみられる。
時代と共に国家は変わりゆく。それでも大河は昔と変わらずに流れていく。発展で変わりゆく国の陰で、名もなき庶民である誰もが、つつましく生きていくように。
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