■「イルマーレ/Il Mare (時越愛)」(2000年・韓国)
監督=イ・ヒョンスン
主演=イ・ジョンジェ チョン・ジヒョン チョ・スンヨン
何て美しい絵になる映画だろう。画面を見つめているだけで幸せな気分になれる。冒頭の緑がかった水面を走るカメラ、パステル画のような空と海、その真ん中に海に突き出たモダンな建物。この上なく洗練された映像美と主人公の生活ぶりに韓国映画らしさってものを忘れそうになる。極端な言い方をするとキムチ臭くないのだ(笑)。でもそんなことよりも、切ない恋物語がたまらない。僕はこういう”ちょっとおセンチな雰囲気”に実に弱いんだ。
イルマーレと名付けられた海辺の家の郵便受けを通じて、1998年の男性と2000年の女性が心を交わすというSFファンタジー的要素を持つ物語。僕は恋愛映画に必要なのはスリルとサスペンスだというのが持論だ。ハラハラとドキドキ、そんな心の動き、それにこの先どうなるの?という観ている側の居心地の悪さが加わって初めて良質な恋愛映画は成立する(つまり先が見え見えの映画ではダメということね)。その点、この映画は高得点。主人公二人の心の動きというドキドキに、クライマックスの一刻を争うスリルの相乗効果がよい。
手紙を通じて知り合う前の彼女(チョン・ジヒョンをついこう呼んでしまう・笑)が彼氏といるのを、駅のホームで見つめる場面の切なさ。紛れもない本人なんだけど、自分が思いを通わせているのとは異なる次元の人物。僕はここでかなり涙腺刺激されちまった。チョン・ジヒョンが声優という設定も、ある意味顔が見えない恋愛映画を象徴しているのかもな。同じ犬が双方の時間にいることに説明がないのと、イ・ジョンジェと父親との関係をもっと描いて欲しかったという不満はあるけれど、主人公二人に焦点を絞った作風がむしろ潔いとも言えるかな。愛する人のために家を設計し、建てました・・・なんてどっか「冬ソナ」のクライマックスを思わせるじゃない。キム・ヒョンチョルが歌う ♪Must Say Goodbye が流れ、エンドロールが終わった後。僕の口からもれた言葉は・・・「あー、恋がしたい!」。子持ちがそんな事思っちゃいけないって?でもこんな映画みて泣ける自分はまだまだイケてると思うのだけれど(バカ)。あ、犬の目線の主観移動という見事なカメラワーク!これは機会があったら是非真似したいな。
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この文章を書いたのは2004年。キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックでハリウッドリメイクされた韓国映画の秀作。韓国の恋愛映画ってシナリオがよく練られていて、単に色恋沙汰のハラハラだけじゃない面白さがある。それにしても恋愛映画観る度に「恋がしたーい!」と年甲斐も立場も考えず書いてしまう自分・・・(恥)。しかしそういう気持ちになるだけで、いろんな意味で原動力になるのさ。これからもそれはきっと。