◾️「時をかける少女」(1983年・日本)
監督=大林宣彦
主演=原田知世 高柳良一 尾美としのり 根岸季衣 岸部一徳
大林宣彦監督が亡くなった。カルトな傑作「ハウス」、「ねらわれた学園」そしてこの尾道三部作で当時僕ら世代には忘れえぬ映画作家の一人となった。変わった映画を撮る監督、若手女優好きな監督、いろんな評価があるけれど、古き良き日本の風景や情緒を大切に思う作風が多くの人に支持されたのだと思う。
監督作最大のヒット作「時をかける少女」。角川映画リアルタイム世代なので、僕も公開当時に観ている。プロデューサーの角川春樹は、原田知世の最初で最後の主演映画にするつもりだった。当時人気があったアイドルの路線とはちょっと違うから、きっと長続きすることはないと考えていたらしい。映画デビュー作にして花道にしてくれ、という映画化企画を持ちかけられた大林宣彦監督。昔からの風景が失われ始めたことを残念を思っていた故郷尾道をロケ地に選び、思い入れのある古くからの風景を映像に刻み込んだ。可憐な少女をヒロインに好きなことを映像に詰め込んだ。これはある種の開き直りだったのかもしれない。
大林監督は実験的な映像や編集を持ち味としていた人だが、尾道三部作の他の2本と比べても「時かけ」に注ぎ込まれたテクニックや映像の冒険は強く印象に残る。少しずつモノクロに色が付いていく場面、ホラー映画のような地震の予兆の演出、静止画がつなぎ合わされたタイムリープの場面。ラストシーンでは、ヒッチコックの「めまい」と逆のドリーズームを用いる。カメラが捉えたヒロインの大きさは変わらないのに、背景だけがグッと遠くになっていく撮影手法。遠ざかる背中がさらに遠のいて、ただでさえ切ないラストシーンをより鮮明なものにしている。見事だ。
そしてミュージックビデオのようなエンドクレジット。あの頃はこの場面をやりすぎだと感じていた僕だが、今改めて見ると現場の楽しさが伝わってくるような幸福感がある。ヒロインの部屋に飾られた「オズの魔法使い」のポスターは、舞台が尾道だけに小津安二郎をかけてるのでは、と勝手な推測までしてしまう。この映画には愛が溢れている。
しかしながら、僕は不勉強なことに大林宣彦監督作はまだ観ていないものが多い。監督が遺したメッセージを少しずつ追いかけてみたいと思う。御冥福をお祈りします。