◾️「何がジェーンに起こったか?/What Ever Happend To Baby Jane ?」(1962年・アメリカ)
監督=ロバート・アルドリッチ
主演=ベティ・デイビス ジョーン・クロフォード
小学生の頃だったか。親に親戚の家に連れて行かれて、大人たちが話し込んでいる間、テレビがつけられた部屋で待っていた。その日、真昼間の映画番組で放送されていたのが、よりによってこの「何がジェーンに起こったか?」だった。途中から観始めたし、ストーリーもなんかよくわからない。でも顔を白塗りしたおばさんが、お姉さんを部屋に閉じ込めて過剰にいじめているのは理解できた。怖い、なんか怖い。マンガ読んでたはずなのに気になってしかたなく、チャンネルを変えることもせずに見ていた。ビーチで大勢に囲まれながら踊るラストの白塗りおばさん。怖い。怖い映画の一場面として僕の記憶に刻まれ、トラウマ映画のひとつとなった(同じシチュエーションで観たアラン・ドロンの「ショック療法」も僕のトラウマ映画)。
かつて子役スターとして人気を博したジェーン。しかし、大人になると姉ブランチが女優として評価され立場は逆転してしまう。ジェーンにも仕事を取ってくるブランチだが、アルコールに溺れるジェーンの仕事は、周囲を満足させるものではなかった。ブランチは自宅前で起きた交通事故で、車椅子生活をする身となってしまう。ジェーンはブランチの世話をしているが、ブランチへの嫉妬から嫌がらせがだんだんエスカレートしていく。常軌を逸した行動にブランチは助けを求めようとするが、ジェーンに見つかってしまう。ジェーンはブランチを監禁し、自らはショービジネスへの復活をしようと伴奏者の求人を出すのだが・・・。
サスペンス映画と言う表現では甘い。これはスリラー映画であり、ホラー映画と言っても通ずる恐怖。ビジュアルで怖がらせる映画は目を背ければいいのだが、こういう精神的に追い詰められる恐怖映画は本当に目が離せなくなってしまう。怖いのに、そんなの観たくないはずなのに。タイトルバックに壊れたベイビージェーン人形が映されるが、その後人間が精神的に壊れていく様子をじっくり2時間観ることになる。
身内でいがみ合いが始まると、本当にどうしようもなくなる。過去の栄光にしがみ付くジェーンも、家から出られない生活を送るブランチがファンレターを楽しみにするのも、伴奏者として仕事を得たいエドウィンも、みんな何かにすがろうとしている人々。今観るとそれがわかるだけに切ない。
キム・カーンズの大ヒット曲「ベティ・デイビスの瞳」は、人を虜にする女性の姿や行動を並べ立てる。その中で、「グレタ・ガルボのように立ってるだけでため息が出る、ベティ・デイビスの瞳を持った女」と歌われる。それは往年の美しい女優たちの魅力として歌われたものだ。しかし、この「何がジェーンに起こったか?」の老女ベティ・デイビスの瞳も、僕らを捕らえて離さない。正直言うと、ジェーン役のベティ・デイビスのイメージで僕はキム・カーンズの曲を聴いていた。そして子供心に刻まれた恐怖心を、聴く度に思い出していた。周りの友達がいいオンナを歌った曲だと言う中で、僕は一人「これは怖いオンナの歌だよ」と言った。おそらく友達と僕の認識は大きく食い違っているに違いない。