◼️「フェーム/Fame」(1980年・アメリカ)
監督=アラン・パーカー
主演=アイリーン・キャラ バリー・ミラー ローラ・ディーン ポール・マクレーン
アラン・パーカー監督の音楽ものは大好物なのにこれまで何故か観ていなかったのが「フェーム」。実は何度か挑んだのだけど途中で放棄していた。映画館で集中できていたらこんなことはなかっただろう。BSPの録画でやっと全編通しで観ることができた。
音楽、ダンス、演劇を学ぶ芸術専門学校を舞台にした青春群像劇。入学してからの4年間、登場人物それぞれのエピソードを断片的に繋いだ130分。確たるストーリーがあるわけでもないのだが、それらは確実に彼ら彼女らの成長を刻み込んでいる。スクリーンのこちらから僕らはそれを見守る役割だ。
今まで途中で投げ出していたのは、4つの各パートに収められたミュージカルシーンが圧巻で、そこでお腹いっぱいになってしまったからだ。中でも最高なのは、1年生パートに登場するHot Lunch。学食には昼休みも楽器を手にする音楽科の学生たち、身体を動かし続けるダンス科の学生たち、演じることをあれこれ考え続ける演劇科の学生たちで大混雑。ドラムの学生がテーブルで刻みはじめたリズムに演奏がどんどん重なり、みんなが踊り出す。ダンス科在籍の女子(のちに「フラッシュダンス」が大ヒットするアイリーン・キャラ)がボーカルに加わり、即興で学食のおばちゃんのことを歌う。サイコーの場面。この一体感がたまらなくカッコよくて、ここばっかりYou Tubeで何度も観てしまう。1984年頃にオンエアされてたコカコーラのCMに、学食で演奏が重なっていくゴキゲンな(死語)作品があるけれど、「フェーム」のこの場面がルーツにあるんじゃないだろか。
2年生パートでは、この年のアカデミー賞を受賞した主題歌Fameが流れて、学校前の道路を塞ぐ大群衆の乱舞が展開される。シンセサイザー弾き男子が、ダンス科のアイリーンと作ったディスコチューン。「息子が作った曲だ!」とイエローキャブの屋根に付けたスピーカーから大音量で流す親バカっぷりが、今の年齢で観るとクスッと笑える。当時解散前だったピンクレディーが日本語カバーした曲でもあるな。
入学試験の導入部で各キャラクターを印象づけるのも面白い。人種も、生まれも、育ちも、性的嗜好も、家庭状況も様々な学生たち。映画製作に人種的な配慮が必要とされる現在でも十分に通用するストーリー。テレビシリーズ、2000年代にはリメイク映画も製作されている。子離れしない母親の鬱陶しさ、字が読めないことを隠す黒人男子、ゲイ男子をめぐる三角関係、それぞれが抱える悩み。チャンスをモノにできなかった先輩、ショービズに憧れる彼らに投げかけられる甘い言葉と厳しい現実。
途中で観るのを投げ出した時は散漫に感じたエピソードの断片。これが年次が進むうちに絡み合って新たな物語へと向かうのが心地よい。これは短いカットで過剰な演技をさせまいとしたアラン・パーカー監督のやり方なんだろう。巧みな編集で繋がれて一つの成長物語へとなっていく。それらは学校だからつながる人間関係。自分はそんな時代に繋がった関係を大事にできてるんだろうか。おっさんはついそんなことを考えてしまうな。
そんな彼ら彼女らが迎える卒業式。全員で演奏して歌うI Sing The Body Electricが感動的。♪We will all be stars と結ばれる歌詞は、後に「フットルース」でも場面とリンクする歌詞を手がけたディーン・ピッチフォードの手による。彼ら彼女らの全員が将来スターと呼ばれるわけではない。でもそこを目指して頑張ってきたみんなを今は讃えたい。前途はわからない。だからこそ胸にくる。