◾️「天才作家の妻 40年目の真実/The Wife」(2017年・アメリカ=イギリス=スウェーデン)
監督=ビョルン・ルンゲ
主演=グレン・クローズ ジョナサン・プライズ クリスチャン・スレーター
作家ジョセフと妻ジョーンの元にノーベル文学賞受賞の吉報が届いた。息子と共にストックホルムに向かう二人に、記者ナサニエルが話しかける。彼はジョセフの経歴に疑いを持っていた。ナサニエルが秘められた真実に近づこうとする中で、ジョーンは長年溜め込んでいた夫への不満が高まっていく。ノーベル賞授賞式の中、真実が明かされるのか。
かつては自ら作家を志していたジョーン。しかし女流作家に見向きもしない当時の風潮もあり、自ら作品を発表することはしなかった。 そして作家として華を咲かせずにいた夫ジョセフを影で支える役割に徹していた。彼女の役割は、ジョセフのアイディアを形にして、文章として書き上げる作家としての核の部分を担っていた。そして作品はジョセフの名で発表され、革命的な作風と世間の評価を高めていく。一方でジョセフは自作であるにもかかわらず、代表的な登場人物の名前すらポンと出てこない有様。しまいにはノーベル賞の取材を受ける際に、妻を紹介し「彼女は書かない」と言い切ってしまう。これでは怒りを抱かれても仕方あるまい。映画冒頭の一方的なセックスから始まって、ジョセフは好意的なキャラクターとしては描かれない。妻の支えに胡座をかいているいけ好かない夫。それだけにクライマックスでジョーンの感情が爆発する場面は、力強い説得力をもっている。
グレン・クローズの演技が高く評価されている。それは「妻」として、ヒロインが務めてきたいくつもの役割、様々な面を、この上映時間で見事に演じているからだ。有名作家の妻という世間的なイメージ、影のライターとしての役割、一方でうまく果たせなかった家庭内での母の役割。そもそもジョーンがジョセフの小説に手を入れ始めたのは、夫婦がお互いにないものを補い合おうという気持ちからだ。しかも彼女にはそれをやれるだけの才能があった。その気持ちは夫婦なら持ち得るものだし、自然なことだ。しかし、小説を書くということについてそのバランスが大きく崩れてしまったのだ。その一方で夫婦としての二人の様子はとても現実感がある。夫婦の意見がいかにぶつかっても、娘や息子の話になるとすぐに親の顔になる二人の様子はとても自然だ。そして夫の名誉を守ろうとするラストにも、芯の通った妻の気持ちが感じられる。映画の原題「The Wife」が示すようにまさに、妻としての様々な顔を見せてくれるのがこの映画の魅力。それにひきかえ、やたら説明くさい邦題。観客にわかりやすいタイトルということなんだろうが、タイトルでネタバレさせるのはいかがなものか。ミステリーと勘違いされたり、変な先入観を持たれかねない。
久々にみた気がするクリスチャン・スレーター。執拗に真実に迫ろうとする記者役は、かつての「インタビュー・ウィズ・バンパイヤ」を思わせてよく似合う。