■「ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢/Every Little Step」(2008年・アメリカ)
監督=ジェームズ・D・スターン
ミュージカル「コーラスライン」というと、金色の衣装に身を包んで一列に並ぶあの場面を真っ先に思い浮かべる。80年代に映画化されたのはまだ観たことがないが、それでも「コーラスライン」が多くの人々に愛されたミュージカルだったことは理解している。このドキュメンタリー映画は、16年ぶりに再演されることになった「コーラスライン」のオーディションを記録したものだ。3000人のダンサーが応募。プロフィールに「踊れる」と書いてある人にはとにかく会う。そして最終的に19人に絞られる8ヶ月にも及ぶオーディション。8ヶ月と簡単に言うが、その間舞台の仕事に就けるかどうかの不安定な状態。でも彼ら彼女らはライトを浴びて踊り歌う為に、努力し続ける。幼い頃に「コーラスライン」を見て、「自分が大人になってこれを演ずる」と心に決めて過ごしてきた人までいる。既に他の舞台の出演経験のある者もノンプロも、みんな同じ舞台に立ってオーディションを戦う。
当たり前のことだがドキュメンタリーは真実を映している。劇映画のような過剰な演出や誇張がある訳ではない。それ故にドキュメンタリーにしか味わえない感動がある。この映画で僕らは目標に向かって頑張る人の姿をありのまま目にする。あの華やかなミュージカルの陰でこんなにたくさんの人々が汗と涙を流し、成功と挫折が交錯していることを僕らは知る。高い実力で成功を手にする者もいれば、採用という縁につながらない者もいる。それぞれが持つ個性が、演出家の思うイメージに合うかどうか、それは実力で成し得るものとは違う。それでも人が頑張る姿は実に美しい。夢があるから人は頑張っていけるのだということも改めて感じた。
僕はこれまで、誰かが何かを成し遂げようとすることをサポートする仕事に携わってきた。前職もそうだし、今の職場もそうだ。特に今の職場では目標に向かって頑張る若い子たちに関わってきた。彼らから僕は元気ももらったし、勇気ももらった。決まらなかったら・・という不安な数ヶ月を共にすることもやってきた。努力が報われる者もいれば、そうでない者もいる。目標に突き進むヤツもいれば、それから逃げてしまうヤツもいる。彼らの姿を僕は重ねてしまった。
この映画が語るもうひとつの大事なことは、「コーラスライン」が生まれるまでの秘話だ。ダンサーたちが語り合った本音を舞台にしたダンサーの為のミュージカル。初演の映像や原案となった録音テープを聴くと、ダンスに一途な人々の愛を感じる。ひとつの舞台は作り上げられるまでに、様々な人の思いや人生が結集している。人と人とが作り上げたもの、人と人とがぶつかり合って繰り広げられるものが持つ迫力・訴える力は素晴らしい。このドキュメンタリーも繰り返し見たくなる。そして、改めて舞台を観たときに、きっとこの映画に登場した人々の笑顔や涙を思い出すことだろう。