◾️「ファースト・マン/First Man」(2018年・アメリカ)
監督=デイミアン・チャゼル
主演=ライアン・ゴズリング クレア・フォイ ジェイソン・クラーク カイル・チャンドラー
人類初の月面着陸を成し遂げたアポロ11号。船長ニール・アームストロングを主人公にして、その成功までの道のりを描く人間ドラマ。宇宙飛行士やアポロ計画を扱った映画は数あれど、ここまで乗組員個人に迫った作品はなかった。また、宇宙開発に向き合う人々を英雄視することもなく、アポロ計画に反対する世論や議員の反応など、時代背景が丁寧に盛り込まれているところも注目すべき ポイントだ。それだけに訓練やミッション場面の緊張感はあっても、「スペース・カウボーイ」のような高揚感はまったく感じられない。徹底してクールな印象の映画だ。ライアン・ゴズリング=陰気臭い役者、と僕が思っているのも影響しているかも。
ロン・ハワード監督の「アポロ13」がエンターテイメント作品としていかに優れていたかということ、アルフォンソ・キュアロン監督の秀作「ゼロ・グラビティ」の良さは映像の魅力が大きいことを改めて思い知らされる。ドッキングやエンジン切り離しなど船外の様子は映るけれども、映像はほぼ乗組員の目線と船外の一部でしかなく、観客に体験させるような感覚を狙った演出となっている。月面着陸する場面で、映画館が無音状態(呼吸音だけ)になる。乗組員の目線と観客の僕らが重なるこの瞬間は息を飲む。
チャゼル監督の演出は、過去2作品ともそうだが、台詞に過剰に頼らない。驚くようなカメラワークでグイグイ観客を引き込んで、最後は映像で納得させる人だ。「セッション」のクールでとんでもなくカッコいい物言わぬラストシーン(大好き)も、「ラ・ラ・ランド」のやたら未練がましくてお涙頂戴なラストシーン(大嫌い)もそう。
「ファースト・マン」では、亡くなった娘が小さな棺に入れられて地中に下げられていく様子と、アームストロング船長が棺桶みたいな宇宙船のコクピットに乗せられて空に打ち上げられる対比が無言のうちに語られる。そしてアームストロング船長が月に持って行った私物。これは原作にも記述がなく、生前本人から語られてもいないそうだ。アポロ1号の失敗で仲間を失った後、ミッションに狂ったようにのめり込んでいくアームストロング船長の冷徹さが示された後だけに、ミッション前子供と話す場面と共に印象に残ることだろう。
そして、チャゼル監督らしくやっぱり物言わぬラストシーンが待っている。巧い。だけど、カッコ良すぎるよ。僕はやっぱり陰気臭いゴズリングは苦手なようだ。