■「そこのみにて光輝く」(2013年・日本)
監督=呉美保
主演=綾野剛 池脇千鶴 菅田将暉 高橋和也
仕事で起きた死亡事故が原因で日々を空しく過ごしている主人公達夫。彼はパチンコ店で拓児という若者と知り合う。拓児の家に連れて行かれた達夫は、拓児の姉千夏と出会う。父親は脳梗塞で寝たきり、拓児は前科があり保護観察中。千夏は身体を売って生活費を稼いでおり、拓児の保護司をしている会社社長とは"腐れ縁"な身体の関係がある。どんづまりな生活を送る千夏と親しくなった達夫は、彼女を支えたいという気持から元の仕事に復帰することを決意し、拓児も一緒に働くと言い出す。事態は好転するかと思われたのだが・・・。
どんづまりな状況に生きる人々を描いたこれまでの日本映画は、これでもかと悲惨な場面を観る側に突きつけてくる。それでも生きていく強さを感じさせてくれる映画もあるが、そんなにバイタリティを持つ人物ばかりではない。銀幕を観ることが辛くなるような映画もこれまでたくさんあった。この「そこのみにて光輝く」が描く千夏と拓児の状況も確かに厳しいものだ。しかし、これまで観た映画とは何かが違って感じられる。場面の説明として状況をみせるのとは違って、その場の空気感を肌で感じているような現実味がこの映画にはある。僕はそう思えるのだ。
扇風機ひとつの部屋で焼き飯を食べる場面のムッとするような空気。寝たきりなのに性欲だけが抑えきれない父親が真っ暗な部屋から妻を呼ぶ声。灰色の空の下にひろがる、よどんだ海の色。そして役者たちの演技がその現実味を説得力あるものにしてくれる。寡黙な綾野剛のぼそぼそしたしゃべりは、失意の中にいるけれどクサってはいない主人公の人間像が感じられる。池脇千鶴はしぼられていない身体が千夏の生活感を感じさせるし、達夫のやさしさを感じて微笑む表情がとても自然だ。「ジョセと虎と魚たち」での熱演を思い出させる。菅田将暉が見せた最後の涙も印象的だし、高橋和也が「(家族を)大切にしてるからおかしくなるんじゃ!」って台詞もとても現実感がある。映画全体に"つくりもの"な感じがしない。
生き方がうまいヤツは誰一人として出てこない。でもそれは銀幕のこっちの僕らだって同じだ。どうしようもない、と暗くなってしまうときにも一筋の光となってくれる誰かがきっといるし、お互いがそういう存在になれる瞬間がきっとある。それは誰に対してもそうではなく、特定の誰かに対してであったりする。"そこのみにて"ってそういうことなのかな。ラストの海辺の場面を見ながらそんなことを考えた。重苦しいテーマなのにどこか前向きな気持にさせてくれる。誰の心にも響くタイプの映画ではないかもしれないけれど、このラストシーンで温かな気持になった人は少なくないはずだ。この映画は、そんな人の心に残り続ける佳作となるだろう。
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