◾️「 12モンキーズ/ 12 Monkeys」(1995年・アメリカ)
監督=テリー・ギリアム
主演=ブルース・ウィリス マデリン・ストー ブラッド・ピット クリストファー・プラマー
世界中で新型コロナウィルス感染拡大が続く。日々感染者が増えていく報道の中で、ウィルスが世界に拡大する「猿の惑星 創世記」のエンドクレジットで戦慄した記憶がよみがえった。されど、これは現実。一刻も早い収束を祈るより他はない。そんなご時世に未見だったテリー・ギリアム監督作「12モンキーズ」に挑んでみた。
21世期初め、世界に蔓延したウィルスで人類が絶滅の危機にある世界。人々は地下に逃れていた。科学者たちはウィルス感染拡大の原因を探るべく、過去に調査員を送って対策を講じようとしていた。特赦を条件に1990年代に送り込まれた主人公ジェームズ・コールは、日々同じ夢にうなされていた。それは記憶なのか、単なる夢なのか。そしてウィルスを撒き散らしたのは誰なのか。その事件の発端とされる" 12モンキーズ"とは?
練り上げられた脚本の力に圧倒される130分だった。物語の設定はもちろん、各エピソードが後々の伏線として見事に機能して終息へと向かう構成。Blueberry HillsやWhat A Wonderful Worldなど今の僕らでもノスタルジックに響く楽曲が、未来人の心に響く様子。逃げ込んだ映画館で観るヒッチコックの「めまい」と「鳥」。キム・ノバクが木の年輪で時間について語る場面とタイムリープ、鳥に襲われる場面と動物が闊歩する場面。マデリン・ストーが髪の色を変えるクライマックスは、「めまい」のキム・ノバクに重なる(詳しくは「めまい」を観て!)。まるで詩が韻を踏むような映像の呼応。これに気持ちがどんどん乗せられていき、怒涛の結末へとなだれ込む。展開を楽しむだけでなく、ちょっと頭使わないといけないから、ますます引き込まれていく。こういう映画をウェルメイドと称していいだろう。
テリー・ギリアム監督作は「未来世紀ブラジル」こそお気に入りだけど、あんまり観ていない。「モンティパイソン」は若い頃観たせいか笑いのツボが理解できなかったし、「バロン」も映像には感激したもののどうもピンとこなかった。そんな苦手意識が先に立って、以後観るのを避けてきた監督の一人。そんな僕が言うのはおかしいかもしれないけど、「12モンキーズ」はギリアム監督"らしい"映画なんだろか。ハリウッド製エンターテインメントに、テリー・ギリアムの世界観をスパイスとして持ち込んだ映画という印象を受けた。未来世界の描写に「ブラジル」のようなダークで独特な造形と映像が欲しかっただけのようにも思えた。
とはいえ、SF映画らしいストーリーと発想に、映画としての満足度はかなり高い。マデリン・ストーもまさにカッコいい女っぷりが輝いていた時期だし、フッきれた演技のブラッド・ピットはやっぱり上手い。映画館での会話がとても印象的だった。「自分の過去を見ることは映画を見るのと同じ。同じ映画なのに自分が変わっているから違ったものに見える」と主観の変化を口にするブルース・ウィリス。「それでも起こったことは変えられない」と客観的に答えるマデリン・ストー。どちらの言葉にも心に響く。
今騒がれているこのウィルス騒ぎが、こんなことがあったよね、と話せる日が訪れることを心から望む。未来から救済保険業の人が来てくれないだろかw