◼️「キネマの神様」(2021年・日本)
監督=山田洋次
主演=沢田研二 菅田将暉 寺島しのぶ 宮本信子 永野芽郁 北川景子 野田洋次郎
最初に申し上げておく。淀川長治センセイの解説映像を切り貼りしたCMを制作したことに、心底怒りを感じた。ネガティブな気持ちは、なるべくネットにアップしないことを心がけているが、
「これはやりすぎ。故人の発言をつなぎ合わせて、本編を褒めてるかのような印象になりかねない。映画愛と作品へのコメントは別もの。」
と思わずツイートしてしまった(RTが僅かだったのにニュース記事に引用されたのには焦った💦)。正直もう観るまいかと思ったのだが、原田マハの原作は泣きながらページをめくっていただけに、やっぱり気になって鑑賞。
さて。登場人物の設定だけいただいて後はまったく別の話になっている、とは聞いていたけどほんとに別な物語。原作が描いているのは、感想を語り合う中で毒舌外国人ブロガーとの間に芽生える友情、シネコン事業の拡大が失わせていく下町映画館の文化、そして家族の再生物語。鑑賞者側の視点であり、
"キネマの神様は映画館にいる"
というものだ。山田洋次監督による今回の映画化は、松竹撮影所が繋いだ男女の青春物語とその懐古、そして家族の再生物語。映画の神様は若き日のゴウが書いた脚本のタイトル。そして、
“カットとカットをつなぐとそこに神様が宿る"
という製作者側の視点が添えられている。
原作で用いられている要素は、2020年代では確かに古い。映画の感想をブログで書き綴る人も絶滅危惧種になりつつあるし(汗)、乱立したシネコンもそのうち淘汰の時代が来るだろう。なので、山田洋次監督が撮影所時代の青春物語に舵を切ったのも、シネコン事業によって下町の映画館が陥る危機をコロナ禍に置き換えたのも、気持ちは分からなくはない。
若きゴウの奮戦記や、テラシンと淑子との三角関係はもっとじっくり観たかった気もする。それでも、短いながらもパンチのあるシーンがあり前半はまずまず好印象。永野芽郁が「余計なお世話ですっ!」と言い放つ場面も、撮影所での生々しい会話も、北川景子演ずるスタア女優も素敵だ。後半、現代パートの家族物語は松竹映画らしい安定感で、わかっちゃいるんだけど心を揺さぶられてしまう。
出演予定だった志村けんがどうしても頭をよぎる。沢田研二が意識的に志村けんに寄せて演技しているからなおさら。あー、ここで「怒っちゃやーよ」とか言うんだろうなとか思ってしまう。何よりも"あの歌"はやめて欲しかった。そこで沢田研二が観たかったんだよ。「カイロの紫のバラ」の露骨な引用はけっこうだけど、バスター・キートンから思いついたんだ、というネタばらしは余計なお世話です。
映画『キネマの神様』【特報】大ヒット上映中!